第33話 ツヴァイヒル
「というか、オレたちはその鉱山の魔物を退治するためにツヴァイヒルへ向かっていたのだが?」
「ほ、本当ですか!?」
アキラからもハッサンさんからも、ツヴァイヒルのダンジョンは鉱山の坑道だと情報を受けている。彼らが言う、魔物が溢れかえる鉱山で間違いないだろう。
オレとマヤが揃って頷くと、一斉に喜びの声を上げる山賊いや鉱山夫たち。
「おい! 馬車だ! 馬車を用意しろ!」
こうしてオレたちは幌馬車に乗せられ、鉱山夫たちにツヴァイヒルへと連れられて行くのだった。
「何やってんだいアンタは!」
ツヴァイヒルの街に着いて早々、鉱山夫たちがそれぞれの奥さんたちにシバかれている。まぁ、そうなるわな。
「本当にご迷惑をお掛けしました」
言って何度も頭を下げる奥さんたちに、こっちの方が恐縮してしまう。
「それより聞いてくれ! このお二人が鉱山の魔物を退治してくれるって話だ!」
「本当かい!? ってそんな人たちに向かってなんてことしてるんだい!」
要らんこと言うから。
「でも本当なんですか?」
恐らく今までもSOSは発信し続けてきて、でも誰にも受け取ってもらえていなかったのだろう。奥さんたちの顔には不安が滲み出ている。
「ええ。こちらの冒険者ギルドのギルマスさん? という方からアインスタッドのギルドマスターであるハッサンさんへ応援要請がありまして。それを請けてオレたちここに着たんです」
不安そうだった奥さんたちの顔がパァっと明るくなる。分かりやすいなあ。
「なので冒険者ギルドに行ってギルマスさんから詳しい事情を聞きたいのですが」
「こちらです!」
街人全員に案内されてオレたちは冒険者ギルドへと向かった。
「私がツヴァイヒルのギルドマスター、バンジョーです」
なるほど、ギルマスとはギルドマスターの略だったのか。
バンジョーさんは白髪に口髭のナイスミドルといった感じの顔に、鉱山夫同様筋骨逞しい体躯をしていた。
「ありがとう。本当にありがとう」
ここでもひたすら頭を下げられ話が進まない。
「あのそれで鉱山はどういった状態なんですか?」
「おお、そうでしたな」
バンジョーさんの話では、ツヴァイヒルには北、東、西の三ヶ所に鉱山があり、それぞれの坑道から大コウモリや大ネズミなどが溢れかえり、山野や少ない田畑を荒らしているそうだ。
「坑道の外の魔物は我々街の者で対処しますから、坑道奥のダンジョンコアをどうにかしてください」
そのために来たのだ。オレとマヤは力強く頷いた。
「おお! ではそんな勇敢なあなた方へ、ささやかながらこちらをお贈りいたします」
バンジョーさんが奥から取り出してきたのは、マヤには銅の大盾と銅の胸鎧。オレは銅の小手に脛当て、それに銅製の投げナイフが10本だ。
「大丈夫か?」
「大丈夫よ。練習したもん」
実はマヤはアインスタッドの街で一度銅の大盾を購入している。だがそのときはすぐに錆びさせてしまったのだ。
銅製だからと言っていくらなんでもすぐに錆びるはずがないと思うかもしれない。しかしそこにはバフのカラクリがある。
バフを使えば銅は強化される。しかし強化にはメリットもあればデメリットもある。もし自分の装備を強化するとき、その周りの空間まで強化してしまっていたら?
そう、マヤは銅の大盾を強化したとき、その周りの空気まで強化してしまったのだ。結果、酸素が強化されて銅は酸化。銅茶色だった大盾はあっという間に青緑に変色してしまったのだった。
「大丈夫、ねぇ」
「見てなさい!」
そう言ってマヤは大盾を軽々と持ち上げると、その大盾に魔力を注ぎ込む。
「どう?」
なるほど、確かに一見すると錆は見えない。だがよく見ると、
「ここ、端っこがちょっとだけ錆びてない?」
「ちょっとよ、ちょっと! ほんのちょっとぐらいいいでしょ!? リンが使うんじゃないんだから!」
まぁ、ほんのちょっとの錆びと引き替えに、革の盾より数段防御力は上がったんだ。良しとしよう。
オレとマヤはまず東の鉱山へと向かった。
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