第57話 ある銃士

 それから数週間の時が経った。

 イーリス達は週一の模擬戦をこなしつつ、平和な日々を送っていた。

 季節は冬、外に出ると冷たい風が吹きつける。


 そんなある日の朝、イーリスは外の空気を吸いに外に出ていた。


「うーん、さむい、そろそろ防寒着でも買おうかな」


 イーリス達の普段着は元々それなりに厚着である、しかし、それでも寒い冬に外で動き回るには少し心許なかった。

 寒そうな様子で家の前をウロウロしていると、突然メレウスが姿を現す。


「おはようございます、イーリスさん。こんな寒い日にお散歩ですか?」

「ええまあ、そんなところです。それより、今日は模擬戦の日じゃないですけど、何かあったんですか?」

「はい、今回は傭兵としての貴方達に用があって参りました。ここは寒いでしょうし、詳しい話は中でしましょう」


 イーリスはメレウスを家に招き入れ、四人でテーブルを囲む。

 最初に話を切り出したのはメレウスだった。


「では、早速本題に入りましょうか。先週、アラド大森林南部にて魔獣掃討中だった魔王軍部隊が何者かによって襲撃されました。これにより兵士数人が負傷しました」

「魔王軍に喧嘩を売るなんて、命知らずねぇ」


 シトリーは他人事のように呟く。


「逃走した兵士の証言によると、相手は銃を扱う灰色髪の狐獣人だったようです。今回貴方達に依頼した理由は、対象を生け取りにして欲しいからです」

「……拷問でもするつもり?」


 イーリスはいぶかしげに質問する。


「まあ多少の尋問はする事になるとは思いますが、過度に痛めつける事はしないとお約束しましょう」

「ならいいや、アルベル、断る理由は無いよね?」

「まー今の俺らは魔王国に保護されてる立場だし、元々断る筋もないよ」


 メレウスは受諾の意を受け取り、頷く。


「では、よろしくお願いしますね」



 依頼を受けたその日の昼に出発し、道中で野宿を一度挟み、次の日の朝には大森林南部の奥地まで来ていた。


「思ったより寒くないな」

「まあ、ずっと南に進んでるからねー」


 冬にも関わらず、ほのかに暖かく、北側では見られないような植物が生い茂っていた。

 周囲を警戒しながら歩いていると、突然イーリスがアルベルの前に飛び出す。

 それと同時に聞こえる二つの銃声。


 バン バン


 イーリスは剣を抜き二発の銃弾を叩き斬った。


「銃撃……正面からか!?」


 アルベルとシトリーも戦闘態勢に入る。


「結構遠くから撃ってきてる! 気をつけて!」


 イーリスがそう呼びかけた直後に、再び森の奥から銃声が響く。


 バン バン バン


 三発の銃弾がイーリス達を掠める。


「見えたぞぉ? そこだ!」


 アルベルは一方向に狙いを定め、真っ直ぐに突っ込んでいく。


「ちょっと!? 待ちなさい!」


 イーリスとシトリーも素早く後を追う。

 木々の隙間を縫い、道なき道を弾丸のように進んでいく。

 しばらく進んでいくと、アルベルが突然抜刀し、刃先を何かに向けて足を止める。


「何かいたの?」


 後を追っていた二人も同じ場所で足を止める。


「やあやあ、お前が今回の騒動で間違いないな?」


 そこには、灰色髪ロングヘアーで緑色のトレンチコートを着た狐獣人の少女がいた。

 アルベルの刀が喉元に突き出されており、両手をあげて投降の意思を示している。

 足元には、さっきまで持っていたと思われるリボルバー式拳銃が二丁落ちていた。


「いやー、思ったよりスムーズに会えて助かったよ。それよりも武器を下ろしてもらえないかな?」


 狐獣人は武器を手放し、生殺与奪の権を奪われているにも関わらず、動揺した様子もなく平然としていた。


「突然撃ってくるなんて危ないじゃないか、どう見ても先に殺しにきたのはそっちだよな?」


 アルベルは刀を突き出したまま圧をかける。


「うん、まあそうなんだけど……あの程度で死ぬようならこの情報は渡せないなぁと思ってね」

「情報……?」


 アルベルは怪訝そうにイーリス達の方に顔を向ける。

 イーリスとシトリーも何の事かと言わんばかりにお互いの顔を見合わせる。


「えっと、とりあえず剣を下ろして。まずは話を聞いてみようよ」

「……分かった」


 イーリスの指示によりアルベルは刀を下ろし鞘に納める。

 狐獣人は両手を下ろし、話を始める。


「さて、まずは私の正体を明かしておこう。私の名前はシルヴィア。そこの子、イーリスの姉だ」


 シルヴィアと名乗る狐獣人の口から衝撃的、とまではいかないが、意外な事が明かされる。


「えっ!? でも私、一人っ子だよ? お父さんもお母さんも私の事を一番に想ってくれてたんだよ!?」


 イーリスがすぐに否定する。


「キミの記憶ではそうだろうね、なにせ私が旅に出たのは私が十四歳の時、当時のキミは十歳だ。私が旅に出ると決意してから、毎日のようについていくと駄々をこねられてね、このままだと本当についてきてしまいそうだったから、出発の前日にシトリーに頼んで私に関する記憶を消してもらったのさ、両親はこの事を知ってたけど……上手く隠してくれたみたいだね」


 その言葉を聞いて、怒りと驚きが混ざったような表情でシトリーに問いかける。


「ねぇシトリー、この話、本当なの!?」


 シトリーは少し困ったような顔で頷く。


「ええ本当よ、隠していた事については申し訳なく思っているわ……それにしてもシルヴィア、こんなところで明かして良かったの?」

「また再び会えたんだ、この仕事が終わったら、また姉妹でご飯でも食べに行こうじゃないか。今となっては唯一の家族だからね」


 イーリスの表情が少し暗くなる。


「故郷の事……知ってたんだね」

「当然、私は情報屋だからね。何もできなかった事は、悔しかったけどね…………」


 シルヴィアの言葉からは自責の念が感じられる。


「さて、思い出話はここまでにしておこうか。キミ達に“とある情報”を伝えるために、私はここにいる」

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