第5話 1日目 自転車日本一周に出発、和歌山へ【2016/04/05】
さて、いよいよ日本一周出発の日。昨夜はやっぱり眠れなくて。大丈夫かな、やっぱり出発を延ばそうかな、なんて弱気になったりも。朝は5時ころに起きたんだけど、ちょっと寝不足気味。いつもどおりの、パンとコーヒー(ミルクたっぷり)の朝食を食べて、6時ころにいよいよ出発することに。両親、特に母はやはり不安そう。ひとまず1ヶ月ほどだし、毎日連絡はするからね。
外に出ると良い天気。今日明日は雨は降らないって予報。自転車にバッグを付けて出発準備。前・後輪横に4つのサイドバッグ、ハンドルにひとつ、後のキャリアにひとつ、合計6つの防水バッグを積んだツーリング自転車、この長い旅の相棒にまたがる。まずは出発の儀式。自転車を前後に揺らしながら、前ブレーキ、後ブレーキがきちんと効くかのチェック。大丈夫そう。もちろんタイヤに空気はしっかりと入っているのは確認済み。
「それじゃあ、行ってくるね」
心配顔の両親に一言だけ言って、自転車を漕ぎ出す。荷物をたくさんつけた自転車の漕ぎ出しは重くフラつくので、ハンドルに重心をかけて、押さえつけるようにする。漕ぎ出しのときのギアは軽め、スピードにノッて安定してきたところで、ギアを少し重めにする。
今日の目標は和歌山県和歌山市の叔母の家。距離にすると100kmちょっとくらい。和歌山への道は2度ほど走っているので、それほど不安はない。
まずは
嬉しいのは川沿いの道にはたくさん桜が植えられていることくらいかな。2・3日前に満開を迎えて、いま散り始めの頃。満開の桜を見上げるより、風に散る桜吹雪が好き。狭いサイクリングロード一面に、花びらが積もっているところもあって、雪化粧ならぬ桜化粧だね。
サイクリングロードで気持ちよく走れるのは、
ただ、その後は徐々に上り坂になってきて、
国道24号線はこのあたりも交通量が多くて走りにくい。トラックよりも普通の車が多くて、路肩あたりや自転車走行可能の歩道も走りにくくて、自転車はどこを走れっていうのよ。しばらく24号線を走ったあと、新町通りと呼ばれる、昔ながらの街道へ。この通りにはまぼろしの鉄道、旧国鉄五新線遺構があるんだよね。アーチ橋が続いていて、吉野川(紀の川)手前でぷつっと途切れているという、結局線路は敷かれずに高架だけが作られたってやつ。たぶん、この旅ではこういった鉄道遺跡にたびたび出会えるだろうな、なんて思いながら通り過ぎていった。
新町通りが終わりをむかえて、国道24号線に合流する。しばらくまた交通量が多くて走りにくい道を走り、山賊村なんていう極悪風な看板を過ぎたあたりで、左折して南下。ここで国道24号線とはお別れして、吉野川の南側を走るルートへ。
しばらくは吉野川と離れるのだけど、和歌山県橋本市に入るあたりからは、吉野川が名前を変えた紀の川に沿って走るような道。しばらくは交通量も少なく走りやすい道が続く。南海高野線が見えたところくらいからは、ちょっと走りにくくなるのだけど、ここらはもう勢いで走っていく。しばらく走って
道の駅柿の郷くどやまについたのは11時半くらい。出発して5時間半くらいで、走った距離は65kmくらい。ちょうどお昼御飯の時間なので、道の駅でなにか良さげなものを見繕って食事にしよう。
道の駅の中にはただいま絶賛放映中のNHK大河ドラマ「真田丸」関連企画なのか常設なのかわからないけど、甲冑なんかが飾ってあって、真田幸村の町を絶賛アピール中だったが、そんなのは放っておいて、物産販売コーナーへ。道の駅の物産コーナーっていいよね。さすがに野菜とかは買わないけど、地元の食材を使ったお弁当とかが嬉しい。めはり寿司と梅ジュースを購入。
めはり寿司って知ってる? おにぎりを高菜で巻いたもの、といえば分かりやすいかな。和歌山出身の母によると、目を見張るほど大きいから、めはり寿司っていうらしいけど、諸説あるみたい。どっちかというと和歌山県の南部のほうの名産なんだけどね。道の駅で売っていたのは、コンビニのおにぎりと同じくらいの大きさのものが2個入ったもので、それほど大きくはなかったけど、お腹は膨れたよ。ただ高菜が噛み切れなくって、ちょっと食べにくかったかな。中の具も高菜で美味しかったけど、めちゃくちゃ美味しいかと言われるとそうでもなくて、まぁふつうに美味しいかなってくらい。でも普通の海苔(味付けじゃないやつね)を巻いているよりは、美味しかったかな。
食後はちょっと休憩して、道の駅を出発して、紀の川沿いのサイクリングロードを走る。ところどころ途切れているのが残念だけど、これまでの道に比べるとやはり気持ちよく走ることができる。基本下り基調なので、ずいぶんと楽になった。あっ、下り基調って「ちょっとした上りや下りがあるけど、平均すると下っている」って感じの言葉ね。これって自転車用語かな?
