第29話 取り調べ

 次の日の正午、傭兵事務所フラグメントに、白いトレンチコートを纏った人物が訪れていた。


「どうも、昨日は“夜の傷跡”討伐お疲れ様です。私はホワイトオーダーから取り調べに来た者です。申し訳ありませんが、本日は昨日の状況などについて、詳しくお話しを聞かせて頂きます」


 その人物は丁寧にお辞儀をして、アルベルの前に立つ。

 アルベルは新緑の長袖シャツに、茶色いズボンという地味すぎる格好をしていた。

 いつも着ている黒いコートはボロボロで着られる状態ではなかったからだ。

 袖から僅かに見える腕には、隙間なく包帯が巻かれている。


「良いですよ、とりあえずお掛けください」


 アルベルは取り調べされる事を半ば確信していたため、特に慌てる様子もなく対応する。

 慣れた手つきで二人分の紅茶を用意し、お互い向かい合うようにソファに座り、話を始める。


「では、最初に事実確認をさせて頂きます。貴方達は昨日、なぜあの場所に居たのですか?」


 最初に話を切り出したのは、ホワイトオーダーの人からだった。


「それは、その日の朝にこの手紙が送られて来たからですよ」


 アルベルは昨日貰った手紙をその人に手渡す。

 その人は手紙を舐め回すように読んだ後、懐から手帳を取り出し何かを書き込む。


「ふむ……確かにホワイトオーダーの指令書に酷似してますね、というかほぼ一緒です。ひょっとしたらホワイトオーダーか、その直属の傭兵事務所から情報が漏れたのかもしれませんね」

「だとしたら、かなりヤバいんじゃないですか?」

「はい、かなりヤバいです。どこかに内通者がいるかもしれませんので」


 ホワイトオーダーの人は深刻そうな表情を見せる。


「オホン、話を続けましょう。それで、指定の場所に行ったら対象と遭遇、交戦したという事で間違いないですね?」

「はい、その通りです」


 その人は何かを考える素振りを見せる。


「……傭兵が対象になった事例も最近になって発生していたのですが、全ての事例で今回のような裏路地で遺体が発見されているんですよ。しかし、全滅した事務所の捜索や、遺体の所持品確認において、そのような手紙は一度も発見されなかったんです」

「へぇ、奇妙ですねぇ」

「ちなみに、当日はその手紙はどこにしまってましたか?」

「靴下の中に入れてました」

「えっと……どうしてそんなところに?」

「機密書類は靴下の中に隠すと相場は決まっているでしょう?」


 アルベルは何の疑いもなく、堂々と答える。

 ホワイトオーダーの人はやや引き気味のリアクションを取る。


「そ、そうですか……ええ、分かりました」

「ちなみに、俺達が倒したアイツって、本当に”夜の傷跡“で間違いないんですよね?」

「それに関しては現在こちらで確認を行なっています。もし違ったとしても、ネビュラスカイの報告と一致した対象であるため、報酬金として金貨二百枚が支払われます。また、対象が”夜の傷跡“である事が確定した場合、ホワイトオーダーが管理する傭兵の中でも大きく信用が高まり、より重要度の高い依頼が回される事になると思います」


 報酬金はかなりの大金であるが、同時に仕事が増える可能性もある。


「それでもう一つ、対象が使用した能力などについて、できるだけ詳細にお話頂けますか?」

「分かりました」


 アルベルは、相手が雷撃を耐えた事、巨体にも関わらず身のこなしが速かった事、全ての光を飲み込む黒い霧を使ってきた事などを話した。


「……という感じで、最終的にはウチの子が何とかやってくれました」

「ありがとうございます、話を聞くだけでもかなりの強敵だった事が分かります。それにしても、良い奴隷を雇えたんですね」

「奴隷じゃない、仲間だ」


 アルベルは真顔で、トーンを落とした声で訂正を求める。

 とても落ち着いた様子に見えるが、その瞳には怒りの感情が表れていた。


「す、すみません。撤回させて下さい……ええっとでは、次で最後の質問です。”黒い月“の生き残りについての話を聞いた事はありますか?」

「うん? そりゃ傭兵やってれば黒い月について話を聞く事はありますけど……もしかして、生き残りがいるんですか?」

「いえ、心あたりがないなら今の話は忘れて下さい。ではこれで取り調べを終わります、ご協力ありがとうございました」


 その人は深々とお辞儀をする。


「夜の傷跡について、何か分かった事があれば随時連絡いたします。では私はこれにて失礼します」


 ホワイトオーダーの人はソファから立ち上がり、ドアの前でもう一度お辞儀した後、静かに退室した。

 部屋にはアルベルだけが残る。

 テーブルの上に置かれた紅茶は、アルベルの分だけ飲み干されていた。

 窓から暖かい光が差し込んでいる。


「…………どういう事なんだぁ?」


 アルベルは腑に落ちない様子で、閉じたドアを眺めていた。

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