第16話 赤狼

 オレに対してその牙と爪で襲い来る赤狼!


「危ない!」

「!?」


 オレと赤狼の間に誰かが割り込む。


 ガシィインッ!


 赤狼の突進が強すぎて、オレと間に入った誰かが吹き飛ばされる。


「ぐふっ!」

「きゃっ!」


 オレに覆い被さるように倒れた誰かは、それでも素早く体勢を立て直し、オレと赤狼の間に立って長方形の大盾を構える。


「大丈夫!?」


 その高い声は明らかに男のものじゃない。

 見ればその後ろ姿はスカートを穿いた華奢な少女のものだった。


「女ぁ!?」

「……だったら悪い?」


 声に険がある。気分を害したかもしれない。


「いや、助けてくれてありがとう」

「……良いのよ」


 少女の背中から険が取れた。だが少女の向こうには赤狼がいる。まだ緊張を解くわけにはいかない。


「グワオオオオ!!」


 赤狼の第二攻!

 少女がそれを大盾でいなす。攻撃が逸れた赤狼に対して斥力で礫をぶつけようとするが、それは避けられてしまう。


「くっ!」


 突然の赤狼の襲来、そして突然の少女との共闘。運が良いのか悪いのか。だがオレは、これを乗り越えるべき試練だと捉えた。少女もそうなのだろう。勝てるかどうか分からない赤狼に大盾を構え、逃げようとはしない。


 オレと少女対赤狼の戦いは、決め手を欠く長期戦となった。赤狼の攻撃は少女が大盾でいなすが、こちらのオレの礫も、赤狼に避けられてしまう。

 そんなことを何度繰り返しただろう。段々とこちらが圧されはじめてきた。さすがに少女対赤狼では体力が違い過ぎた。だからと言ってオレに赤狼を抑え込められない。このままではいずれ二人とも赤狼にやられてしまうだろう。その前にオレは賭けに出ることにした。


「なぁアンタ」

「何よ?」

「ほんの一瞬で良い。あの狼の攻撃を受け止められるか?」

「…………何か、策があるのね?」

「一か八かだけどな」

「乗ったわ」


 頼もしくそう言った少女に、赤狼が襲い掛かる。

 それを全力で受け止める少女。そんな少女の背中をオレは駆け登り、赤狼の背にしがみつく。壊れる大盾。

 赤狼はオレを振りほどこうと暴れまわるが、オレも振り落とされまいと必死だ。

 そして地面から礫が赤狼目掛けて飛んでくる。赤狼はそれを避けようとするが、礫は完全に赤狼をロックオンしていて追尾してくる。


「ギャインッ!?」


 何故当たったのか分からない赤狼に、第二、第三の礫が襲い掛かる。

 そう、これは引力だ。赤狼を起点に引力を発生させて、近くの石ころ吸い寄せる。

 赤狼は避けることが叶わず、無数の礫に打ちのめされて魔核と素体に分解されてしまった。


「へ、へへ、やったぜ」

「やったのね」


 精神力を使い果たし、その場にしゃがみこむオレ。見れば少女もオレの横で同じようにしゃがみこんでいる。


「何とか倒せたなぁ」

「そうね」


 二人で赤狼だったモノを見ると、ソフトボール大の魔核と、真っ赤な毛皮がそこにはあった。


「とりあえずあの魔核はアンタにやるよ」

「は!? 何言ってるの!? 倒したのは貴方でしょ!? 魔核は貴方のものよ!」

「いや、アンタがいなきゃオレはあの狼にやられてた訳だし」

「そんなの私だってそうよ。あのままじゃやられていたわ」


 そうやって何故か報酬の譲り合いをしていると、


「なら僕が貰おう」

「「え?」」


 ザクッ


 背中から心臓を貫かれる嫌な感触。次の瞬間にはオレは初めに来た、あの白いチュートリアルの空間に居て、ウインドウには「gameover」と映し出されていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る