第21話 ギルドマスター
「まあ掛けてくれ」
冒険者ギルドの5階、応接室らしき場所で禿頭強面のオッサンの向かいのソファーに座らされるオレとマヤ。
それだけで逃げ出したい程ドキドキだが、オレたちが座ったのを確認すると、オッサンはオレたちに睨みを利かせながら口を開く。
「オレはここのギルドマスターのハッサンというものだ」
「「はぁ?」」
思わぬ発言にマヤと二人で変な声を発してしまった。
ギルドマスターと言うからにはこの冒険者ギルドでそれなりの地位にあろう人物が、まさか自ら受付をやってるとは思うまい。それともあれだろうか? バーの雇われマスター的なやつで、実質的な経営者は裏にいるとか?
「ん? ああ、何でギルドのトップが受付に居たのかって思ってるのか?」
顔に出ていたらしい。
「なに、簡単な話だ。今オレ以外の職員は昼食を取りに行っててな。手透きなのがオレだけだったって話だ」
なるほど。だからと言って強面のギルドマスターに受付なんてされたら、誰も寄り付かないと思う。…………もしかして皆が真剣に紙とにらめっこしていたのは、受付のこの人の所に行く勇気が無かったからじゃ?
「まあ、それについてはどうでも良いだろう」
「「はぁ」」
「二人をここに呼んだのには頼みたいことがあったからだ」
「頼みたいこと? ですか? 何か書類に不備があったとかじゃなく?」
オレの質問にハッサンさんは首を横に振る。
「いや、何も問題ないぞ。ああ、そういえばまだ、ギルドの会員になった会員証を渡してなかったな。ちょっと待ってろ」
ハッサンさんはそう言うと、オレとマヤを残して部屋から出ていってしまった。
「「ふぅああああ…………。緊張したあ」」
ハッサンさんが視界から消えたことでオレたちの緊張の糸はぷっつり切れ、ソファーにだらしなく体をしなだれる。
「ねぇ、あのギルドマスターの頼みたいことってなんだと思う?」
マヤがソファーの肘掛けに体を預けながら訊いてくる。
「知らないよそんなの。知らないけど……」
「知らないけど?」
「面倒臭そう」
「何それ」
答えの出ない会話でその場のお茶を濁していると、ガチャリと部屋の扉が開けられる。
途端にオレとマヤに緊張が戻り、その場でシャキンと姿勢をただした。
「あれ? あなたたち誰?」
だが扉を開けて入ってきたのは、ハッサンさんではなく、腰まである黒髪を三つ編みにしたお姉さんだった。
「…………」
「…………」
「…………あ、えっと、ギルドマスターに頼みがあるとかで連れてこられまして」
オレはことの経緯をお姉さんに説明した。
「うちのマスターがご迷惑をおかけして申し訳ありません」
深々と頭を下げるお姉さんこと、ユキさん。ユキさんはハッサンさんが言っていた昼食に行っていたギルド職員の一人らしい。オレたちにお茶とお菓子を出してくれた後、話を聞いて頭のつむじが見えるほど頭を下げている。
「いや、あの、頭を上げてください」
人様にここまで頭を下げられた経験が無いのでこちらが恐縮してしまう。
なんだか互いに頭を下げあっていると、
「何やってんだお前ら?」
ギルドマスターのハッサンさんが部屋に戻ってきた。
「ちょっとギルマス! お客さんほっといて何処行っていたんですか?」
お、おお、ユキさん、ハッサンさんには強気なんだな。
「二人の会員証を作ってたんだよ」
言ってハッサンさんはオレたちの前に銀色のプレートを置く。プレートは縦3センチ、横2センチ程度で表には名前と会員ナンバーらしきものが記載され、裏には冒険者らしく剣と盾の意匠が彫られている。プレートにはチェーンが付いていて首から下げられるようになっているみたいだ。軍人が身に付けるドッグタグみたいだと思った。
「おお」
「なんか冒険者って感じね」
オレとマヤは素直にそれを首に付けたのだが、ユキさんは少々驚いていた。
「いきなりシルバープレートなんですか?」
ふむ。銀色なのはちょっと特別なのだろうか?
「凄いことなんですか?」
マヤがユキさんに尋ねる。
「普通は初心者はブロンズプレートから始めて、ある程度実績が伴ってシルバーに昇格するの」
なるほど。
「ああ。オーブで彼らの行いを覗いたが、昨日、一昨日とあの赤狼を二人だけで倒している。この後の頼み事を考えると、シルバーは妥当だろう」
「赤狼を二人だけで!?」
アキラも言っていたが、赤狼を二人だけで倒すと言うのは、なかなかのことらしい。と言うか、あのオーブ過去が覗けるのか。そしてハッサンさんの頼み事はやはり面倒臭そうだ。
「確かに、赤狼を二人で倒せる実力があるなら、あの案件、どうにかしてもらえるかもしれませんね」
あの案件ねぇ。
「さて、お二人さん」
「「はい!」」
ビシッと姿勢をただすオレとマヤ。
「二人には赤の森のダンジョンコアを倒してきて貰いたい」
「「ダンジョンコア?」」
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