第32話 槍が降ってきた。

 槍が降ってきた。


「いくらゲーム内とはいえ、雪でなく槍が降ってくるとは、やるなマグ拳ファイター」

「いや、攻撃されただけでしょ!?」



 ツヴァイヒルは元鉱山の街らしい。峻厳な山々に囲まれ、その山では銅が採れていたそうだ。

 何故過去形かと言えば、すでに銅を掘り尽くしたかららしい。それもプレイヤーが。

 ゲーム最初期、ツヴァイヒルは加工しやすい銅が採れるということで、多くのプレイヤーが押し掛け、さながら銅バブルと呼ぶべき活況だったらしい。

 しかしバブルが弾けるかのように、ツヴァイヒルの銅鉱山はゲーム開始から3ヶ月で掘り尽くされてしまった。

 残ったのは夢の跡とでも言うべき、穴だらけの望洋とした山々の無惨な姿。

 銅の採れなくなった山に用はないとでも言うように、冒険者プレイヤーはツヴァイヒルから立ち去り、立ち寄る者もいなくなったそうだ。


 アキラ曰く「オワコン」だというツヴァイヒルへと延びる一本道。道の両端は切り立った崖で、オレとマヤはその崖下の谷を歩いていた。

 すると降ってきたのである。一本の槍が。

 槍はオレたちの数歩先に突き刺さり、まるでこれ以上先に進むな。とでも提示しているかのようだった。

 まぁ、槍は地面から抜いてポイッして進んだけど。

 するとそんなオレたちの行く手を阻むように前に立ちはだかったのは、ボロを着た10人程の男たちだった。

 ボロは着ているが皆筋骨隆々で、一見するとオレたちよりも強そうだ。手には皆銅の剣や銅の槍などを持っている。


「お、オレたちは山賊だ! 」

「はぁ」

「い、痛い目みたくなかったら、み、身ぐるみ置いていってもらおうか!」

「はぁ」


 なんというか、初々しい。きっと初めて山賊やるんだろうなぁ。


(どうする?)


 なんだかほっこりしているオレに、マヤが耳打ちしてくる。


(多分魔物じゃなくてNPCだよな)


 NPCと言うのはノンプレイヤーキャラクターの略で、PC=プレイヤーキャラクターの対義語であり、PCがプレイヤーが動かしているオレやマヤ、アキラのような存在に対して、NPCとはハッサンさんやユキさんのようにゲーム内で活動するAIである。いや、魔物もAIなんだけどね。

 とりあえずプレイヤーが山賊のロールプレイをしている訳じゃなくて、この世界で生活している人々が、お金に困ってこんなことをしているのだ。


(NPCだとリポップしないよな)

(魔物じゃないからね)


 それ以前に人を殺すというのが、ゲーム内であっても忌避してしまうが。想像するだけで青くなる。


「お、お前らが悪いんだからな!」

「はぁ」


 何か皆一様にこちらに非があると宣っているが、


(マヤ、一体何したんだ?)

(何で私が何かしたみたいになってるの!? リンの可能性だってあるでしょ!)

(オレは他人にご迷惑をお掛けするような生き方はしていない)

(そんなの、私だってそうよ!)


 まぁ、普通に生きてりゃそうだわな。


(仕方ない)


 オレはマヤの前に立ち山賊と対峙する。


(まさか、殺すの?)

(まさか! ちょっと痛い目みてもらうだけだ)



 山賊全員にグーパンを食らわせた結果、全員土下座で命乞いし始めた。この世界にも土下座ってあるんだ。

 山賊たちの話によると、彼らは元々ツヴァイヒルで鉱山夫として働いていたらしい。しかしプレイヤーによって銅が掘り尽くされてしまったため、仕事にあぶれたとか。それでも山野で魔物以外の動物などを狩って日々の糧としていたらしいが、廃鉱山から魔物が溢れてきてそれもままならなくなり、食うに困った彼らに残された道が山賊だったようだ冒険者によって人生メチャクチャにされたのだから、冒険者から搾り取ってやれ、って感じで同じ境遇の仲間で盛り上がり、今日が初犯だったとか。


「はぁ、悪事の言い訳を自分の外に求めたら、いくらでも悪いことなんてできる。この世は悪事の製造所なのだから。だからこそ正義を貫くことがカッコいいんだ」


 うん、大の大人相手に説教してしまった。皆シュンとしている。今の台詞、好きな小説の一節だったんだけどなぁ。そして、


「マヤ、お前は何故笑いをこらえているんだ?」

「だってリンのパンチ、ちょっと、あれはない。女の子かよ」


 仕方ないだろ! 人を殴ったの初めてだったんだから!

 ちょっとカッコつけてたから顔が熱い。

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