第31話 GX

「う〜む」

「珍しいな、アキラが考え込んでるなんて。雪でも降るんじゃないか?」


 教室の自分の席でスマホの画面とにらめっこしているアキラに軽口を吐いてみたが、余程真剣なのか、アキラはスマホから目を離さなかった。


「そりゃ真剣にもなるさ。なにせ金が懸かってるからな」

「金?」


 そそられるワードだ。オレはアキラの後ろに回り、アキラのスマホの画面を覗いてみた。

 画面の中では折れ線グラフが右から左に流れており、その先端である右端は上に行ったり下に行ったりしながら、グラフ自体は緩やかに下降線をたどっていた。


「それが金なのか?」

「ああ、為替相場のチャートだよ」

「為替って、FXか!?」


 FXとは、ヤバいと恐れられる外国為替証拠金取引(Foreign Exchange)の略である。

 例えば100円で外貨を買ったとする。それが110円になったところで売れば、10円儲かる。それがFXだ。

 では何がヤバいのか。FXにはレバレッジという独自の仕組みがある。レバレッジとはテコのことだ。この仕組みによって自己資金の最大25倍の取引ができる。意味が分からないだろう。

 つまり100円しか資金がなくても、25倍の2500円の取引が可能になるのだ。

これによって設けも25倍、250円になる。

 だがアキラが見ている折れ線グラフからも分かるように、相場というものは上に行ったり下に行ったりするのだ。100円が90円になったりもする。そうなれば一瞬にして250円の損。150円の借金となるのだ。あな恐ろしやFX。


「FXじゃなくてGXな」

「違うのか?」

「Game Exchange、ゲーム為替。マグ拳ファイターからお金を下ろしたいから、高くなる瞬間を狙ってるんだよ」


 ああ、マグ拳ファイターってRMTだからなぁ。ゲーム内のお金をリアルに持ってこれるんだっけ?

 マグ拳ファイターでは1ビット=約1円だが、「約」と付いているので分かるように、その値は一定ではない。マグ拳ファイターなどのRMTでは、ゲーム内にお金を送金する人が多いほどビットの価値が上がり、逆にゲーム内からリアルに引き出す人が多いほど価値が下がる。

 つまり今、マグ拳ファイターからお金を引き出す人が多い状態だからビットの価値が下降線をたどっているのだ。


「くっ、昨日から5円も下がってやがる。どうなってんだ?」


 マグ拳ファイターの最低引き出し金額は100ビットからとなっているので、今現在マグ拳ファイターは100ビット=約95円となっているようだ。


「こういうときは何か外部に要因があるんだよ」


 オレは自分のスマホを取り出すと、「マグ拳 ニュース」と打ち込む。そうすればすぐにトップにニュースが出てきた。


「テイスティプラン、マグ拳ファイターへの参入見送り。マジかよ~」


 あまりのバッドニュースに、オレはがっくり肩を落とした。


「何でリンが落ち込んでるんだよ?」

「こないだ三段チーズバーガーを食べたハンバーガー屋、テイスティプラン傘下なんだよ」

「ああ、なるほど。アインスタッドの飯、不味いもんな」


 そこは同意せざるえない。


「リンもフィーアポルトにくればいいのに」


 フィーアポルトとはアインスタッドの東、アキラが拠点としている港町の名だ。


「何でだよ?」

「バッカ、港町と言ったら外国との取引の窓口みたいな場所だろ。あそこなら国外から香辛料が入ってくるから、ハンバーガーどころか、カレーだって食べれるぞ」


 な、なんだと!? そういうことは先に言えよな。


「オレもうツヴァイヒルに行くことに決めてるから」


 それまで全くこちらを振り向かなかったアキラが、バッと振り返り残念なものを見る目を向ける。


「リンに悲しいお知らせがあります」

「なんだよ?」


 だいたい想像はつくけど。


「ツヴァイヒルはアインスタッドより飯が不味い」


 ああ、行きたくなくなってきた。ツヴァイヒル。

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