第47話 巣

「何で私ら集められたの?」


 鋼の胸鎧を着た女剣士を見ながら、マヤが横のオレに話し掛けてくる。


「ゴブリンが出たんだ」

「はあ……?」


 うん、分かってないね。


「肌が緑色した人間の子供ぐらいの小人の魔物なんだけど」

「へぇ」

「スゲエ知恵が回るんだよ。これが」

「そうなの?」

「ああ。パーティー組んで攻撃してくるんだぜ?」

「それは厄介ね」

「しかも周りの話じゃ、そんなやつらがまだ大勢控えているらしい」

「なるほど。んで、何で私ら?」


 今ここにいるのは、オレとマヤ、マーチにブルース。そしてギルマスである女剣士の、


「セレナーデよ。セレナでいいわ」


 だそうだ。


「あなたたちに集まってもらったのは、事実確認と偵察よ」

「はあ……?」


 ひとり分かってないって顔のマヤ。ブルースはマーチからゴブリンが出たと話を聞いたとき、一も二もなく飛び付いてきたぐらいだが。多分それがよそ者とこの街で長年住む人間との違いなのだろう。


「ゴブリンの第一発見者がオレとマーチなんだよ。だからそこを中心に、できればゴブリンの巣を見つけたい。ってのがセレナーデさんの思惑。本攻撃は領主から討伐の沙汰が出されてから、冒険者ギルドのメンバー全員でやるそうだ」

「ああ、やっと理解できたわ」


 得心顔のマヤを見てセレナーデさんが頷く。


「では、皆が納得したところでマーチ、案内してくれ」

「…………分かった」


 なんだか不服そうだなあ。ブルースもちょっと嫌そうだし、過去に何かあったのかねぇ。


「ちょっと、二人にちゃんとご飯食べさせてるの?」

「なんだよいきなり?」

「だってなんか機嫌悪そうじゃない?」


 マヤでも気づくレベルか。しかし機嫌悪い=空腹って。


「オレじゃねえよ。多分あの三人、過去にゴブリン関係で何かあったんだと思う」

「何かって?」

「オレが知る訳ないだろ」


 なんだか不協和音に包まれたまま、五人でゴブリンの出た南東の林に向かった。



「ここか。ん? 血溜まりがあるが、これは?」

「ああ、それは鹿のものです。オレたちここで鹿狩りしていたので」

「なるほど。鹿狩りの途中に襲われた訳か」


 言いながらセレナーデさんは、茂みをガサガサと何か探し始める。マーチとブルースも同じだ。ガサガサ茂みを分け始めた。


「なにやってんのアレ?」

「さあ? 探し物?」


 マヤに聞かれたが分からない。が雰囲気的に分からないままにしておけない感じがして、オレはセレナーデさんに声を掛ける。


「すみません、なにやってんすか?」

「ん? 痕跡を探しているのよ。弓手や魔術師が茂みに隠れてたりしたのだろう?」

「はあ?」


 言われたからって、じゃあお手伝いします、って感じにもならないな。

 オレとマヤがしばらくボーっとしていると、


「あった!」


 とマーチの声が響く。鹿の血溜まりから7、8メートルはある茂みからこちらへ手を振っている。あんなところから狙い撃ちされたのか。器用さも高そうだ。

 残る四人でそこまで行くと、「ほら」とマーチが見せてくれたところには、茂みに隠されるように草を踏み締めて足場を作った形跡が確かにあった。こんなのオレ見つけられないぞ。


「なるほど。ここにいたのは確かなようだ」


 セレナーデさんが痕跡が見つかったことに頷いていると、


「まだ疑ってたのかよ!?」


 と食って掛かるブルース。

 おいおい、過去に何があったか知らんが穏やかじゃないぞ。


「ブルース落ち着け。セレナーデさんだって「無い」と疑ってた訳じゃないって」


 オレの言葉に少しだけ冷静になったブルースだが、まだセレナーデさんを睨んでいる。


「それでこれが見つかったらどうなるんですか?」


 オレは話の軌道修正をする。


「ああ。これがあると言うことは、こちらの方向に奴らの巣がある可能性が高いと言えるんだ」

「はあ、そうなんですか?」

「弓手も魔術師も、体力も攻撃力も低いからな。恐らく本能的にすぐ逃げ込めるように巣に近い方に陣取る奴が多いんだよ」

「じゃあ、この向こうに……」

「ああ」


 オレたちが覗く林の奥は、更に鬱蒼として暗くなっていた。



 林の奥は緩やかに半分崖の登り坂となっていた。だがオレたちはそこを登る訳じゃなかった。崖の方を下って行ったのだ。そしてその先に、


「ウソだろ?」


 村があった。ゴブリンの村が。

 木陰に潜み覗いて見ると、崖には横穴が開いていて、巣はその中だと思われるが、その前で火に鍋をかけて煮ていたり、砥石で剣を研いでいたりと生活感が出ている。数にして50匹は下らない。巣の中には後何匹いるのか分からない。

 オレたちが観察していると、巣の中から一際大きなゴブリンが出てきた。


「ゴブリンリーダーだな」

「ゴブリンリーダー?」

「あの群れの長だ」


 なるほど。

 ゴブリンリーダーが岩の台に登ると、周りのゴブリンから歓声が上がる。

 そしてそこに、他のゴブリンに引きずり出されるようにして連れてこられた一匹のゴブリン。そいつには見覚えがあった。


「オレを襲った刃物持ちで一番デカかった奴だ」


 そしてオレが唯一攻撃を与えた奴。

 ゴブリンリーダーがそいつを指差すとまた歓声が上がる。

 何かが始まる。その予感にオレたち五人が固唾を飲んで観察していると、ゴブリンリーダーが怪我をしたゴブリンに手をかざす。

 すると手の先からバスケットボール大の火の玉が現れ、怪我をしたゴブリンに飛んでいく。他のゴブリンに抑えつけられて動けないゴブリンに火の玉は直撃し、ゴブリンは全身を燃え上がらせた。


「なんだよアレ?」

「ファイアボールよ」


 セレナーデさんは巣の方をじっと見つめたままそう語る。


「ファイアボール」

「火魔法でも威力の高い魔法を、まさかゴブリンが使うなんて」


 マグ拳ファイターの世界ではヤバい魔法であるらしい。何せ丸焼きだからな。


「とにかく、巣の場所とゴブリンリーダーのことが分かったのはラッキーだったわ。この場から退散しましょう」


 全員頷き合い、その場を立ち去ろうとした時だった。


「ギイイイイイイイ!!」


 オレたちのすぐ近くで、ゴブリンが声を張り上げたのだ。

 巡回偵察とか、ホント練度高ぇな。そう思いつつオレは手に握っていた銅貨の一つをゴブリンの頭目掛けてぶつける。それだけでゴブリンは魔核と素体に分解された。

 しかし、巣の方を振り返れば、巣の前にいたゴブリン全員にオレたちの位置はバレバレだった。

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