第49話 他人の金で買い物

「ハァー」


 常宿のテラスで、深いため息を吐き、マヤはテーブルに突っ伏した。


「そう落ち込むなよ、マヤはよくやったって」

「でもリアルだったらアレで死んでた訳でしょ?」

「リアルであんな状況なりたくないよ」

「盾も失くなっちゃたし」


 マヤは手持ち無沙汰な左手をグーパー握ったり開いたりしている。


「それならセレナーデさんが懇意にしてる武具屋を紹介されたよ」

「ホントに!?」


 ガバッと起き上がったマヤ。立ち直りが早いというか変わり身が早いというか。


「ホントもホント。しかも払いは冒険者ギルド持ち」

「マジかー」

「何か、オレたちがやったことはそれだけの仕事だったらしいぜ?」


 アキラ曰く、トレシーでのゴブリン討伐は、レイド戦と呼ばれるものらしい。

 レイド戦とは複数のパーティーやクランが参加して行われる、大規模戦闘のことだそうだ。まあ確かにブルースの催眠ラッパがなければ、オレたち全滅だった可能性の方が高い訳で、あの戦闘をマヤ一人の犠牲で切り抜けられたのは、運が良かったとしか言いようがない。

 勿論その見返りの報酬は相当なものだったが、それでもいくつものパーティーやクランに支払うよりも安くついたので、武具の新調代という追加報酬がプラスされた。


「良し! 早速行こう!」

「はいはい。二人も行こうぜー」


 どこにあるかも分からないのに先頭で出ていくマヤの後を、オレと飯をがっついてたマーチ、ブルースで追いかけた。



「おお! 色々ある!」


 武具屋に入ると、武器や防具が整然と陳列されていて、何が良いのか分からないが目移りしてしまう。

 早速大盾を見に行ったマヤを尻目にマーチとブルースに声を掛ける。


「二人も何か気になったものがあったら遠慮なく言ってくれ」

「はあ」


 なんとも間の抜けた返事だな。なので、


「ここの払いはセレナーデさん持ちなんだよ」


 と耳打ちすると、二人の顔がニヤリと悪い顔になった。


「私、今までナイフだったけど、短剣に換えようかと思ってたのよね。この間の戦いで人形の服もボロボロになっちゃったから新調したいし」

「ラッパは売ってないのか?」

「さすがに武具屋だからな。でも楽器屋に行って領収書もらってくれば、払いはセレナーデさんになるはずだよ」

「ちょっと楽器屋に行ってくる」


 と走って楽器屋に行ってしまったブルースを見送り、オレも自分の武具を選び始めた。



 鋼の剣に鋼の槍、鋼の全身鎧と、どうやらこの店は鋼の製品が多いらしい。近くに鉄の鉱山でもあるのかも知れない。

 でも武器としては赤狼牙のナイフがあるからなあ。予備の投げナイフを買うか。

 それと防具だな。小手と脛当てを鋼製に交換して、こんなもんか?

 そう思いながら物色していると、ファーの付いたカーキ色のジャケットコートって感じのものが目に入った。


「お客様お目が高いですね」

「?」


 今まで好きに見せてくれていた店員さんが話し掛けてきた。


「それは北のカルトランドからの輸入品でして、この国では珍しい、魔法の付与された逸品となります」


 ほう。魔法の品なのか。


「丈夫で防御力は勿論のこと、防寒防熱にも優れた逸品でございます」


 へぇ。しかしグイグイくるなぁ。本当に優れた逸品だからなのか、それとも売れ残りだからなのか。オレは値段を見てみる。う〜ん、うわっ、たっけーな! こりゃ良くても売れねえや。しかし今のオレなら、


「買います」

「ありがとうございます」


 何故かオレと店員さんは固い握手をしていた。



 ブルースはラッパを新調し、マーチは自分と人形用の服と短剣を、マヤは大盾に胸鎧も鋼製に替えた。そしてオレは小手に脛当て、投げナイフに魔法付与のジャケットコートを手に入れたのだった。

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