第26話 一通の手紙
しばらく経った日の朝、アルベルは、事務所のポストを確認する。
フラグメントの事務所は大きな建物の一部屋を借りたものであるため、手紙などは、建物前に設置された大複数のポストに入れられる。
そして、入っているテナントごとにポストが割り当てられているのである。
「お、なんかあるな」
白い封筒に入った一通の手紙をポストから取り出す。
事務所まで持っていき、自分用のデスクに座り、手紙を開封する。
中には、一枚の書類が納められていた。
アルベルは小さな声でそれを読み上げる。
「ホワイトオーダーより勅令、今夜零時に極秘任務についての通達を行う。西区三番街裏路地奥にて集合せよ……マジかよ」
極秘任務という言葉に、アルベルは緊張を高める。
こういった手順を踏んで依頼を受けるのは、初めての事であった。
(暗殺任務とかかな? いやでも暗殺向きの傭兵事務所もあるから、わざわざここに依頼する必要もないしなぁ……どういう仕事か、全然想像がつかん)
アルベルはふと立ち上がり、事務所を出る。
「まぁ、とりあえず二人を呼ぶか」
向かいの宿に行き、イーリスとシトリーを呼ぶ。
「……かくかくしかじか、そういうわけだ」
アルベルは二人に手紙の内容について説明する。
「極秘任務ねぇ……私達、意外と信頼されてるって事かしら」
「どんな仕事なんだろう、ちょっと怖いかも」
イーリスは興味と不安の入り混じった反応を見せる。
「まあ、今までの仕事も何とかなったし、今回も大丈夫だろう。とりあえず夜まで暇だな、今日はお茶でも飲んでゆっくりするか」
アルベルは三人分の紅茶を淹れる。
「あら、いい香り」
シトリーとイーリスは出された紅茶を静かに啜る。
「そうだ、この前教えて貰った喫茶店、行ってみたよ」
「えっ、本当!? どうだった?」
「ああ、コーヒーも紅茶もとても美味しくて、最高だったよ。よくあんな良い店知ってたね?」
「えっへん! 私のリサーチ能力を侮ってはいけませんよ~?」
シトリーは機嫌良く胸を張る。
こうして、他愛のない雑談をしていると、あっという間に時間が過ぎていく。
日は完全に暮れており、外は暗い。
天井につけられた照明は、部屋を隅々まで照らす。
時計は既に十時を示している。
「じゃあ、そろそろ行きますかね」
三人は事務所を出て指定された場所へと向かう。
この時間になるとほとんどの建物の明かりが消えており、人通りもごく僅かである。
「……本当にこの先なの?」
シトリーは何かを疑うようにアルベルに問いかける。
裏路地は街灯がないので大通りより暗く、狭い通路であるため、星光も届きにくい。
イーリスやシトリーのような夜目が効く獣人でも、遠くを見通す事は難しい。
「まあ、行くしかないだろう」
アルベルは特に迷う事もなく裏路地を進んでいく。
物音一つしない、虫の音もない、とても静かな夜だった。
暗い道をただ真っ直ぐ進んでいく。
シトリーとイーリスは何かを警戒するように周囲を見回している。
「ああ、魔法使えば良いの忘れてたわ」
「ん? なんだなんだ」
シトリーは突然立ち止まり、右手を胸の高さまで上げる。
「
魔法を唱えると、手の上に拳程の大きさの、強烈な光を放つ球体が出現した。
「これでよく見えるっしょ!」
「全くもー、最初から使えよなー」
「シトリーも結構うっかりさんだねぇ」
シトリーの行動で場が和み、和気藹々とした雰囲気で再び裏路地を歩き出す。
照らし出された道は薄汚れており、長居したい場所ではなかった。
「ホワイトオーダー? の人、見当たらないね」
「そうだねぇ、とりあえずは奥まで行ってみようか」
そろそろ路地の最深部に辿り着くという頃に、前方に黒い物体を視認する。
「ねぇシトリー、あれ見える?」
「うん……なんだろうね、あれ」
イーリスとシトリーは、見えたものについてヒソヒソと話す。
それは、全ての光を吸い込んでおり、そこだけ穴が空いているようにも見える。
更に近づくと、その黒い何かが人型である事が分かった。
「なんだぁ、アレは」
アルベルもそれの存在に気づいたようだ。
その黒い人型は、全体的に普通の人間より一回り大きく、身長は二メートルぐらいになるだろうか。
後ろを向いているようで、両手には何か持っている。
それが人間ではない事を悟った三人は、息を殺しながらゆっくりと接近する。
(……あいつはまさか!)
アルベルがその正体を悟り、足を止める。
それと同時に、黒い人型はこちらに気づいたのか、正面を向いた。
光沢のない真っ黒な肌、目がない不気味な頭、両手には大きなマチェットナイフ。
その口は気味の悪い笑みを浮かべ、アルベル達を見下ろしている。
その化け物を、ホワイトオーダーはこう名付けた。
「……“夜の傷跡”!」
アルベルは素早く後ろに退避し、イーリスはショートソードを引き抜いた。
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