第30話 次の街へ

 しかしてオレの魔素理論はかなり的を射ていたらしく、オレたちは数日の内にバフを覚え、それぞれビルドアップを果たした。



「さて、それじゃ仕上げと行きますか」

「そうね」


 オレとマヤがバフによるビルドアップの成果の確認のために行ったのは、アインスタッド四つのダンジョンの再攻略、アキラ曰く周回というやつだ。

 自分たちがどれ程強くなったのか目に見えるかたちで実感したかったことと、次の街へ行く前にダンジョンコアを潰しておいて、後顧の憂いを少なくしておきたかったのが理由である。


 ガシンッ!


 正面から突っ込んできた赤狼の攻撃。しかし初めて相対したときと違い、マヤが大盾ごと吹っ飛ばされるようなことはないし、盾が壊れることもなかった。

 それはマヤ自身の筋力が上がっていることに加え、バフによって大盾の強度も向上させてあるからだ。


 ドシュッ!


 赤狼の土手っ腹に銅貨が突き刺さる。

 これまでならオレの礫弾なんて簡単にかわしていた赤狼だが、バフと引斥力を掛け合わせたオレの礫弾は、スピード、威力両方が向上している。事実ダンジョンコアがいる巨木を護る三頭の赤狼は、ほぼ一撃で倒せるようになっていた。



 他のダンジョンも同様だ。

 逃げ惑う黒鯉もスピードが上がったことで一撃。女王蜂も兵隊蜂を呼ばれる前に瞬殺、あんなに苦労した白蛙も、白蛙の舌が届かない距離から遠距離狙撃で難なく倒せてしまった。


「私たち強くなってるわね!」

「というか、なり過ぎだろ。アキラがいうところのオーバーキルってやつだな」



 そんなこんなで10月を待たず、オレたちは最初の街アインスタッドを離れることになった。


「お世話になりました」

「いや、お世話になったのはオレたちの方だが?」


 街を離れるので、冒険者ギルドのマスター、ハッサンさんに挨拶に行ったら、社交辞令に対してまともな返答が返ってきてしまった。後ろでユキさんも頷いているから、こっちの世界ではこう言った社交辞令は無いのかもしれない。


「次はどの街に行くのか決めてあるのか?」


 ハッサンさんが今後のことを尋ねてくる。


「いやぁ、それがまだ決めてないんですよ」

「ならちょうど良かった」


 この街は東西南北の四方に街道が伸び、当然その先には街がある。

 アキラ曰くマグ拳ファイターというゲームはこの最初の街周辺までがチュートリアルであり、本格的な冒険はこの四つの街に行ってからだという話だ。

 アキラはどうやら東の港町の冒険者ギルドにあるクランに所属しているそうなので、そっちに向かってもいいが、なんとなく敷かれたレールの上を走らされてる気がしてちょっとシャクだ。

 じゃあ他に行く宛があるのかと訊かれると、アキラ以外の冒険者プレイヤーたちと交流を持たずにこの街で過ごしてきた弊害として、全く無かった。

 そこにハッサンさんから新たな依頼が飛び込んできた。


「北のツヴァイヒルですか?」

「ああ。そこの冒険者ギルドのギルマスから応援を頼まれてな。理由は、二人なら分かるだろ?」


 ダンジョンコアか。


「無理にとは言わないが、行き先を決めてないなら頼まれてやってくれないか?」


 まぁ、危険ではあるが悪い話じゃないんだろう。アキラのときと違い嫌な気もしない。隣のマヤを見ると力強く頷いてくれた。


「分かりました。オレたち北に向かいます!」


 オレたちの行き先が北のツヴァイヒルに決まった。

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