第30話 祝勝会と酒場の噂話

 それからおよそ一週間後、三人は郊外にある大きな酒場に来ていた。

 内装は古き良き酒場といった感じであり、石の床に木の丸テーブルが並べられている。

 夕食時というのもあり、店内は大勢の客で賑わっていた。


「さあ、今日は俺の奢りだ。いくらでも食べてくれ!」


 シトリーは山のように盛られた唐揚げを一心不乱に喰らい、イーリスは唐揚げとサラダをゆっくりと食べていた。

 アルベルはフライドポテトをつまみながら、樽ジョッキに入った赤い液体を飲んでいた。


「ねぇアルベル、その飲み物なに?」

「これはワインさ、葡萄から作ったお酒だよ。飲んでみる?」

「いや、やめておくよ」

「そうか……あっ、店員さーん、ワインおかわり! 唐揚げとポテトも追加で!」


 シトリーとアルベルの食事の手は止まらない。


「蜂蜜酒お願いしまーす!」


 ついにシトリーもお酒を注文する。

 唐揚げを食べる手を休ませる事なく、豪快に酒を流し込む。

 一体どこにそんなに入るというのだろうか。


 食事の最中、イーリスは後ろの席からある話を耳に挟む。


「知ってるか? “緋針”がまた暴れたらしいぜ」

「聖法国が懲りずに何度も進軍してきてるからな」

「いっそ“使徒”を使えば良いと思うんだがな」

「そうしたら本国に“魔王”が攻めて来るだろうが」


 イーリスには何の話か分からなかったので、とりあえずアルベルに聞いてみる事にした。


「ねぇ、“緋針”とか“使徒”って何?」


 アルベルは食事の手を止め、酒を一口飲んでから答える。


「知らないのか、そいつらは各国の最終兵器みたいな連中だよ。そいつらがいるお陰で、他の国は大々的に戦争を起こせないんだ」

「へぇー、じゃあ帝国にもいるの?」

「もちろん、それぞれ固有の呼び方があってね、帝国の“戦帝”、聖法国の“使徒”、北公国の“緋針”、王国の“騎士王”、魔法国の“導皇”、そして魔王国の“魔王”だ。大体みんな同じぐらいの強さらしいけど、魔王だけは別格だ。大陸の端から端まで脚力だけで飛んだりとか、拳を突き上げるだけで曇り空を快晴にしたりとか、そういう頭の悪そうな逸話が沢山あるんだよ」

「なるほど、一体どんな人達なんだろううねぇ」

「長く傭兵を続けるつもりなら、一度ぐらいは会えるかもしれないね」


 イーリスは話を聞きながら唐揚げを口に放り込む。


「まあアレだ、今回の戦いで誰も大怪我しなくてよかったよ。死人が出てもおかしくないぐらいの強敵だったからね」


 アルベルの言葉に、他の二人もゆっくりと頷く。


「私のとっておきの魔法が防がれたのは驚いたわ、私一人じゃ倒せなかったかも……」

「イーリスには驚かされたよ、まさかあの闇の中でアイツの首を切り裂くなんてね」

「うん、きっとそれが私の能力なんだと思う。目で見えてなくても、相手がどこにいるか、どこから攻撃が来るか何となく分かるんだ」

「へえ……それは興味深いね。戦いにおいては強力な武器になりそうだ」


 イーリスの話にアルベルが興味を示す。


「そうだね、でも偶然が重なっただけかもしれないし、あんまり過信しない事にするよ」

「そっか、その方が良いかもね」


 夜の傷跡との戦いについての話はここで終わった。

 三人はしばらく他愛のない会話をしながら、各々の食欲を満たす。


「ふぅ……食った食った、たまにはジャンクな食事も悪くないだろ?」

「まあそうね、お酒の味も悪くないわ」

「でも、しょっちゅう行ってたら太っちゃうね」


 テーブルの上に置かれた料理は全て完食され、皆食事の手を止めた。

 ふと何かを思い出したかのように、シトリーが口を開く。


「気になってたけど、アルベルって何歳なの?」

「俺は十八歳だよ、見た目相応だろ?」

「声高いからもうちょっと若いと思ってたわ。でも私よりは年下ね」

「そういうシトリーは何歳なのさ」

「私は二十歳よ、年上は敬っておくことね!」


 シトリーはフフンと鼻を鳴らす。


「そうか、それでイーリスは何歳なんだ?」

「ちょっとぉ!」


 アルベルはシトリーの敬えオーラを無視してイーリスに話しかける。


「私は十七歳だよ、アルベルより一個年下だね」

「へぇ、じゃあお酒は来年からだね。良いワインを用意しておこう」

「うん、楽しみにしてるね」


 イーリスは嬉しそうに笑う。


「……イーリス、君はいつも幸せそうに笑うね」


 そう呟いたアルベルの顔はどこかつらそうだ。


「うん、だって嬉しいんだもん。何かヘンかな?」

「いや、そんな事ないよ。君が笑う顔見るの、俺好きだからさ」


 その台詞を聞いて、イーリスの頬が赤くなる。


「な、何言ってるのか分からない……」

「こらー! 私のイーリスを口説くなー!」


 シトリーが怒り顔でポカポカとアルベルの肩を叩く。


「や、やめれぃ!」

「やめなーい!」


 アルベルは困った様子で叩かれ続ける。


「フフッ……あははははは!」


 そんな二人を見ていたイーリスは突然笑い出す。


「ごめんね、フフッ……ねぇシトリー、アルベル、大好きだよ!」


 二人の中で何かが爆発し、しばらく硬直した。

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