第21話 リビラ防衛戦 其の壱
クリストフが冒険者ギルドに着いたときには既に街中から冒険者が集められており、ギルドは満員状態だった。
そして着いたと同時にクリストフはギルドマスターの部屋に連れて行かれた。
「クリストフくん。それで森はどんな状況なの?」
「はっきりとした状態はわかりませんが、恐らくは山頂の魔物たちが下に降りてきているようです。既に中腹には多くのフロストウルフがいました」
「フロストウルフか……。なら最低でも上位冒険者からなる合同チーム、単独なら最上位冒険者以上じゃないと太刀打ちできないね」
「はい。合同チームの場合は五人一組ほどにするのがいいかと」
「他には?」
「あとは、冒険者の数が少なかったですね。森に入ってからアリスとミシャにしか会ってません」
「ちょっと待ってて」
リルリメはそう言い残し、部屋を出ていく。
その後しばらくして紙を持ってきて再び椅子に座った。
「これを見て。これが今日依頼を受けた人数だね」
リルリメがさっき持ってきた神にはアリス、ミシャ以外に3組の冒険者たちが依頼を受けている。
その全員が中腹での依頼を受けていた。
「この人たちは死んでいる可能性が高いでしょうね」
クリストフは無惨にもその事実を言う。
「ですね。この人たちじゃ、フロストウルフには対抗できないしね」
それにリルリメも同意した。
中腹は本来、中級者向けの魔物がいる場所。
そこに山頂付近を住処すると魔物が群れをなして中腹に来たとなると、敵性外の魔物の群れを相手にすることになる。
慣れない相手に加えて、いつも戦っている魔物よりも強い相手だ。
それを相手取り、生きているとは考えられなかった。
そんな話をしているとき、部屋の扉が叩かれた。
「ハルトです」
「やっと来た。入って」
「失礼します……、ってクリストフか!?」
部屋には入ってきたハルト派リルリメの前に座っているクリストフを見て驚いている。
「クリストフくんは今や貴重な戦力だからね。ここにいてくれなくちゃ困るの」
「担任としては危ない場所には行かせたくないんですが、非常事態のようですし強いものの力は借りなくちゃいけませんか」
リビラは現在、最上位以上の冒険者の数が少ない。
その要因は近年リビラの強い魔物が減ってきており、依頼自体が少なくなっているためだ。
そのため高ランクの冒険者たちは他の街で依頼を受けるようになり、この街からには高ランク冒険者の数が昔よりも少なくなっている。
ただ代わりに上位以下の冒険者の数は昔よりも増えているようだ。
リルリメはフロストウルフに単騎で戦闘ができる最上位冒険者の存在は少ないため、たとえ学生の身であっても、使えるものは使いたいと考えている。
「でも、リルリメさん。クリストフは王族ですよ」
「は?」
「………」
ハルトの言葉を聞いたリルリメは口を開けたまましばらくフリーズする。
クリストフは王族とバレるとこうなることが想定できたため、冒険者になるときに王族の姓であるアーノルドではなく、母方の姓であるボルザークを使っていた。
その後頭の中で整理が出来たのか動き出した。
「それは本当?」
「ええ。学園ではアーノルドの名を使っていますよ」
「王族には流石に危険な目には合わせられないな……」
流石のリルリメでも王族を怪我の確率の高い最前線に出撃させるのは躊躇している。
そしてこの様子だと恐らく戦線に立つことすらできなくなる。
それは回避したいと思ったクリストフが二人に話しかけた。
「王族だからと戦えるものを後ろを下げるのは愚者のすること。それに私は王族は民に守られるものではなく、民を守るものだと考えます。ですので私は反対されようと前線に行きます」
「君はそうかも知れないけど、何かあったら私たちの責任になるんだよ」
「そうだ。だからせめて援護くらいにしておいてくれ」
「ですが……」
「なら私が責任を取ります」
そう言って部屋に一人の男が受付嬢に止められながらも入ってくる。
そしてその男の名は、
「ボルザーク・ティア・バーグ。
クリストフの師匠であり、最高位冒険者でもあるボルザーク・ティア・バーグであった。
「バーグさん。どうしてこんなとこに!」
バーグの姿を見たリルリメが声を上げる。
バーグとリルリメは過去に同じ最高位冒険者として知り合いであり、今は現役を引退したと知っているため、随分と驚いている様子だ。
「いや、リルリメ殿。坊っちゃんの様子が気になって来てみたんです。そしたら何か騒がしいのでここによってみたんです」
バーグがここに来た理由を説明している間に影狼がバーグの影からクリストフの影に移動している。
バーグはどうやらたまたまここに来たと言うふうにしたいようだ。
それはクリストフたちの連絡手段をバレないようにするためのカモフラージュだ。
「盗み聞きのようで罪悪感はありますが、先程の話は全て聞きました。そしてそのような危機的状況ならば使える戦力は全て投資するべきだと私は考えます。坊っちゃんにもしものことが心配ならば私が責任を取りましょう。それでどうです?」
「……それならばクリストフくんが前線に出るのを認めましょう。ところで、バーグさんは戦闘に参加してくれるんですか?」
