第29話 魔力
さて困った。
手っ取り早くバフの効果を認識しようと思ったら、筋力を上げるのが一番だ。
重いものを持ち上げたり、足が速くなったりすれば、バフを覚えたと自他共に分かりやすい。
そのためには、自分の体に魔力を通す、という作業をせねばならないのだが……、
「マヤはバフを使うときに何処から魔力持ってきてたんだ? オレ、引斥力魔法を使うときって全身から魔力をかき集めて放つ感じで使ってたんだよね。それだとすでに体に魔力は満ちていた、ってことだろ? バフを使おうにも、これ以上全身の魔力量を上げられないんだよねぇ」
オレは自分の魔力の認識に当惑していた。オレの考え方のままでは、オレはこれ以上強く成りようがないのだ。
「私もバフを使うときって、エイヤ! って感じで気合いを入れてただけだから、何処から魔力を持ってきたとか考えてなかったわ」
う〜む、マヤもアキラと同系統っぽいな。仕方ない自分で考えよう。
「魔力」と考えるから何処から? とかおかしなことになるんじゃなかろうか? もっと単純に「筋力」と考えたらどうだろう? 筋力を上げるには、筋肉量を増やすことだ。つまり鍛えて体をいじめつつ、肉などの上質なたんぱく質を摂取する事で筋肉量は上がり、筋力も上がる。
となるとオレのやるべきことは、魔力を使い魔力を増やすものを食べること。…………、
「マヤ、魔力を増やす食べ物って知ってるか?」
「何? いきなり変なこと言い出して」
知らないらしい。オレも聞いたことないもんなぁ。
となるともっと原初的な感じか。筋肉を使う上で必要になってくるのは「酸素」か。
なるほど「酸素」。生命活動の源であり、エネルギーの塊だ。この世界では酸素のように魔力のエネルギー源となるもの、仮に「魔素」と呼べるものが空気に混入していると考えれば、魔力のエネルギー源を経口摂取する事は可能となる。
となるとこの世界の体細胞には、ミトコンドリアのように魔法を生み出す「機関」が備わっているのだろう。その他、魔力貯蔵をするための脂肪のような細胞もあるはずだ。
オレはこの考えにたどり着いたことが嬉しくてマヤに大発見だと話したら、何故かちょっと引かれた。何故だ。
「とにかく、オレの理論が正しければ、上手いこと息をするだけで魔力が貯まっていくんだ。便利だろ?」
「そんな息の仕方が分かればね」
チッチッチッ。そのことに気付かないオレではないのだよマヤくん。
「その便利な呼吸法知りたいかい?」
「分かるの?」
オレがコクリと頷くと、マヤは最初驚いた顔を見せた後、瞳をギラリと輝かせた。獲物を見つけたときのマヤの眼だ。
「教えて」
断る理由は無い。パーティーの戦力アップを考えれば、むしろ教えた方がいいだろう。アキラには教えてやんないけど。
「難しいことじゃない。むしろ魔法の基本に立ち返ると言った方がいいだろう」
「前置きはいいから教えなさいよ」
女子ってこういうところドライだよなぁ。
「やるべきことはパスとイメージだ」
「パスとイメージ?」
オレはコクリと頷く。
「オレの考えではこの世界の空気には「魔素」と呼ぶべきものが存在している」
マヤが真剣な目でコクリと頷く。
「だからその魔素を効率的にかき集めるには、自分の周囲の空気にパスを通す必要がある」
頷くマヤ。
「そしてここからが大事なのだが、息をするとパスの通った魔素が肺から体内に、細胞一つ一つに送り込まれるイメージを持つんだ。そして全細胞に行き渡ったら、それが体の中に留まるイメージを持つ。引斥力魔法の修得で実感したが、このイメージを持つ、ということがこの世界では凄く大事になってくるんだ。イメージを持ってやるのと、ただ漠然と作業のようにこなすのでは、結果に雲泥の差が出るってことを忘れるなよ?」
「分かったわ! すぐにやりましょう!」
マヤはすでにワクワクしていた。分かりやすくて結構だ。
「じゃあお互いのパスが干渉し合わないように、ある程度離れてやろうぜ」
こうしてオレたちのバフ修得、魔力量増量計画は本始動を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます