第22話 依頼
「ダンジョンコア……って何ですか?」
マヤの質問にズッコケるハッサンさんとユキさん。まぁ、オレも同じ疑問を持ったけど。
「ダンジョンコアってのは、ダンジョンの魔核みたいなものだ」
ハッサンさんが簡潔に説明してくれる。
「はぁ、魔核ですか」
「納得いってないって顔だな」
オレってそんなに顔に出やすいのだろうか? だが納得いってないのは事実だ。
「ダンジョンコアが魔核だとすると、まるでダンジョン自体が生きてるみたいな言い方ですね」
「その通りだ」
なんと!?
「何故ダンジョンにはあんなに魔物が出ると思う?」
「いや、分かりません」
首を横に振るオレとマヤ。
「ダンジョンコアが自分のために魔物を産み出しているからだ」
「はぁ、そうなんですか」
いまいちピンとこない。横のマヤもそうらしい。
「ハァー、つまり、ダンジョンってのは放っとくと無限に魔物を産み出し続ける生きた魔物製造所なんだよ。だからそのままにしておくとダンジョン内の魔物がダンジョンの外に出てきて人を襲うようになるんだ。この街だってただじゃ済まない。どれだけの人々が被害に遇うか」
「それは…………大変じゃないですか!」
「だからそう言ってるだろ」
やっと話が通じた、と言わんばかりに、ハッサンさんはテーブルの上のお茶を呷る。
「んで、そうならないために、こちらとしては定期的に魔物を産み出すダンジョンコアの討伐を行っているんだ」
なるほど。ここまでくれば読めてきた。そのダンジョンコア討伐をオレたちにやらせるつもりって訳だな。しかし、
「定期的ってどういうことですか?」
そこが引っ掛かる。
「どうもこうもない。ダンジョンの魔物をダンジョンコアが産み出しているのと同じように、ダンジョンコアもまた何者かが産み出しているんだ」
「魔物を産み出すダンジョンコアを産み出す何者か……ですか」
オレの言にハッサンさんとユキさんは神妙な顔で頷き返す。
「オレたちは仮にその者のことを全ての魔物の
「ザ・クリエイターですか」
初めて聞く。アキラの噂話にも上らない話だな。
「初めて聞くのも無理もない。このことは基本的に口外禁止だからな」
「そんなのオレたちに話しちゃっていいんですか?」
「もちろん、ここでの話を外で話してもらったら困る。だがこちらもそれだけ信用していると言うことだ」
今日会ったばかりの人間の何をそんなに信用できるのだろうか?
「で、どうだろう? ダンジョンコアの討伐。引き受けてくれないだろうか?」
ハッサンさんの睨んでいるかのような真剣な目に、マヤと二人顔を見合わせる。引くことを知らないマヤは既に受ける気満々のようだ。オレは、
「いくつか訊いてもいいですか?」
「ああ」
「何故、オレたちだったんですか? 別に赤狼を倒したのはオレたちが初めてじゃないですよね? 個人や二人というならともかく、クランやパーティー単位なら、赤狼を倒したところだってあるでしょ?」
オレもマヤもまだ初心者を抜け出せてないレベルだ。何故オレたちでなければならなかったのか。一階にはオレたちより良い装備を身につけた冒険者がいっぱいいた。
「それはダンジョンの餌が人だからだ」
まぁ、ダンジョンの魔物はアクティブで人を襲うからな。
「ダンジョンの魔物は能動的に人を襲う。だが人を襲い殺した魔物が強くなったという話は聞かない」
ふむ。確かに。アキラもそんな話してなかった。魔物というのは人を襲おうが襲うまいが能力は一定らしい。
「では何故ダンジョンの魔物は能動的に人を襲うのか。答えは殺した人間の栄養を、ダンジョンコアに送るためだ」
「そう、なんですか?」
「ああ。ダンジョン内で人が死ねば死ぬほど、ダンジョンコアは強くなるのだ。だから我々はダンジョンコアの存在を一般に公開していない。下手にダンジョンに初級冒険者が大量に押し寄せて、大量に死なれてはたまったもんじゃないからな。少数精鋭の君たち二人にダンジョンコア討伐を頼むのもそういう理由だ」
ダンジョンコア攻略のためとはいえ、人海戦術でどうにかできないわけか。
「それでも前にダンジョンコアを倒した誰かしらがいたはずです。何故その人たちに頼まなかったんですか?」
マグ拳ファイターというゲームがリリースされてから、すでに半年経っている。この間ダンジョンコアが倒されずに居続けたと言うのは、ハッサンさんの口振りからあり得ない。今回も前回の人たちに頼めば良いじゃないか。
「確かに今までに赤の森のダンジョンコアは何度か倒されている。一番多かったのは半年前ぐらいだろうか。何処から情報を入手していたのかは知らないが、毎日のようにダンジョンコアが倒されていた。だが彼らはすでにこの街を離れてしまった。我々も伝手を使ってそのうちの何人かに依頼したが、誰からも良い返事は返ってこなかった。彼らにとって攻略済みのダンジョンは、多少の金が手に入るからと言って、わざわざ始まりの街まで戻ってきて討伐するほどの価値は無いようだ」
リアルだったら世知辛いが、ゲーム内じゃ、先の攻略を優先するのは当然か。だが、目の前の二人はゲームのNPCとやらとは思えず、本当に困っているように見える。この人たちの手を振りほどいて、心からこのゲームを楽しめるだけの強心臓はオレには無さそうだ。
「分かりました。受けます」
オレとマヤは力強く頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます