第22話 リビラ防衛戦 其の弐
クリストフたちは無事に制圧してくれていた部隊のおかげで無事に中腹を抜けることができ、山頂まであと少しというところまで来ていた。
だが山頂にはなぜかたどり着けなかった。
「恐らく結界だな。しかも山頂周辺全体にかけられてる」
「バーグ。【
バーグはクリストフに言われた通り、【
だが何も起きなかった。
「この結界には意味がなさそうですね」
【
拒む結界ならば壁に大きな穴を開ければそこから穴が広がっていき、結界はやがて崩壊する。
だが霧の結界は大きな穴を開けても自然と別の霧がその穴を塞いでしまう。
そのため一部の術式を壊したとしても意味がないのだ。
「それじゃあ、どうしようか?」
「恐らくこの結界は魔法陣を何箇所かに置くことで成り立っているのでしょう。その魔法陣の場所を見つけて壊すのいいでしょう」
問題はその肝心の魔法陣がどこにあるのか、いくつ仕掛けられているのかがわからないことだ。
「じゃあ、探しに行くか」
「クリストフ。その前に客が来たみたいだぞ」
「そうですね」
ハルトがそう言うと、霧の中から魔物が出てくる。
「ただのフロストジャイアンじゃないな」
「ハルト殿は特殊個体は初めて見ますか?」
「特殊個体自体は初めてではないが、準Sランクの特殊個体は初めてだな」
「なら注意してください。高ランクの特殊個体低ランクのものとは別格です」
霧から出てきたのは特殊個体フロストジャイアン8体。
その全てがSランク以上あり、内3体はSSランク級だ。
敵が全て出てきたのがわかった3人は皆、各々の武器を抜く。
「誰がどれを担当しますか?」
「バーグさんが3体、俺も3体、クリストフが2体が妥当じゃないか?」
「俺が3体でもいいぞ」
「いや、本当なら1体にしておいてほしいとこを2体にしてるんだ。文句は言わないでくれ」
「わかった」
「では私は中でも強そうな3体の相手をしておきます」
バーグはそう言って一足先にSS個体を連れて離れた場所に行った。
「ここの地形は戦いやすいだろうし、ここはクリストフにやる。死ぬなよ」
「先生こそ」
ハルトも現在いる場所は平らで戦いやすいだろうということでクリストフに場所を譲って別の場所に行った。
「さて。俺の訓練に付き合ってくれよ」
クリストフは敵は氷ということで烈火を使って戦うことにしている。
「烈火一式【炎虎】」
今回出した炎虎は2匹。
その理由は数を絞ることにより個体を強くするためだ。
「お前らは左の相手をしておけ」
クリストフは右にいるフロストジャイアンの前に立つ。
「烈火三式【火炎龍】」
クリストフの身体が炎の龍に包まれ、フロストジャイアンの体の周囲を回りながら切り刻む。
その攻撃には炎が宿っており、傷口は全て炎で焼かれている。
『グワヮーーー!!』
「炎が弱点なのは変わっていないか」
フロストジャイアンがその焼ける痛みにより、耳が痛くなるほどの叫び声を上げ、膝をつく。
その様子を見たクリストフは耳を塞ぎながら呟く。
叫び終わったフロストジャイアンは傷口を凍らせており、時期に痛みは収まったのか、立ち上がってクリストフに対して手を構えた。
そのフロストジャイアンの全身は厚い氷に包まれており、先の攻撃を食らわないように工夫しているように見える。
「まだ戦う気はあるみたいだな」
クリストフは【炎虎】は残したまま烈火を影収納にしまう。
戦斧を取り出した。
銘は剣斧盾ジグラズ。
その戦斧はただの戦斧ではなく、魔力で刃の位置がずれる構造になっており、盾にも大剣にも変わるギミックを組み込んでいる面白武器だ。
クリストフは斧モードで構える。
フロストジャイアンが叫びながらクリストフに突撃してくる。
そして同時にクリストフのいる地面から氷を生やして攻撃をしてきた。
クリストフは生えてきた氷を避け、その氷を足場にしながらフロストジャイアンのもとに向かっていく。
フロストジャイアンの拳とクリストフの斧がぶつかる。