「ええもちろん。この街が落とされでもすれば、大損害ですので。配置などは決まっているんですか?」
「いえ、まだですね。ではここにいる四人で考えましょう」
「わかりました。時間は有限ですので急ぎましょう」
「ですね!」
それをきっかけにクリストフ、リルリメ、ハルト、バーグの4人は本格的な話に入った。
そして20分後、冒険者たちの配置が決定した。
まずは絶対防衛ラインであるリビラと森の入り口を守る部隊は中位以下の冒険者全員と王立学園の学生たち、そしてギルドマスターであるリルリメ。
次に麓で魔物の討伐に出るものが上位冒険者の中でも下に位置する冒険者たちと王立学園特進クラス生徒。
その次が中腹での魔物の討伐を行う残りの上位冒険者と最上位冒険者。
高位冒険者はその全ての範囲を援護する遊撃部隊。
その目的はできる限り死傷者を減らすことだ。
そして最後の部隊、最も危険とされる山頂での今回の原因の元を断ち切る作業をする少数精鋭たち。
メンバーは最高位冒険者、
加えて最高位冒険者まであと少しと言われるハルト。
最後にバーグの弟子であるクリストフだ。
クリストフがこの配置になる際、ハルトから猛烈は反対があったのだが、バーグの弟子であるということと最上位冒険者の依頼を無傷で帰ってきたという実績によってこの場所に選ばれた。
もう既に皆が動き出そうとしているのにも関わらず、ハルトはまだその采配には不安そうだ。
「ハルト先生。俺のことが不安なのはわかりますが、もう決まったことを気にしても仕方ないですよ」
「バーグさんの言ってることもわかるんだ。自分の横が一番安全だから連れて行くって。確かにそうだとは思うんだけど、自分の生徒を最前線に連れていくのはねぇ」
ハルトはクリストフが最前線で活躍するのが嫌でこんな事を言っているのでなはい。
クリストフの身を案じて言ってくれているのだ。
そのためクリストフは嫌な感じはしないのだが、こんなにも心配してくれていると実力を隠しているクリストフが申し訳なくなってくる。
「そこの2人。そろそろ動くよ」
絶対防衛リビラに残るリルリメが声をかけてくる。
彼女は同時に全体の指揮を行うため、今の少しの時間の間にもいろいろな冒険者と話をしていた。
リルリメが指揮官をするのには2つ理由がある。
1つは魔眼の力。
後に開眼した魔眼は天理の魔眼と呼ばれるもの。
現在の能力はただ地上を鳥などの目を借りることができるといったシンプルな能力。
恐らくは使い続けることで能力は進化するだろうが、今はそのシンプルな能力が指揮官として有用になる。
その力を使ったリルリメの役割は、攻めてくる敵に適切な戦力を送り、奇襲を事前に察知することだ。
もう1つがギルドマスターという地位によって冒険者たちそれぞれの特性をよく理解している点。
この2つにより敵の属性に合わせた冒険者を送ることができるようになり、もっと戦場は楽になることだろう。
そうした2つの理由でリルリメが選ばれているのだ。
そして、絶対防衛ラインに最高位冒険者が残ることで、万が一の際の保険にもなることができるのだ。
ゴォーーン、ゴォーーン、と街の鐘が鳴り響く。
それは街の高台から魔物が見えた時の合図。
つまるところ、敵襲の合図だ。
「リビラ守護組と麓組の冒険者たち!すぐに移動を始めて!」
リルリメの叫びと同時に中位以下のリビラ防衛を行なう冒険者たちと麓で魔物の討伐を行なう上位冒険者たちが一斉に動き出す。
それに続くように王立学園の生徒たちも動き出した。
「始まりましたね」
「ああ」
いつの間にかクリストフたちの後ろにいたバーグが声をかけてくる。
クリストフの背には身長と変わらないほど大きな剣鉈を背負っている。
「3人はまだ動かないでね。体力は残した状態で山頂に着くようにしたいか」
「わかってます」
それから数分後、麓にいたランクの低い魔物の掃討が終わったのをリルリメが魔眼で確認した後、リルリメが中腹組の出撃の指示を出す。
中腹組の役割は麓組の掃討とは違い、一部の制圧。
山頂までのルートを確保するのが中腹組の役割だ。
中腹の制圧は麓の掃討よりもずっと時間がかかることになった。
そしてついにクリストフ、バーグ、ハルトの出撃が命じられる。
「3人はとも、無事に帰ってきなさい」
「はい」
「ええ」
「もちろんです」
3人は森に走っていった。
★
山頂の地下にある部屋で4人のものがいる。
「麓と中腹の一部の魔物が倒されたな」
「ああここまでは予定通りだ。だが……」
「
「あれと戦える魔物はいないのか?」
「現役のときならここにいる奴らじゃ戦えなかっただろうが、あいつは老兵だろ。例の部隊で倒せるんじゃないか?」
「そうかもしれんが、それでも心配だ。例の部隊の数を増やすぞ」
「了解。それは任せて」
そう言って1人が部屋を出ていく。
「残った者たちで計画を確実に遂行するための作戦を修正するぞ」
「ああ」
「そうだな」
そして、その部屋よりも下には1人の男が囚われていた。
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