第20話 冒険者ギルド

「こ、ここがギルドか」

「そ、そのようね」


 オレとマヤが見上げる先には、この始まりの街アインスタッドでは珍しい5階建ての建物があった。

 場所は教会から徒歩1分。教会のすぐ目の前にある、前から気にはなっていたバカデカい建物が冒険者ギルドだった。

 ここに冒険者ギルドがあるのは、言わずもがな便利だかららしい。ちなみに商業ギルドは銀行の前にある。生産者ギルドは知らない。

 5階建ての建物なんてリアルで見慣れているというのに、周りに低い建物しかないせいか、異様に高く圧を感じる。


「とりあえず入って正面にある受付で冒険者登録すればいいんだよな?」

「ええ」


 意を決して中に入ると、冒険者らしい人たちのざわめきが耳に飛び込んでくる。

 ある者は、左右の壁に設けられた掲示板の方を向いて、あーだこーだと仲間たちと話し合い、またある者はテーブル席で何やら資料らしき紙束と格闘している。装備的には自分たちと同じか、少し上くらいの物を身に付けているので、オレたちと同じくらいの初心者か、少しだけ先輩のようだ。

 皆が真剣に紙とにらめっこをしている様は、異様な熱量を感じさせて、しばらく二人で玄関口で立ち呆けていたようだ。後から入ってきた冒険者に、「邪魔だ」と言われてしまった。

 オレとマヤが素早く横に退くと、その冒険者も掲示板の方へ向かっていき、他の冒険者同様掲示板に貼られた紙とにらめっこし始めた。


「あれって何が書いてあるのかしら?」


 マヤも掲示板が気になっているらしく指差している。


「掲示板みたいだし、何かのお知らせだろ?」

「何かって?」

「それは…………分からないけど」


 オレだって初めて来たのだ。何が書いてあるかなんて知るはずがない。


「…………」

「…………」

「…………とりあえず、冒険者登録済ませちゃおうぜ。分からないことは受付の人が教えてくれるだろ」

「それもそうね」


 オレとマヤは頷き合い、正面の受付に進もうとして足を止める。

 何せむっちゃ恐い顔のオッサンがこっちを睨んでいるからだ。受付で。

 いや、普通受付って言ったら受付嬢じゃないの? 何で受付にあんな筋骨隆々で禿頭のオッサンがいるんだよ! 赤狼より恐えよ!

 オレたちが一旦ギルドの外に出ても仕方がないと思う。



「どうする? アキラの話では、ギルドに入らなくてもゲーム自体に支障はないらしいけど」

「何言ってるのよ! ここまで来て逃げるなんて選択肢無いわ!」


 一旦ギルドから出といて何言ってるはそっちだろ。しかもここまで来てって、教会の目と鼻の先だし。だがまあ、赤狼戦の時も思ったが、マヤはけっこうな負けず嫌いらしい。逃げるという選択肢は彼女には無い。

 玄関扉の窓から、中にいる恐いオッサンをチラチラ見ているのに焦れたマヤが声を上げる。


「とにかく、行くわよ!」

「お、おう!」


 マヤが勢いよく扉を開けると、バタン! とスゴい音がして室内の全員から注目される。

 その中を堂々と歩いていくマヤ。オレはと言うと、何か大きい音出してスミマセン、って感じでペコペコ周りに頭を下げながらマヤの後を付けていく。ふとマヤの顔を見ると真っ赤になっていた。羞恥心というものはあったらしいが引くに引けなくなっただけのようだ。

 冒険者の視線を一身に浴びながらズンズンと大股で受付前まできたマヤは、バン! と受付のテーブルを両手で叩くと、身を乗り出すように、禿頭のオッサンを睨み返しながらこう言った。


「冒険者登録したいんですけど!」


 その瞬間から冒険者たちの興味は失せたらしく、皆はまた紙とにらめっこを始めたのだった。

 睨み返されたオッサンはと言うと、口角を上げて悪魔のような笑みを浮かべてこう言った。


「良く来たな。新たな冒険者よ」


 うん。言ってることは普通なんじゃないかな。


「この書類に必要事項を記入した後、このオーブに触れ」


 オレとマヤは禿頭のオッサンが差し出した書類に名前や生年月日などを記入した後、オーブと言われた占い師が使うような水晶球に触れた。


「ふむ……」


 と禿頭のオッサンはそれを見ると顎に手を置いて何やら考えだし、オレらの記入した書類を見たり、オレたちを見たり、またオーブを見たり、中々登録が終わらない。アキラの説明では1〜2分で終わると言われていたのだが。

 挙げ句の果てにオッサンは休憩中と書かれたプレートを受付テーブルに置くと、オレたちに着いてくるように指示してきた。

 その恐い顔に睨まれて嫌とは言えるはずもなく、オレたちは上階へと連れていかれたのだった。

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