クリストフの方が勢いは強く、フロストジャイアンの拳の氷の右グローブにヒビが入る。
だがそのヒビはすぐに修復され、フロストジャイアンは左フックを入れてくる。
その攻撃に気が付いたクリストフはすぐに形態を盾に変形し、その攻撃を防いだ。
だが勢いを殺すことはできず、そのまま吹き飛んでいき、氷の山にぶつかる。
「ああクソ。弱点をつかなかったら魔力を使わないと勝てそうにないな」
クリストフは先程の戦いの中、魔力を使わずに純粋な身体能力だけで勝負をしていた。
その理由は魔力なしの自分の限界を確かめるため。
つまるところ、執行官としてではなく、皇子であるときの自分の戦闘力を把握しておきたかったのだ。
今の限界はSランクとは戦えはするが、勝てないといったところだった。
今の限界を知ったクリストフは身体強化を使い、まずは1体倒すことにする。
クリストフにとどめを刺すためフロストジャイアンはクリストフに思い切り殴りかかる。
今度はそれをしっかりと止めたクリストフは盾を大剣に変形させ、フロストジャイアンの手首を切り落とす。
その痛みでフロストジャイアンが一歩下がった。
それを好機とクリストフはフロストジャイアンの足元に飛び込み、両足の関節と腱を一瞬にして切る。
それによりフロストジャイアンは膝をついて倒れる。
クリストフは大剣から斧に変形させ、思い切り頭目掛けて斧を振り下ろす。
フロストジャイアンの頭蓋が割れ、1体目のフロストジャイアンが絶命した。
1体目を倒し終わったクリストフは【炎虎】と戦っている2体目の様子を見に来ていた。
「【炎虎】も傷を追っているが、相手もなかなか傷ついているな。このままいけば相討ちにでもなりそうだな」
1体目のフロストジャイアンが生やした氷の上で休憩をしながら戦いの様子を見ているクリストフはそんな独り言をしていた。
その後、フロストジャイアンが【炎虎】に勝ちはしたが瀕死であったため、クリストフが攻撃を始めるとすぐに倒せた。
★
ハルトはフロストジャイアンの3体を連れて、少し開けた場所に移動していた。
「3体ともしっかりついてきているな」
ハルトが先程まで走っていた場所を追うように来ているのを確認したハルトは一人で呟く。
そしてその通路にはハルトお手性の罠が幾つも張られている。
「よし。かかった」
ついてきたうち2体が穴に落ちたのを見たハルトは小さくガッツポーズをする。
穴の中にはハルトが魔法を使って即席で作った土でできたスパイクがいくつも仕掛けられているため、それらが足に刺さり、簡単には出てこれない。
「これで一対一だな」
ハルトは背中の大剣を引き抜く。
銘はシュリア。
魔力伝導率が非常に高く、ハルトが遺跡で見つけたアーティファクトであるがまだ過去の力は取り戻していない。
そのためドワーフの名工に修理してもらおうと思ったことがあるのだが、過去に断られたことがあるのであわよくばこの機会に修理してもらえたら嬉しいなと密かに思っていたりする。
だがそんな中途半端な状態であるのにも関わらず、その大剣はフロストジャイアンとの勝負には競り勝つことができる。
フロストジャイアンの拳をハルトは真っ向から防ぐと、フロストジャイアンの拳が砕ける。
その後、フロストジャイアンはハルトから離れ、無数の【氷槍】を打ち込んだ。
ハルトはその攻撃を自分の得意魔法属性の土魔法【
そしてハルトは攻撃を防いだ【
フロストジャイアンはすぐに氷の盾を作って対処していたが、ハルトの【
『グワヮーーー!』
身体に刺さった痛みでフロストジャイアンは思い切り叫ぶ。
その隙にハルトは一気に近づき、戦いを終わらそうとする。
だがフロストジャイアンが自分の周辺から氷山を生やし、近づくことができなくなった。
【
「殻にこもりやがったな」
ハルトはシュリアで斬ろうともしてみたが結果は変わらず、大して壊すことができなかった。
なのでハルトは1体目は置いておいて、罠にかかっている2体を先に倒そうと考え、罠の場所に移動した。
