第58話 目的と手段

 シルヴィアは足元に落ちている拳銃を拾い、ホルスターに納める。


「まずは、キミ達の目標を確認しておこうか。キミ達は、何をどうしたいのかな?」


 イーリスが一歩前に出て、力強く答える。


「私は獣人が……いや、全ての種族が世界のどこにでも行けて、どこにいても殺されないような世界を創りたい!」


 壮大で、無謀にも思える目標、だがシルヴィアがその言葉を笑う事は無かった。


「……大きな夢だね、でも、私は不可能だとは思わない。何せ、たった三人で一つの国を陥落させる程の力があるからね。でもね、力だけでは世界は変えられないよ。この世界は、キミ達が思っているより遥かに複雑だからね」

「御託はいい、早く話してくれないか」


 アルベルが横から口を挟む。


「そうだね、ここに長居するのは危ないし、本題に入るとしようか……まずは、キミ達が戦った“使徒”そして“夜の傷跡”について話そうか。この二匹の化け物にはいくつか共通点があるんだが、イーリス君、分かるかな?」

「え? えーっと、何となく形が似てた、かな?」


 突然の問いに動揺しつつも答えるイーリス。


「まあ間違いではないね。他にも、人を材料にしている点、そしてこれはまだ不明確だが、恐らく制作者も同じだ」


 アルベルはウンザリしたような様子で質問する。


「って事は、どっちも人が作った怪物って事か? そんなの兵器じゃないか、量産されたらどこの国もひとたまりもないだろう」


 シルヴィアはその言葉に素早く反応する。


「それ! そうなんだよ! 奴らは兵器としての運用を想定して作られているんだ、詳しい製法は全く分かってないんだけどね、そして二匹の怪物には相違点もある。肌の色が違うとか、強さや能力が違うとかあると思うけど、一番の違いは成功か失敗かってところだね」

「”夜の傷跡“の方が失敗作って事かしら」


 シトリーの言葉にシルヴィアが頷く。


「その通り、あっちは全く制御が効かないからね。兵器として運用するには危険過ぎる。でも”使徒“の方は、ああ見えて制御ができる状態にあったんだ」

「でも、誰かに操られて動いているようには見えなかったわ」

「きっと自律行動していたんだろう、素体となった人間の意思も残ってただろうしね。それでまあ一応聞いておくけど、強かったでしょ?」


 三人は即座に頷く。


「めっちゃ強かった、もう二度と戦いたくない」

「正直言って、ヤバかったわ」

「…………」


 アルベルとシトリーは思い思いの感想を述べ、イーリスは無言で二人の話を聞いていた。


「あんなのが大量に世に放たれたら、それこそ世界はおしまいだろうね。でもまだ幸いにも、量産には至れていないようだし、早めに潰しておけば何とかなると思うよ? それに、キミ達がこの問題を解決し、世に公表する事で、獣人の立場向上にも繋がると思うんだよね。世界を救った英雄が獣人なら、いくら亜人差別をしている王国でも、扱いを多少なりとも改善すると思うんだよ」


 シルヴィアは一旦話をやめ、その場に座った。


「まあキミ達も座ろう、私は少し疲れた」


 他の三人も言われるがままに座る。


「さて、話の続きをしよう。この情報を伝えるように私に依頼したのは魔王だ、恐らくこの問題を対処するのに一番手頃な手駒だと思われたんだろうね。でもまあ、上手く解決できればキミ達の悲願に大きく繋がると思うよ」

「解決したいのは山々だが、具体的にはどうすればいいのさ」


 アルベルが当然の疑問を口にする。


「化け物を作ってる奴を倒せば良い。キミ達、”賢者達“って聞いた事あるかな?」

「当然知ってるさ、帝国で指名手配されてるネームドだろ? もしかしてそいつが犯人なのか?」

「うむ、そして私は何とかその正体に辿り着く事ができた。”賢者達“……いや”賢者“の正体は……」


 シルヴィアはその続きを話そうとした。

 その瞬間、イーリスは何故か時間が止まったような感覚に囚われた。


 (あれ? 何これ? 体が動かない、シルヴィアも止まってる、どういう事?)


 イーリスは必死に思考を巡らせるが、時間は止まったままだ。

 そして、イーリスは視界に映るものに集中し、とある違和感に気づく。


 (あれ、シルヴィアの後ろ、何か……)


 その瞬間、時間が動き出す。

 それと同時に、シルヴィアの首が胴を離れ、宙を舞っていた。

 その光景が目に映った三人は、座った体制から素早く後ろに飛び退いた。

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