第27話 夜の傷跡

招雷撃サンダーボルト


 誰よりも先に攻撃を開始したのはシトリーだった。

 間髪入れずに放たれる魔法、その強烈な落雷は轟音と共に夜の傷跡に直撃した!


「……うそぉ!?」


 僅かな硝煙が昇るだけで、相手にダメージが入っているようには見えなかった。

 特に効いている様子もなく、無機質な顔をシトリーに向けた。


 (あっ……こいつ強いかも)


 シトリーは久しぶりに身の危険を感じた。

 アルベルやイーリスも、シトリーの魔法が通じなかった事実を目の当たりにし、より警戒を強める。

 夜の傷跡は三人を一瞥するように首を動かし、奥のアルベルに顔を向けて姿勢を低くする。


「まさか俺狙いか!?」


 アルベルは咄嗟に抜刀の準備をする。

 夜の傷跡は流星のような速さでイーリス達の隙間を通り抜け、アルベルの方へ突っ込む。


「させないわ……具現障壁ウォール!」


 夜の傷跡とアルベルの間に半透明の巨大な壁が形成される。

 これにより突進は弾かれるものの、素早く方向転換して、今度はシトリーの方に向かって走り出す。

 シトリーは足元から冷気を出して相手の足を凍らせるが、夜の傷跡の力は強く、凍った側から氷を破壊していく。

 僅かに速度は落ちているものの、足止めにはなっていない。

 シトリーの近くまで来たソレは、大きなマチェットを力任せに振り下ろす。


物理結界プロテクション!」


 シトリーを包むように半透明の黄色い膜が球状に形成され、その重い一撃を防ぐ。

 攻撃が弾かれた衝撃によって僅かにバランスを崩し、イーリスが隙を見せた夜の傷跡の背後に回り込む。


「せえぇい!」


 全力の突きの一撃だった。

 だが、剣の先が僅かに刺さるのみで、どう見ても致命傷にはなっていない。

 夜の傷跡は怯む様子もなく、武器を持った右手を後ろに向けて乱雑に振る。

 イーリスは後ろに飛び退いてそれを避ける。

 チタンの剣の先端には、黒い液体が僅かに付着していた。


 ソレは三人に囲まれるように佇んでいる。

 シトリーとイーリスの一連の攻撃を全て受け、未だほぼ無傷である。


 (魔法が効いてない……この様子だと、他の魔法も効くか怪しいわね)

 (私の剣が刺さらなかった……このままじゃみんなが危ない! もっと私が強ければ……!)


 二人共、相手を倒す方法を思索、或いは自身の無力さを嘆く中、アルベルは“憂鬱な一日”に言われた事について考えていた。


 (あいつの言葉を信じるなら、ヤツは闇を使うと言っていたな……アレはどういう意味なんだ?)


氷結槍アイシクルスピア!」


 再びシトリーが魔法を行使する。

 相手の左側面の地面から氷の槍が突き出る。

 夜の傷跡は流れるようにそれを避けるが、その動きを想定していたかのように、更に魔法を放つ。


魔力矢射マジックアロー!」


 三本の魔法の矢が放たれるが、その黒い体に到達する前に、全てマチェットナイフによって叩き落とされる。


 (効きそうな魔法は全て防ぐってわけね……一番効きそうな閃光爆破フラッシュボムはここじゃ使えないし、重力負荷ヘヴィグラビティなら動きを封じられるかもしれないけど、有効打にはならない…………いや、やってみるしか!)


 シトリーは照明球フラッシュボールをその辺に浮かせ、自身は真っ直ぐに相手に突っ込む。


重量負荷ヘヴィグラビティ!」


 夜の傷跡が立つ地面に亀裂が入り、僅かに腰と膝を曲げる。


 (少しだけど効いてる、これならっ!)


 シトリーは相手のすぐ近くまで来ると、魔法で飛翔し、空から夜の傷跡を見下ろした。

 両手を構え、ありったけの魔力を込める。


「これで終わりよ……魔導光芒砲サテライトレーザー!!」


 細く絞られた白い光線が放たれる。

 今のシトリーが導き出した最適解。

 光線の周りの空間が歪んでいる、凄まじい魔力が込められているのは一目瞭然だった。

 落雷を耐える怪物でも、当たれば無傷では済まないだろう。

 その切り札とも言える魔法が命中する寸前、夜の傷跡の全身から真っ黒な霧が即座に溢れ出る。

 黒い霧は光線、照明球、星光、全ての光を打ち消し、周囲は完全な“闇”に包まれた。


 アルベルは冷静に周囲を見回す。

 ただただ暗く、そして黒く、何も見る事はできない。

 自分の手足すらも視認できず、目を開けていようがいまいが、見えるものは変わらない。


「この霧……体に害はないようだな」


 目の痛みや息苦しさがない事から、毒性はないと判断する。


「おーい! シトリー! イーリス!」


 声を上げて呼びかけるが、返事はない。

 どういう原理かは分からないが、この霧は音も吸い込むようだ。


「これが闇……か。二人が心配だが、少し先すら見えない状況で動くのは危ない、さてどうしたものか」


 アルベルはイーリス達の心配をしつつも、身動きの取れない状況で途方に暮れていた。

 現状を打破するための方法を考えるが、有効な手段は思いつかない。


 (一番ヤバいのは、夜の傷跡本体がどこにいるか分からない事だ。物音もしないから、足音とかで位置を探るのも無理だろう……今、ヤツはどこにいるんだ?)


 その疑問の答えは、背後に迫る殺気にて知る事になる。

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