第35話 ケンカ

「ブモオオオオオオ!!」


 下顎からぶっとい牙を突き出した巨大なイノシシが、こちらを威嚇している。


「何で坑道の奥にイノシシが!?」

「は? 今そんなの関係なくない? 単に仕様でしょ?」


 いちいち突っ掛かってくるなよな。


「そりゃ仕様だろうけどさ、今までの魔物は森とか川とか、その生態系に則した魔物が現れた訳じゃん。ここに来てイノシシは生態系的にちょっとズレててオレ的にはイマイチな訳よ」

「細かい男……」


 カッチーン。


「ガサツ女が」

「はあ!? 誰がガサツよ!?」

「お前だよ! オレの目の前にいる、お・ま・え!」

「リンが細か過ぎるだけでしょ!? いっつもぶつぶつぶつぶつ、あーじゃないかこーじゃないかって考え過ぎなのよ!」

「なんだと!?」

「なによ!?」

「ブモオオオオオオ!!」

「「うるさい!!」」


 突進してくる巨大イノシシに、オレは投げナイフ10本全てを、マヤはその怒りに任せた拳を奮う。

 それだけで巨大イノシシは魔核と毛皮へと姿を換えたのだった。


「ね、言ったでしょ。考え過ぎなのよリンは」


 そうなのだろうか?

 あっさりやられた巨大イノシシの魔核と毛皮をポーチに回収しつつも、オレは首を傾げずにはいられなかった。



 更に奥に進むと隠し扉があり、ダンジョンコアの置かれている大広間に出た。そこで姿を現すのはゴーレムのようなガーディアン…………だと思っていたのだが、現れたのはスライムだった。


「スライムよね?」

「スライム………だと思う。でもあの銅茶色、もしかして銅でできてるのか?」

「それって動けるの?」


 とマヤが疑問を発した次の瞬間、マヤの大盾目掛けて銅茶色のスライムが凄い速さで跳躍してくる。


 ガギイィンッ!!


 金属と金属がぶつかる凄い音が至近距離で響いて頭がクラクラする。

 盾に一撃食らったマヤはそれどころじゃない。不意打ちとはいえバフで強化されているというのに、堪えきれずに地面に膝を付く程の一撃だった。


「大丈夫か?」


 オレは膝を付いたことでスライムから隠れた形になったマヤに便乗するように、マヤの側による。


「なんとかね。でも盾をへこまされたわ」


 見れば裏側からでも分かるぐらいに盾が変形していた。


「マジか……」

「でも、これで確定ね。あのスライム、銅でできてる」

「さすがは銅鉱山の番人だな」

「それで? 頭の良いリンくんは、何か策が思い付いたのかしら?」


 閉口するオレ。とりあえず銅貨を飛ばしてみるが、キィンと音をさせて弾かれてしまった。

 う〜む。困ったな。銅の塊を倒す方法なんて知るわけない。マヤも疑問に思っていたが、そもそもあいつ何で動けてるんだ?

 銅スライムの動きはかなり流動的で、ブニョンブニョンと弾み、その反動で攻撃してくる。

 オレが沈考している間も、銅スライムはガンガン攻撃を仕掛けてきていて、新品だった銅の大盾はベコベコになっている。このままだと5分と持たなそうだ。

 くっ、オレが覚えたのが引斥力じゃなくて電磁力だったら…………そうか!


「分かった」

「え?」

「魔法だ。基礎魔法の一つのエフェクトで銅を弾力性があるように変えたんだ! だからあのスライム動けるんだ!」

「それが今分かったからってどうなるっていうのよ!?」


 確かに。あと銅に有効な手段は…………、


「冷やす?」

「冷やす!? 氷も無いのにどうやって冷やすっていうのよ!?」


 確かに氷は無い。だが冷たい銅貨なら大量に持っている。それに水に簡単な料理用に塩もある。氷点下まで下がる塩水にバフを掛け、熱伝導性の高い銅を冷やせば、氷点下まで下げられるじゃないだろうか? そうだ、どうせなら投げナイフでしよう。そちらの方が攻撃力が高そうだ。

 オレは、必死に銅スライムの猛攻を耐えるマヤを尻目に、実験を開始する。

 まず水の入った水筒に塩を入れて良く振り塩水を作り、それをナイフの刀身に掛け、バフを掛けると、ちょっとでも早く熱を下げるように手で扇いでいく。


「だ、大丈夫なの!?」

「今頑張ってる」


 マヤの大盾が銅スライムに壊されるのが先か、オレの超低温ナイフができるのが先か、チキンレースになっていた。そして、


 ガギイィンッ!!


 マヤの銅の大盾が砕けたのとオレの超低温ナイフが完成したのは一緒だった。

 銅スライムが次のステップに入る瞬間、オレのナイフは銅スライムにぶち当たり、銅スライムを凍結させ、その身を魔核と素体である大量の銅へと換えたのだった。


「ハァー、やったわねリン! …………おーいリンさーん? どうかしたの?」

「おかしい。魔核と素体の銅の総量が銅スライムの体積より多い」

「ホント細かい男ね」

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