紀の川沿いをずっと走って、紀の川に
残念なことに初代たま駅長は亡くなっちゃって、現在はにたま駅長になっているんだけど、ぜひ会ってみたかったんだ。でも、そのまえに何この駅舎。
駅にはたくさんの観光客が来ていて、これもすべてたまのおかげなんだろうね。たまが駅長に就任して話題になったときの経済効果11億円あったらしいし。よく見ると日本人以外の観光客もいるみたい。ワールドワイドに広まっているんだね。中に入ると、ちょっとお洒落なカフェがあって、たまの写真なんかもたくさん飾られている。その片隅ににたま駅長がいたよ。かわいい。ちょっと見世物的になっちゃっているのでかわいそうな気もするけど、かわいい。公式なイベントの時に被っている駅長帽は被っていなかったのは残念だけど。あたしはイヌよりネコ派なんだよね、いまさらだけど。
ホームに行くと、たまがたま大明神として祀られている。多分、動物駅長のパイオニアで、崇められるのも当然だよね。昔の駅舎でたま駅長の時は、改札(昔ながらの人が立って切符切っていたところね)にたま駅長が座っていて、自由に撫でられた時代もあったみたいで、そういう時代に来れたら良かったのになぁと思ったりも。
そうこうしているうちに、たま電車がやってきた。和歌山電鐵貴志川線の成功は、たま駅長の効果もあったけど、個性的な車両の効果もあったよね。ラッピング電車だと見た目だけのインパクトだけど、和歌山電鐵の車両は内装も凝っているしね。たま電車はホームからだとよく見れないので、一度駅舎をでて線路を渡ったところから、車両を撮影。車両を正面から見ると、窓が目になっていて、ヒゲが書かれて、耳があって、パンタグラフの下のところがしっかりと駅長帽になっているのね。凝っているよね。
ホントはもうひとつの売りである、いちご電車も見てみたいけど、そこまでゆっくりしていられないので、たま電車の写真を撮ったところで、たま駅とはお別れ。時間はもう午後の3時半だ。叔母の家まであと20kmくらいかな。あまり遅くなるのも悪いから、明るいうちに着きたいし、和歌山ラーメンも食べたいし。ここから急ぐよ。
というわけで貴志川線沿いの道路をつっ走り、和歌山駅付近に到着。第2の目的は和歌山ラーメン!和歌山ラーメンっていうと、母に和歌山では中華そばだからっ!って言われる。そんでもって井出商店へ向かう。今では和歌山ラーメン=井出商店って感じだけど、母いわく和歌山の中華そばでは、昔は井出商店系は少数派で、丸高系が主流派だったらしい。一時期、車庫前系なんて分類で呼ばれてたけど、地元ではそんな呼び方はなかったらしい。丸高系は井出商店に比べてあっさりめで、一緒におでんも売られていたらしい。母が子供の頃は、丸高は今の場所じゃなくて、高松のバス停付近にあったらしいって。らしいらしいばかりだけど、母から聞いたのはそんな感じ。
まァ、そんな知識はどうでも良くて、井出商店である。時刻は午後4時半くらいで、中途半端な時間なのか、行列はできていなくってすぐに入れた。メニューは中華そば、特製中華そば、それぞれの大盛り、あとは寿司と玉子のみ。すごく潔いメニューだよね。何度か井出商店に連れてきてもらったことはあるので、注文も手慣れたもの。特製中華そばを頼む。寿司や玉子は注文しないのよ。食べたいだけ、置いてあるのを取って食べれば良いの。お会計時に食べた数を自己申告するというシステム。和歌山ラーメン初心者はこのシステムが最初はわからないよね。
