第48話 殲滅戦

「ギイイッ!!」


 ゴブリンリーダーの号令で、ゴブリンたちの攻撃が始まった。

 矢が雨のように大量に降り注ぐ中、風魔法が突風を呼び、オレは立っていることもできない。


「大丈夫?」


 跪くオレの前を、軽々と特注の銅の大盾で護ってくれるマヤ。頼もしい。その後ろ姿に惚れそうだぜ。

 などといってる場合ではない。他の三人も風魔法で体勢を崩され、矢を払うのがやっとだ。退却どころじゃない。

 そうこうしているうちに、ゴブリンリーダーの指示の元、ゴブリンたちは三班に分かれる。

 一つはそのままその場所で矢や風魔法をオレたちに浴びせる部隊。もう二つは直接オレたちを攻撃する遊撃隊だ。

 それぞれ手に剣や槍や斧を持ち、二手に分かれて左右からの挟撃である。

 このままでは不味い。オレは風にも負けないように銅の投げナイフを風魔法使いに撃ち出す。

 ザクッと一匹の頭に当たると、場が混乱して魔法も矢も止んだ。練度は高いが一度攻撃を食らうと脆いようだ。


「ギイイッ!!」


 しかしそこをしっかり締めるのがゴブリンリーダーだ。

 リーダーが一声掛けると巣の中から盾持ちがわらわらと出て来て、魔法使いと弓矢使いを防御する。


(面倒臭いなぁ)


 と感じていると、横からラッパの音が響き始める。今の一瞬で体勢を立て直したブルースが吹き始めたのだ。

 ブルースの催眠ラッパの音色を聴いてバタバタと倒れていくゴブリンリーダーを始めとしたゴブリンたち。オレたちも聴いてて大丈夫なのかと思ったが、このラッパの能力は指向性が高いらしい。聴いてて大丈夫だった。

 だが指向性が高いのがアダになった。左右から挟撃してくる遊撃隊は誰も眠っていないのだ。


「ハッ!」


 だが見える場所からの攻撃に、しかも弓や魔法の援護無しに怯むほどこちらも軟弱じゃない。マーチ、ブルース、セレナーデさんは右手のゴブリンたちを、オレとマヤは左から来るゴブリンたちを相手取る。

 乱戦になる中、オレはマヤの後ろに隠れて、礫弾で応戦。ブルースも前衛として戦うマーチの後ろから、ラッパで超音波をぶつけるという変わった技で応戦し、セレナーデさんはその細身の剣で見事にゴブリンたちを切り刻んでいく。何か男二人が女の陰に隠れて戦うとかカッコ悪いとは言ってられない。皆必死なのだ。


「マヤ」

「何よ?」

「いつの間に斧なんて使えるようになったんだ?」

「修練場で覚えたに決まってるでしょ」


 今まで攻撃はグーパン一筋だったマヤが、今右手に持っているのは手斧である。盾でゴブリンの攻撃を防ぎ、手斧で一撃の元に屠る。なんというか、狂暴さが増したなぁ。


「リンこそ、前より全然動けてるじゃない?」

「そう?」


 と言いつつオレは、マヤの盾を掻い潜り迫る一匹のゴブリンの攻撃をひらりと避けると、その頭に銅貨をぶち込む。


「いやぁ、あの方法試してから、なんかリアルでも体か軽い気がするんだよねぇ」


 とか言いつつ、また一匹のゴブリンにズドン。


「お互い、強くなってるみたいね」

「ああ」


 こうしてオレたちはなんとか遊撃隊を全滅せしめたのだった。



 ブルースに眠らされているゴブリンたちに近付き、一匹一匹にトドメを刺していく。何か寝込みを襲うって悪党っぽいけど、こいつらをこのままにしていたら、要らん不安要素を残すことになるのだ。だから確実に仕留める。


「後はこいつだけか」


 と寝ているゴブリンリーダーに近付いたときだった。いきなりゴブリンリーダーは立ち上がり、ファイアボールを投げつけてきたのだ。


 ドゴンッ!


 凄い熱と爆風に目を覆うが、収まってみるとこれといって怪我も火傷も無い。と前を見れば、マヤがオレたちとゴブリンリーダーの間で大盾を持って立っていた。

 マヤの大盾に救われた。と思った瞬間。マヤの大盾が壊れ、マヤ自身も持ち物を残してスウッと消えてしまった。ゲームオーバーだ。


「ギイイッ!」


 オレたちを一網打尽にできず悔しがるゴブリンリーダー。はは、ふざけんなって感じだ。オレの投げナイフは一直線にゴブリンリーダーの頭骨を貫通していた。



「はあ、終わりか」


 オレはマヤの装備をポーチに回収しながら呟く。


「まだ早いわ。巣の中のゴブリンを全滅させてからよ」


 深いため息を吐いても仕方ないと思う。


「そっちはオレたちがやっておく。リンは休んでてくれ」

「あなたたち……」


 そう話すブルースとマーチに、セレナーデさんは何か一言あるっぽいが、オレの知ったこっちゃない。という訳にもいかないか。


「じゃあ、戦闘は任せるけど、オレとセレナーデさんも付いて行く」

「…………それで構わない」


 巣であろう洞穴の中にも、わらわらとゴブリンがいたが、皆ブルースの催眠ラッパでお寝んねである。そこをマーチが人形と共に処理していく。


「子供のゴブリンはいないですね」

「ああ。普通の魔物は幼体を作らないのよ」


 とセレナーデさん。そういや魔物って魔核と素体でできてるんだっけ。でも確かゴブリンは二匹以上になると子供ができるって言ってなかった? とマーチを見やる。


「ゴブリンが二匹以上集まると、魔核同士が共鳴して新たな魔核が生まれ、ドンドン数を増やしていくのは本当よ。それを子供を増やすを私たちは言っているの」


 なるほど、仕様かな?


 最奥まで行くと、そこには小さなダンジョンコアがあった。


「やっぱり、ダンジョンコアまでできていたのね」

「やっぱり…………ですか?」

「ゴブリンの巣は一定以上大きくなると、そこに誰かがダンジョンコアを置いていくのよ」


 誰かって誰だよ。これも仕様ってやつなのだろうか?



 かくしてダンジョンコアの回収も済み、オレたちのゴブリンの巣の偵察と言う名の殲滅戦は終わった。

 マヤはトレシーの教会で復活し、その装備も返却したが、その大盾は造り直しとなってしまった。

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