第17話 昨日の今日
「ブラックフォッグ?」
翌日。学校での昼食時に昨日のことをアキラに訊いてみたら、そんな答えが返ってきた。
「ああ、ローバータイプのPKとして結構有名な奴だよ」
「PK?」
また新たな単語が出てきたな。ローバーは英語で強盗のことだが、PKは何の略だ?
アキラもそこら辺を察したのだろう。更に言葉を足してくれる。
「PKって言うのはプレイヤーキルとかプレイヤーキラーって言われる、プレイヤー狩りをするプレイヤーのことだよ」
「そんなプレイヤーがいるのか!?」
「割と普通だよ。RMT系のリアルマネーがかかってるゲームにしては、マグ拳ファイターはPKが少ないくらいさ」
「マジか……」
性善説を信じていた訳じゃないが、少なからずショックを受けた自分がいた。
「しっかし、あの赤狼にホワイトナイトにブラックフォッグか。色とりどりな1日だったな」
「上手くないぞ」
ホワイトナイトと言うのは日本語にすると白馬の騎士のことで、赤狼戦で助力してくれた、あの少女のことだ。ああいった関係ないプレイヤーを助けるプレイをするプレイヤーのことをホワイトナイトというそうだ。出題は同名の映画である。
午後の授業は、ちょっとこのゲームとの付き合い方を考え直してしまう時間となった。
だからと言ってその日の放課後、家に帰ってすぐにHMDの電源を入れてマグ拳ファイターを始めてしまうぐらいにはハマっているのだが。
(しかし
ゲームオーバーになったからと言って、教会から再プレイなのは変わらないらしい。ただ服が初期装備に戻ってしまったのが残念だ。この半端丈の服、もう少しどうにかならなかったのだろうか?
自分の格好に嘆息していると後ろから肩を叩かれた。
昨日の今日である。反射的にその手を振り払おうと手を振ったら、相手の顎にジャストミートしてしまったとしても仕方がないと思う。
憐れな相手、アキラはしばらくの間行動不能になっていた。
「いっつー」
わざとらしく顎をさするアキラと肩を並べて教会を出る。
「お前が悪い」
オレは全く謝る気がなかった。
「へいへい、オレが悪ぅございましたよ」
そんな益体の無い会話をしていると、
「あの、すいません」
後ろから声を掛けられる。
反射的に飛び退き身構えるオレ。だが声の先に居たのは、肩まである白銀の髪に蒼い瞳の、妖精と言われても信じてしまいそうな美少女だった。ただその服装がオレと同じ初期装備の服なのが似合っておらず残念だった。
「ハァー」
何やってるんだ、とでも言いたげにアキラが大きくため息を吐いたことで、自分がファイティングポーズをとったまま彼女に見とれていたことに気付き、顔が火照っているのを感じながら手を下げる。
「スミマセン昨日ちょっと嫌なことがあったもので」
「分かるわ。昨日の今日だもんね」
えっ? と思って彼女をもう一度よく見ると、銀髪の少女はツカツカツカとオレのそばまでやって来て、オレの右手を両手で握る。
「このゲームの運営、最低よね!」
「は?」
「ブラックフォッグ?」
アキラによる本日二回目の説明である。聞いているのはオレではなく、あの銀髪の少女だ。
彼女の名前はマヤ。昨日オレを助けてくれたホワイトナイトその人である。
教会近くの喫茶店で、何茶だかよく分からないお茶で一服しながら、彼女、マヤはアキラの説明に耳を傾けている。
「……つまり、私とリンタロウくんは、突然ゲームオーバーになったのではなく、その強盗をやらかしたプレイヤーに殺された、ということ?」
アキラが強く頷くと、マヤは真っ赤になって顔を両手で抑えてしまった。
そうなるのも無理からぬことだ。マヤは赤狼討伐後、いきなりゲームオーバーになったのは、システムの不具合だと考えたのだ。なので運営にどうにかならないか、と苦情を入れていたらしい。しかし運営の返答は、システムに不具合は起こっていない、というもの。頭にきた彼女は昨日の証人であるオレを仲間に引き入れ、再度運営に苦情を言おうと教会前で張っていたらしい。
何ともご苦労なことだが、現実はアキラの説明の通りである。オレなら恥ずかしさでこの場から逃げ出しているところだ。
「ハァー……」
一度深いため息を吐いた後、マヤは自らの頬を叩くと、
「よし! 切り替えて行きましょう!」
と前向きな答えを発し、お茶を一気に飲み干したのだった。
「で、これからどうする?」
スゲエな。完全に切り替えて、今後のスケジュール訊いてきた。っていうかオレらと行動をともにするつもりなんだ? まぁ良いけどね。
「とりあえず」
「とりあえず?」
オレの目を蒼い瞳が覗き込んでくる。
「銀行だろ」
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