ラーメン、おっと中華そばが来るまで、寿司をひとついただくことに。寿司とだけ書いてあるけど、一般的な皿に乗って回転しているような寿司じゃなくって、早寿司と呼ばれる鯖寿司。早なれ寿司とか、あせ寿司とかとも呼ばれるって。母が子供の頃は、あせの葉で包まれていたので、あせ寿司って呼んでいたけど、いつの間にかビニール製の葉を模したものになっちゃったって。で、今は早寿司って呼ぶほうが一般的なんだって。昔はもっと大きかったらしいけど、小さくなったのはしょうがないよね。奈良の柿の葉寿司よりは大きいよ。
置いてある早寿司をひとつ取って、葉っぱ風のビニールを取って食べる。おいしい。刺し身とかは苦手で、寿司も基本的に苦手なんだけど、この早寿司は大丈夫。奈良の柿の葉寿司に比べると、鯖の身がしっかりとしていて、ちょっと分厚いのかな。
ちなみに近畿圏の鯖寿司文化について、ちょっと考えたことがある。大阪では鯖の押し寿司であるバッテラがよく食べられていて、奈良では柿の葉寿司、和歌山は早寿司。京都は知らないけど、若狭から鯖街道を通って、京都に鯖がもって来られていたって聞くから、近畿圏の鯖寿司文化って、そこら辺から由来があるのかなって。あっ、今だと福井に焼き鯖寿司ってあるよね。あれは近年に作られたみたいだけど、あれも美味しいよね。
中華そば食べに来たのに、寿司の話になっちゃった(笑) そんな事を考えているうちに、中華そばが来たよ。特製だからチャーシューが多いのよ。独特の豚骨の匂いがあって、食欲をそそられる。和歌山のラーメン店って近づくとこの豚骨の匂いがしてくるよね。目隠しされても、和歌山ラーメンって当てられるかも。和歌山ラーメンは麺より、スープが好きだな。麺はやや柔らかめ。博多ラーメンでバリカタなんて注文しちゃう人には、口に合わないかもね。でも、この柔らかい麺こそが和歌山ラーメンって気もする。あぁ美味しい。
満腹になって、あとは叔母の家に向かうのみ。午後6時過ぎに伺うって伝えてあるから、時間は充分に間に合いそうっていうか、ちょっと早いかも。せっかくだから和歌山城によっていこう。桜のシーズンなので、多分きれいだろう。
和歌山城の桜を見たあとは、交差点をわたったところにあった、暴れん坊将軍吉宗公の像で記念撮影。この像、和歌山城の南側にあって、和歌山城を向いて立っているので、写真を撮ろうと思うと大体の時間帯で逆光。それに和歌山城っと一緒に撮影しようと思うと後ろ向きになっちゃうじゃん。記念撮影することまで考えて、向きを決めて欲しかったな、なんて。
午後6時過ぎ、和歌浦にある叔母の家に到着。母の2才年下の叔母は、独身で経理の専門学校に務めるバリキャリで、スタイルも良くて、ちょーかっこいい憧れの女性なの。以前は祖母といっしょに祖母の家に暮らしていたんだけど、祖母がなくなってからはそのまま一人で暮らしている。だから家は母の実家にもあたるの。祖母が生きている時は、盆と正月には来て泊まっていたから、泊めさせてもらうのも懐かしさもあってちょっと嬉しい。
とりあえず今日の行程を話しして、にたまが可愛かったことを特に強調して話して、ラーメン食べてきたけど、夕食も作ってくれたのでまた食べて(チャリダーは常に腹ペコなの)、ゆっくりと風呂に入って、今日は終わりってことに。寝る前は叔母と少しおしゃべりして、楽しい気分で眠りについたよ。
本日の走行距離 121.5km。思ってたより走ったね。
ぼっち・ざ・サイクリング!! けたじぃ @keta_g
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