第36話 ミーティング
「困ったな」
アインスタッドのダンジョンのものより更にでかいダンジョンコアを前にオレはそう呟いた。
いや、ダンジョンコアを持って帰ることは問題ない。アインスタッドを出る時に容量2倍のポーチに買い替えてあるから。オレが問題にしているのはそこじゃない。
「ホントに困ったわよねえ」
「ああ。この調子で進むと、銅スライム一匹につき投げナイフが一本ダメになってしまう」
銅スライムに突き刺さったオレのナイフは、短時間での極低温化に加え、空気に触れる状態でバフを行わざるえなかったため、錆びてボロボロになり使い物にならなくなっていた。
「そこ!? いや、そうじゃないでしょ!? 私が心配してるのは帰り道の話よ!」
ああ、そっちか。確かにマッピングが上手くいかずにオレたち迷子になってたんだった。
「一応、ただ帰るだけなら最終手段はあるけどな」
「何よ、あるんじゃないそういうの。今すぐ教えなさい」
ハァー。なんとも現金なマヤの態度にため息せざるえない。
「簡単だよ。ログアウトすればいいんだ」
「! そうか! ログアウトしてまたログインすれば、教会から再スタートになるんだ!」
オレの考えに得心したマヤは早速ログアウトを試みようとするが、ウインドウのログアウト画面で動きが止まる。
「な? 最終手段だって言ったろ?」
他者のウインドウは覗けないが、何が書いてあるのかは知っている。何故ならここに来るまでにオレも試したからだ。ウインドウのログアウト画面にはこう表示されていた。
『ダンジョンでログアウトした場合、ダンジョン内で獲得したアイテム、ビットは全て無かったことになります。それでもログアウトしますか?』
固まったままのマヤは放置し、オレは先にこの鉱山のダンジョンコアを回収する。
「ねえ?」
「なんだよ?」
「これ、今ログアウトしたら壊れた盾が復活してるとかないかな?」
「ないだろうな」
現実とは時に非情なものなのだ。オレたちが鉱山を出られた時には、リアルでは深夜12時を回っていた。
「レベルアップが必要だと思うの」
翌日。ひとまず東の鉱山とその一帯から魔物が一掃されたことで、街がすっかり浮かれムードになっている中、マヤは飯屋と言うより酒場と言った雰囲気の店で、硬い鹿肉のステーキをいつまでも口に入れたまま、そう語る。
「レベルアップねえ」
同じく鹿肉のステーキをくっちゃくっちゃさせながら相づちを打つ。しかしこの鹿肉噛み切れねぇな。味付けも塩だけだし。胡椒が手に入らないのは分かるが、せめて香草を使うとかなかったのだろうか? アキラが飯が不味いと言っていたのが分かる。
「それでどうするんだ? 山籠りでもするのか?」
鉱山だけに。
「鉱山だけに、ってオイ!」
あ、一応ノリ突っ込みしてくれるんだ。あざーす。
「真剣な話、私らダンジョンコアのところにいた銅スライムにほぼほぼ敵わなかったじゃない?」
確かに。実力と言うより運で切り抜けた感は否めない。
「まだ二番目の街なのよ? この先の冒険を考えると、今の私たちのレベルじゃやっていけないわ」
マヤに言われるまでもなく、オレだってそれくらい分かっている。しかし、
「だからって、悠長にオレたちがレベルアップするのを待っててくれるほど、今のこの街に余裕がないのも事実だ」
オレの言葉に嫌なとこ突かれたって顔になるマヤ。
この街には余裕がない。銅鉱山は閉山となり、多くの人が去っていったことだろう。それでもこの街に残った住人たちが、なんとか生きていこうとした矢先、閉山となった鉱山から魔物が溢れ出してきたのだ。踏んだり蹴ったりの上、助けを呼んでも誰も来てくれない。そこにオレとマヤが現れたのだ。彼らにしたら地獄に仏、溺れる者の藁なのだ。
オレたちが今やるべきことは、悠長なレベルアップではなく、速やかに残る北と西の鉱山のダンジョンコアを排除する事だ。戦いとしてはギリギリだが、レベルアップのことはそれから考えれば良いだろう。
「それは、…………そうだけどさぁ。何かないの? 短期間にレベルアップする方法」
オレ任せかよ! そんなのあったらこっちが聞きてえよ! いや、待てよ。
「あるかもしれない」
オレの見出だした光明に、マヤの瞳がギラリと光る。
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