第14話 初ダンジョン
「あ、ウサギィィイ!?」
森に入ってすぐ、赤い縞模様の体毛に、額から角が生えた大きなウサギが、こちらと目が合った瞬間に襲いかかって来た。
とっさに横に避けてウサギの攻撃を回避するが、オレが今さっきまでいた場所を凄い勢いで通りすぎて行った角ウサギは、直ぐ様180度反転、またオレに襲いかかって来る。これがダンジョンの魔物がアクティブというやつなのだろう。
角ウサギの攻撃を避けながら、ちらりとアキラの方を見れば、腕を組んで完全に観戦モードに入っている。なるほど、これくらいは一人で対処しろってことか。
オレは近くの石を拾い、斥力を込めて角ウサギに投げつける。
ドスッ!
布団叩きで思い切り布団を叩いたような音とともに、角ウサギは魔核と素体に分解された。
魔核は一円玉程のルビーのように赤い球体で、素体はやはり石ころだった。とにかく、
「これで魔核は手に入ったな」
アキラの方を見れば、腕を組んだまま、まるでコーチか監督のように頷いている。何目線なんだお前は。
「アキラ、この魔核っていくらぐらいになるんだ?」
「この森の魔物の魔核なら、50ビットぐらいだな。因みにフィールドのスライムだと、5から10ビットぐらいだ」
飯屋の呼び込みが一皿500ビットだと言っていたから、大体10体ぐらい魔物を狩れば一食食べれるのか。フィールドのスライムなら50から100体。一食食べるだけでも大変だな。
服の値段は確認してないけど、それなりの身なりを整えようと思えば、2万ビットぐらいは欲しい。
となると…………400体! け、結構遠いな。
「どうした? 初めて魔核をゲットしたのに肩なんて落として」
「いや、目標金額にはまだまだ遠いな、と思ってな」
「なんだよ。なんか欲しいものがあったのか?」
「ああ、服がな。さすがに最初の服のままでずっといる、ってのはな」
「いや、服ぐらいなら譲るぞ」
「マジでか!?」
そう言われてアキラを上から下までマジマジ見てみる。
黒革のライダースジャケットにインナーは黄色の柄Tシャツ。下にも黒革のパンツを穿き足許には黒のブーツ。いかついシルバーのバックルのベルトにはシースナイフが取り付けられている。他にもシルバーのアクセサリーを10個ほど着けたその姿は、金髪も相俟ってまるで…………、
「う〜ん」
「なんだよ」
「いや、背に腹は変えられないか」
「嫌ならいいんだぞ。初期装備のままでいろよ。もしくは金払うとか」
「その金がないから唸ってるんだろ」
「ビットじゃなくて円。リアルマネーだよ」
「?」
言ってる意味が分からず首を傾げてしまう。
「このゲーム、RMT、リアルマネートレードが取り入れられているんだ」
「リアルマネートレード?」
「ああ、1ビット=約1円。現実からこの世界に両替できるし、この世界から現実に両替もできる」
「…………つまりどういうこと?」
「この世界で金稼いでリアルに生活しているプロプレイヤーがいる。ってことだ」
「マジか?」
「マジだ」
スゲエなマグ拳ファイター。
「う〜ん。でもリアルの金なんて普通の学生であるオレには100円でも贅沢だろう? アキラのお下がりで我慢するよ」
「おい」
アキラのお下がりはカーゴパンツにキャメルのロングTシャツだった。
普通だ。足許は初期装備の革靴だ。
「なんか、目的が達成されたらやる気が失せてきたな」
「おい」
適当に角ウサギを10体ほど狩ったら街に戻って初めて飯屋で飯を食べた。
硬いパンに薄いスープ。これで約500円は高いと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます