第34話 迷子
ドシュッ!
鉱山への道すがら、大ネズミの眉間をオレの銅貨が貫き、大ネズミは魔核と素体だった
それを回収しながら、オレはふと疑問に思ったことを口にした。
「なあ、ツヴァイヒルで銅鉱山が枯渇したってことはさ、物価って上がるのかな?」
「はあ? いきなり何言ってるの? そんなこと…………あり得るの?」
オレの疑問にマヤも首を傾げる。
このゲームはRMTで実際のお金がやり取りされているのだ。物価の上昇だってあり得ないことはないだろう。
いまだに物価が上がってきたという話をアキラの口から聞いたことはない。ということは銅貨として国内に回せるぐらいには銅の貯蓄があるのか、他にも銅鉱山があるのか、外国から輸入というケースもあり得るが、それだと小銅貨=約1円で卸すのは厳しいと思う。
「プレイヤーが大量に掘り起こした銅を、国が買ったんじゃない?」
なるほど、その線もあるのか。それだと市場に大量に銅貨が出回ることになって、一時的に物価が下がってる可能性もあるな。
「銅鉱山があるってことは、銀鉱山や金鉱山もあるんだろうなぁ」
「あるんじゃない? でもさすがに場所は隠されてると思うわよ? 信玄の隠し金山って聞いたことあるもの」
ふむ。普通にギルドに持ち込まれる依頼をこなしてるだけじゃ、そういった場所に行くことはないんだろうなぁ。でもゴールドラッシュみたいにすげえ金鉱脈が見つかる可能性も捨てられないか。ゲームの世界でゴールドラッシュとか意味不明なパワーワードだな。
とオレが馬鹿な思索に耽っていると、マヤがスッと手を出してオレの進行を止める。
マヤの視線の先を見れば、坑道の入り口がポッカリ口を開けていた。
「着いたか」
「ええ」
「坑道の中はプレイヤーが無計画に掘り進めて、迷路みたいになってるって話だ。順路を覚えておかないと、入ったが最後、出てこれなくなるってよ」
オレはポーチから紙とペンを取り出し、マッピングの準備を始める。オレとマヤは黄の庭で一度盛大に迷っているので、この手のダンジョンには慎重にならざるえない。
坑道の中はそれこそ迷路、しかも立体迷路だった。
しかも魔物が出るわ出るわで戦いながらマッピングをしていると右に左に上に下に走らされ、さらに坑道の中限定で咬まれると一定時間しびれて動けなくなる大ムカデまで出てきて大変だった。そしてオレたちは、
「迷ったな」
「迷ったわね」
今、途方に暮れている。
「マッピングはリンの役目でしょ!」
「仕方ないだろ! あんなに次から次に魔物が出てきたら、マッピングしてる時間なんて無いっての!」
まあ、いがみ合ってる場合じゃないので互いに矛は納めるが。
「で、どうするのよ?」
マヤの言葉に険がある。いや、怒るなオレ。冷静に冷静に。
「帰りのことを考えなければダンジョンコアまでたどり着くことは多分できる」
「その帰りが心配だっての」
くっ、怒るなオレ。
「そこはもう、最悪自害だな」
「はあ!?」
マヤが信じられないものを見る目で睨んでくるが無視だ!
「行くぞ、ほら」
「出られなかったら覚えてなさいよ!」
オレがとった作戦は、オレたちに近付いてくる魔物に向かって突進していく。という実にシンプルなものだった。
何故そんなことをしたのかって? 単純な話、ダンジョンコアが魔物を創り出しているわけで、つまり全ての魔物をたどっていくと、ダンジョンコアのところに到達すると考えたからだ。
坑道までの道のりと違い、互いに全く話をせずにまるで作業のように黙々と魔物たちを狩っていくオレとマヤ。しかしてリアルの時間で一時間後、オレたちはボス格、赤の森で言えば赤狼のような存在、オレたちの倍はある身の丈の巨大イノシシと対峙していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます