第22話 黒い月の噂
…………
「で、そっちはしっかりやってくれたか?」
三人は事務所に帰還しており、それぞれ定位置についていた。
「もちろん! 舐めプの限りを尽くして全員生け取りよ!」
「ハハッ、そいつはグレートだぜ」
シトリーとアルベルは仕事の成果について、楽しそうに談笑している。
「それで、イーリスちゃんにヘンな事してないでしょうねぇ?」
「もちろん、なあイーリス」
「え? うん、何もされなかったよ……」
イーリスは少し残念そうに答える。
「なんでこんな可愛い子に何もしないのよ!」
「ええ……」
シトリーの反応にアルベルは困惑する。
「あ、そうそう、村の宿の酒場で聞いた話なんだけど、昔“黒い月”っていう傭兵団がすごく強かったっていう話を聞いたんだけど知ってる?」
「ああ知ってるとも、帝国の傭兵界隈では有名な話だよ。当時はかなり強かったらしいね、でも魔王国との繋がりが摘発されて、ホワイトオーダー直属の傭兵団によって全員殺されたみたいだけどね……それがどうかしたのかい?」
「うーんと、まあ私が少し気になっただけっていうか、まあ魔術師特有の知識欲みたいなものよ」
シトリーは取り繕うように話を締める。
「そういえば、お前達もうお金は十分貯まってるんじゃないのか? 生活費しょっぴいても俺から契約書を買い取るぐらいはあるだろ」
アルベルの問いに対して、イーリスとシトリーが顔を見合わせる。
「……ええ、実はもうお金はあるの。でもイーリスとも相談して、もうしばらくはここで働く事にしたわ。結構給料良いからね」
シトリーの言葉に、イーリスも頷いている。
「そうか、そう言って貰えると嬉しいね。ありがとう、二人とも」
アルベルは穏やかな顔で二人を見つめる。
「それでだな、実はイーリスにプレゼントを用意してあるんだ」
「えっ、私に?」
「ああ、是非使ってほしい」
そう言って、アルベルは一振りのショートソードをイーリスに手渡す。
黒い鞘に納められており、形は普通のショートソードと変わりない。
「抜いてみな」
イーリスは言われるがままに、その刃を露出させる。
「わあ、綺麗……」
その白く輝く刀身は、鏡のように磨き上げられており、自分の顔を淡く映している。
「チタニウム合金の剣だ、値段は金貨十五枚! 最高級の鍛治師から取り寄せたすごいやつだよ」
「これ、貰って良いの?」
「もちろん! 普通に砥石じゃ手入れできないから、後で専用の砥石も送るよ」
「アルベルありがとう!!」
イーリスに笑顔を前に、アルベルも頬が緩む。
「ははっ、どういたしまして」
「ねぇ、私には何かないの?」
嬉しそうな二人を横目に、シトリーが不機嫌そうにアルベルを睨む。
「まあまあ、そう言うと思ってキミにも用意してあるものがあるんだ。受け取っておくれ」
そう言って、一つの小包を手渡した。
「これって……城門前のお店の高級チョコレート!?」
「ご名答! それだけで銀貨二十枚はするし、何より君達じゃ入りづらい店だからね、多分こういうの好きでしょ?」
「流石アルベル! 私の事よく分かってるじゃない?」
「まっ、三ヶ月も一緒に仕事してれば多少はね」
シトリーは上機嫌で包を仕舞う。
「さて、とりあえず今のところは仕事はないし、しばらくは休めると思うぞ」
「うん……」
どことなく寂しそうにしているイーリスの様子に、アルベルがいち早く気づく。
「どうしたんだ? イーリス」
「もうすぐ秋だよね……三人で海行きたかったな」
イーリスは以前の仕事の時に見た、青い海を思い浮かべていた。
「…………海、行くか!」
「えっ!?」
「それ本気?」
突然のアルベルの提案に、イーリスとシトリーは動揺を示す。
「本気も本気さ、今日中に水着を買って海へ遊びに行くぞ! 決行は明日、では水着ショップのレッツゴー!」
アルベルの凄まじい行動力のお陰で、次の日、三人は本当に海に来ていた。
場所は帝都から南にいってすぐのところ。
快晴で、燦々と日光が降り注ぐ。
波も穏やかで、砂浜が輝いて見える。
「いやー、晴れて良かったな!」
アルベルは黒い海パンを履いており、満面の笑みで青空を見上げている。
「見て見てアルベル! 似合ってるでしょ?」
「ああ、最高だな!」
シトリーはワンピースタイプの水着に身を包んで登場した。
露出は少ないものの、豊満な胸が適度に主張されている。
「は、恥ずかしい……!」
奥から、イーリスが黄色いビキニ姿で現れる。
恥ずかしそうに両手で胸を隠している。
「うっ!!」
その姿を見たアルベルは、まるで銃で撃たれたように仰向けに倒れる。
「ア、アルベル!?」
シトリーが倒れたアルベルに駆け寄る。
「大丈夫? もしかして私の水着、ヘンだった?」
「……俺には刺激が強すぎたようだ、ガクッ」
アルベルが問題ない事を確認すると、立ち上がってシトリーに話しかける。
「ねぇ、何して遊ぶ?」
「そうねぇ、砂でお城でも作りましょうか」
二人は仲良く砂遊びを始めた。
アルベルはむくりと起き上がり、海の方を見た。
「さて、折角海に来たし、ひと泳ぎしてくるか」
胸まで浸かる程の深さまで歩いて侵入し、そのまま静かに潜水した。
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