第24話 奇妙な遭遇
その日、アルベルは夜遅くに自分の宿までの道中を歩いていた。
既に周辺の建物の灯りは消えており、一定の間隔で設置された街頭が道を照らしていた。
時は既に深夜、アルベル以外に周囲に人はいない。
空は曇っているのか、星も隠れてしまっている、そのせいで、光の届かない場所は一段と暗い。
何故こんな事になっているのかというと、どうやら、アルベルは書類仕事中に寝てしまったようである。
「まさか俺が寝落ちしてしまうとは……疲れてるのかなぁ」
ブツブツと何かを呟きながら、とぼとぼ暗い道を歩いている。
すると、路地の影に誰かが立っているのを発見する。
アルベルは無視して通り過ぎようとしたが、その尋常ならざる気配と、異様な風貌を前に、足を止めざるを得なかった。
その人物は、黒いスーツに黒いシルクハット、黒手袋に黒い革靴、そして四つの青い目が、顔を描くように配置された不気味な白い仮面をつけていた。
そして、この姿をした人物について、アルベルは既に情報を得ていた。
「お前……“憂鬱な一日”だな?」
アルベルは携えた刀の柄に手を置いて、一定の距離を保ちつつ、最大限の警戒をしながら質問する。
「はい、そうです」
その人物は、落ち着いた男の声でそう答えた。
「まあそう殺気を出さないで下さい、今日は誰かを殺すつもりはありません。折角傭兵の方とお会いできたのですから、少しだけお話しにつきあって頂ければ嬉しいです」
アルベルは警戒を緩めない。
鋭い目で睨みを効かせ、高圧な態度を保つ。
「お前の手口は誰かの狂気を引き出して、大量殺人を起こす事だろう。そのトリガーがお前の話を聞く事かもしれないじゃないか」
「当然の警戒ですね、では信用して頂けるために、一つだけネタバラシさせて頂きます。私が狂気を与えるには、この仮面の下の目で見る必要があります、これは本当ですよ」
その人物は、嘘を言っているようには見えない。
だが、どういう思惑があるのかもまだ分からない。
「それは結構大事な情報だと思うが、教えても良いのか?」
「ええ、構いませんよ、私の手品はこれだけではありませんので」
二人は、しばらくの間沈黙した。
「……いいだろう、話だけなら聞いてやる」
「ありがとうございます。では、最近噂になっている“夜の傷跡”について、少しお話しさせて頂きます」
その人物は小さくお辞儀をして、話を続ける。
「夜の傷跡は“賢者達”が制作したものです」
唐突に出てきた、もう一つのネームドに対して、アルベルが興味を示す。
「待て、賢者達についても何か知っているのか!?」
「ええ、彼女の目的は世界大戦を引き起こし、世を混乱に陥れる事です」
「どうしてそんな事を……」
「さあ、理由については私も分かりかねます」
その人物は首を傾げて、小さく横に振った。
「それで夜の傷跡ですが、これは彼女が魂を収集する装置に過ぎません」
「魂を収集……?」
「はい、具体的に何に使うかは分かりませんが、恐らく最終的には戦争を引き起こすでしょう。ですが私はそれを望んでいません、狂気は平和の中でこそ鮮やかに咲くのですから」
その人物の言葉の意味は理解できるが、同時に得体の知れない後味の悪さがあった。
「つまり、どういう事だ? 何故そんな事を俺に伝える?」
「貴方達傭兵には、何とかしてアレを倒して欲しいのです。モノであるアレには、私の手品が通用しないのでね」
「初めからホワイトオーダーもそのつもりで動いてるよ」
「なので、私から一つだけ情報提供を……アレは闇そのものを扱います。飲まれればアレの独壇場となるでしょう、どうかお気をつけ下さい」
そう言って、その人物は闇の中へと消えていった。
「待てっ! お前の目的は何だ、言え!」
アルベルは咄嗟にそう叫ぶ。
すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「私の目的は狂気の華を咲かせ、それを鑑賞する事のみでございます。それ以上の願いはごさいません」
そこには、アルベルだけがぽつりと立っていた。
まるでその場所には初めから一人しか居なかったかのように、静けさに包まれている。
「今の話、嘘か本当か…………」
真相はまだ誰にも分からない、しかし、この話が本当なら、ホワイトオーダーにとって非常に重要な情報となるだろう。
そして、憂鬱な一日の生存が確認された以上、いつかどこかで大量殺人が引き起こされる可能性もある。
アルベルは今日得た情報を、ホワイトオーダーに伝えなかった。
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