第59話 サイレン

 シルヴィアの首が地面に落ち、胴体は前に倒れ、地面を赤く染めた。


「流石、素早い反応ですね」


 シルヴィアの死体を飛び越え、一人の人物が前に出る。

 金髪三つ編みで、黒いマントを羽織ったエルフの女性、右手には血濡れたハルバードを携えていた。


「誰だお前……?」

「あら、私の事をご存知ではない? フフッ、これは都合が良いですね」


 (どこかで見た気がするが……思い出せねぇ!)


 この時はまだ、アルベル達とユヴェリアに面識はなかった。


「まさか情報の受け渡し先が貴方達だったとは。少し驚きましたが、まあ問題ないでしょう」


 ユヴェリアはそれだけ言うと、三人に背中を見せて立ち去ろうとする。


「おい待て」


 アルベルが背中目掛けて斬りかかる。

 しかし、その一撃はユヴェリアのハルバードによって容易く弾かれる。

 だが、その一瞬の隙を突いてシトリーが左に回り込み、ありったけの魔法を放つ。

 その照準はユヴェリアの背中に向けられていた。


魔導光芒砲サテライトレーザー


 全てを貫く光の柱が放たれる。

 それと同時にユヴェリアも魔法を行使する。


鏡面結界ミラーシールド


 ユヴェリアの背中を守るように、鏡の盾が出現し、光線を反射する、そして狙い通りか偶然なのかは不明だが、反射した方向には、棒立ちのイーリスがいた。


「イーリス!!」


 アルベルは咄嗟にイーリスを押し倒し、間一髪で光線を避ける。

 その隙にユヴェリアは一言言い残し、素早く森の奥へ消えてゆく。


「またすぐに会う事になるでしょう」

「ちょ、待ちなさい!」


 シトリーの制止も虚しく、あっという間に姿が見えなくなる。

 アルベルは立ち上がり、イーリスの体を起こす。


「おい、大丈夫か!?」


 物悲しそうに俯いていたイーリスは、アルベルの声を聞いてぽろぽろと涙を流す。


「私、まだ家族が生きてるって知って……驚いたけど、嬉しくて…………でも、でも!」


 イーリスはそこで言葉を止め、息を大きく吸った。

 アルベルとシトリーはかける言葉が見つからず、その様子を心配そうに見ている事しかできなかった。


「ああああああああああああああああああ!!!」


 突然、イーリスが上を向いて叫びだした。

 シトリーも聞いた事がないような声で、その華奢な体からは想像もできないような大きな声で、叫んだ。

 二人は、それが心からの悲鳴である事をすぐに理解した。

 故郷と両親を失い、平穏な日常を失い、再会を果たした、唯一人の姉を目の前で失ったのだ。

 普通の心を持った少女が、この絶望に耐えられるだろうか。

 アルベルとシトリーは、悔いに満ちた表情でイーリスの叫び声を聴いている事しかできなかった。

 その日、アドラ大森林に苦痛に満ちた叫び声が響き渡ったのだった。



 それから、三日の時が経った。

 その間、イーリスは布団に篭っていた。

 だがその日の昼、よろよろとした動きでイーリスが一階に姿を見せる。

 さっきまでダイニングテーブルを挟んで座りながら、そわそわわさわさしていたアルベルとシトリーは、その姿を見て心配そうに駆け寄る。


「イ、イーリス?」


 シトリーは恐る恐る名前を呼ぶ。

 イーリスの髪はボサボサで、どことなくケモノ臭い。


「えへへ、心配かけてごめんね……私はもう大丈夫だよ」


 イーリスはぎこちない笑みを浮かべる。

 二人から見ても、まだ精神的に立ち直れていない事は明らかだ。

 だがアルベルは、こんなボロボロの少女に対して気遣いにかける言葉をかけなければいけなかった。


「イーリス、まだ辛いかもしれないが……シルヴィアが託した情報について話さなければならない」


 途端にイーリスの瞳が曇る。

 そして、突然その場に座り込む。


「イーリス!!」


 シトリーが咄嗟に駆け寄り、肩に手を回す。


「ごめん、大丈夫、本当に大丈夫だから……」


 イーリスはゆっくりと立ち上がり、今にも倒れそうな動きで椅子に座る。


「アルベル、分かった事、私にも教えて」


 息苦しそうな声で喋るイーリスは、見るに堪えなかった。

 アルベルとシトリーは戸惑いつつも椅子の座る事にした。

 シトリーはどこからともなくコップに入った水を用意し、イーリスの前に出す。


「ありがとう、シトリー」


 イーリスはそれを半分程飲み、呼吸を整えた。

 アルベルはその様子を確認し、話を切り出した。


「さて、長話も辛いだろうから手短に済ます。メレウスに今回の事を話したところ、俺達が遭遇したアイツはホワイトオーダーの一員である可能性が高いと言われた。一部の人しか知らなかったはずの情報の受け渡しがバレていた事、聖法国の危機にホワイトオーダーが俺の予想より早く駆けつけた事から鑑みて、聖法国とホワイトオーダーは裏で繋がっていると見て間違いないだろう」


 アルベルは一瞬話を止め、イーリスの瞳を鋭い目で見つめる。


「つまり……俺達の敵はホワイトオーダーだ。帝国の防衛力は聖法国の比じゃない、正面から攻めるのは無謀だ。しかしいつか必ず刃を交える日が来る。その時が奴らの命日だ」

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