★
穴を見に行くと2体とも【氷槍】を使って壁に突起を生やすことで出ていこうとしている。
ハルトはその外に出ていこうとする2体に容赦なく【
もう少しで登れそうだった方もその攻撃で下に落ちていき、落下中【
もう片方はハルトの攻撃にすぐ気付き、穴を塞ぐように【氷槍】を生やしたため、攻撃は食らっていない。
結果、もう少しで登れそうだったフロストジャイアンだけを倒すことが出来た。
「倒せはしたが、残りはどうしたものか…」
片方は穴の中で氷の屋根を作り、出てくる気配がない。
もう片方は地上で氷の繭に入っており、こちらも出てくる気配がないのだ。
かと言って放置しておくと後々面倒なことになるのは目に見えている。
しばらく考えた後、穴にいる方の対応は思いついた。
ただ、素材が取れなくなるのと魔力消費が激しいため、あまりしたくはない方法だ。
地上の方はそっちを倒しながら考えることにした。
「【
ハルトの思いついた作戦は穴を溶岩で塞ぐという荒業だ。
ハルト自身の魔力量は普通よりは少し多いくらいあるが、魔法はあまり得意ではない。
そのため、【
さらに、【
【
そして少しずつ氷を溶かしていき、中からは叫び声が聞こえてくる。
やがて声は聞こえなくなり、そのタイミングでハルトは【
地上に残った最後の1体はまだ氷の中に入っており、まだ出てくる気配がない。
そのため先程大量に消費した魔力を回復するために休憩をすることにした。
だがその休憩も大して取ることはできなかった。
休憩を始めてから数分後に1体目が動き出したためだ。
魔法の兆候を感じ取ったハルトは横に置いていたシュリアをすぐ手に取り立ち上がり、その場を離れる。
その直後、ハルトのもとに【氷槍】が飛んできた。
先程までいた場所に何本も【氷槍】が刺さっており、後少し遅れていればハルトはそれらに身体を貫かれ、死んでいただろう。
「危なかったな」
その光景を見たハルトは思わず声に出した。
そしてまた魔法の兆候を感じた。
次もハルトを狙っているのだろう。
「【ストーンウォ…】、いや【身体強化】」
ハルトは【
その理由は魔力の温存。
先の【
ハルトは岩に隠れながら移動を続ける。
ハルトが通ったあとの岩は高確率で【氷槍】により粉々にされていく。
そんなことがしばらく続いた後、ようやく【氷槍】が止まった。
その気を逃すまいとハルトは一気にフロストジャイアンに近づいていく。
フロストジャイアンを覆っていた氷は既になくなっており、後は接近するだけ。
そう思っているのも束の間、フロストジャイアンとハルトの間に再び氷山が生えてくる。
そのせいでハルトはフロストジャイアンに接近できなくなった。
ハルトは舌打ちをし、横が空いていたので横に回り攻撃をしようとする。
だが氷山を抜け、横についたときに見たのはハルトに向けて大量に用意されている【氷槍】だった。
それらの【氷槍】の生成は既に終わっており、後は発射するだけの状態だ。
先程まで【氷槍】を使っている際には魔法の兆候が出ていた。
だがこの攻撃はその兆候なかった。
そのためハルトは油断していたのだ。
「やべ!」
ハルトが横に来たのを確認したフロストジャイアンは用意していた【氷槍】を一気にハルトに打ち込まれる。
ハルトはすぐに魔法障壁を展開する。
だが即席の魔法障壁の強度は低く、数発当たると破れてしまった。
その後ハルトは身体をひねったりすることでなんとか致命傷は避けることができたが身体中に切れた跡がいくつか出来た。
ハルトはフロストジャイアンの攻撃が終わったのを見計らい、一気に近づく。
フロストジャイアンは自分の攻撃で地面から出てきた雪の粉でハルトの姿が見えず、その攻撃に反応できない。
そしてハルトはフロストジャイアンの首を切り落とし、最後の1体を撃破した。
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