第18話 銀行
マグ拳ファイターでは、ゲーム内の街に銀行がある。
理由は……、今回のような時のためだ。
どれ程フィールドやダンジョンで魔核を集めたところで、街に戻ってリアルマネーに両替できなければ、つまり途中で死んでしまえば、今までの積み重ねが全てパーになってしまう。それに対する救済措置が銀行だ。
ゲーム内に魔物がいるため、いつも死のリスクがつきまとう中、個人で全財産を管理するのは難しい。さらに言えば物量として所持し続けるのも大変だ。
何故ならゲーム内で流通しているビットは全て硬貨であり、紙幣は存在しないからだ。
硬貨は、1ビットの小銅貨から始まり、10ビットの大銅貨、100ビットの小銀貨、1000ビットの大銀貨、1万ビットの小金貨、10万ビットの大金貨が存在する。
アキラによるとマグ拳のトッププロにもなると、億単位の金を稼ぐというから、少なくとも大金貨1000枚を持ち歩かなければならなくなる。小銅貨なら1億枚だ。大変である。更に換金していない魔核や素体なども含めれば、それだけで動けなくなりそうだ。
もちろんその救済措置として、マジックボックスなるものがこのゲームには別に存在する。
簡単に説明すればドラ○もんの四次元ポ○ットのようなものだ。どういう仕組みなのかアキラに聞いたが、ゲームの仕様だ、というよく分からない答えが返ってきた。何でもできるようになるらしいこのゲームだし、オレはいつか作ってみようと画策している。
このマジックボックスも入る物量には限界がある。更に死んでしまえばマジックボックスを持っていたところで意味がない。
やはりお金関連では銀行に預けるのが主で、マジックボックスはサブといった感じらしい。
長々と説明したが、オレとマヤは銀行で前日までの預金を引き出し、その足で武具屋に行って装備を整え、今は喫茶店でティーブレイク中である。
「ハァー……」
マヤが、聞いたこっちまで気が滅入りそうな深いため息を吐く。その視線の先には、武具屋で買った木に革を張った丸い小盾があった。
武具屋には当然大盾もあったが、金銭の都合上、この小盾しか手に入れられなかったのだ。
「ハァー……」
「そのため息やめてくれない?」
オレはマヤにじとりとした目を向ける。
「え? ああ、うん。でもさぁ、折角お金貯めて大盾買ったのに、また小盾に逆戻りなんだもん、ため息だって吐きたくなるでしょ?」
同意を求められても知らん。オレは前と同じロングTシャツにカーゴパンツだ。盾の値段をチラッと見たが、小盾で1万ビットは高いのだろうか?
「第一あの大盾、赤狼戦でぶっ壊れてなかったっけ?」
「そうだった! ……ハァー、ヴィクトリアへの道は険しいわ」
テーブルに突っ伏すマヤに、アキラが質問する。
「ヴィクトリアって、ホワイトナイトの?」
「そう!」
ヴィクトリアは映画「ホワイトナイト」の女性主人公だ。その象徴とも言える身の丈程もある大きな盾は、魔法を唱えると更に大きくなり、
そんなヴィクトリアの話を熱く語るマヤは、ホントにホワイトナイト志望だったらしい。アキラ曰くロールプレイというらしいが、まあよくしゃべる。止まらない。さっきまで萎れていたのと同一人物とは思えないくらいしゃべる。
「昨日は念願のヴィクトリアと同じ大盾、いや、ちょっとランクは下がるけど、を手に入れたから、これはいっちょボスでも相手にしようかなぁ、って赤の森まで行ったら、リンに会ったのよ!」
「なるほどなぁ」
アキラ、スゲエなお前。側で聞いてるだけで疲れる熱量なのに、相づちが打てるとか、素直に感心する。
「でも昨日の戦いで思ったわね! 私とリンなら、ヴィクトリアとカインのようになれるって!」
カインというのは、「ホワイトナイト」でヴィクトリアをサポートする魔法使いの男だ。普段はだらしないが、いざというとき頼りになる奴である。
「どうよ!?」
何がだ? 物凄くギラついた獲物を見つけた肉食獣のような目を向けられても困る。
「何ならもう一回赤狼と一戦交えたいぐらいよ! 私たちなら次戦ったら完勝できると思わない!?」
マヤの圧がスゴいが、それはオレも思っていた。だがなぁ、
「赤狼は倒しちゃったからもういないだろ?」
オレの発言にマヤは「う〜ん」と頭を抱えるが、アキラはキョトンとしている。
「いや、もうリポップしてるんじゃないか?」
「「リポップ?」」
また知らん単語が出てきた。
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