18章 簡単に消滅する日常
18章 episode 1 白血病の再発
◆ 情けなくて哀しくて舞美は絶望の底に沈んだ。
時計を見た舞美は、
「瀬川さん、お願いです。駆けっこが速いシンが楽しみにしている父兄リレーがあります。パパは急病ということでお願いです! シンと走ってください」
舞美は突然泣き崩れた。
「わかった、シンと頑張るよ。多分、1位だ」
瀬川が去った後、
「舞美ちゃん、本当に話したいことはこれからだ。よく聞いて欲しい。入院の手続きをした。士郎さんは再発している。明日から検査の予定だ。だからあんなに自暴自棄になり、余分な病気まで抱え込んだのかも知れない。淋病は2週間もすれば消えるだろうが、淋菌に負けるほど免疫力が低下しているということだ」
「士郎さんが少し落ち着いたら話をしたいです。私にはわかりません! 性病を患うということは避妊しないで行為をした結果です。それがどれほど危険か、病気だけでなく家族にとっても、相手にとっても」
「舞美ちゃん、それは違うよ。その女は舞美ちゃんに代わって代議士夫人になりたい、有名になりたい、まとまった金を手にしたい、その種の欲望でそうしたんだろう、そんな低レベルで舞美ちゃんが苦しむ必要はない」
「違います! 女性の自立や社会進出を世間に訴えた士郎さんが、外で避妊もせずに行為するなんて、女性をバカにしています。バカにされたのは私かお相手かわかりませんが、士郎さんに愛想がつきました。男女の性の違いすら認識していない、そんな男だったのか、子供たちが惨めになりました。性病に罹った士郎さんの真実はどこにあったのでしょうか?
私に不満があればはっきり言って欲しかったです! 何もかも全部が大ウソだったと言えばいいです! 士郎さん、どうぞ遠慮なく、性病をプレゼントされたその方と結婚してください、最愛の人に巡り合ったと言ってください。そうすれば捨てられた私たちは次の人生を歩みます! ごめんなさい、先生に甘えてます! 先生ごめんなさい!」
舞美は椅子から転がり落ちて、床で吠えるように泣いたが、谷川は虚しい言葉をかけられず、ただ見つめていた。舞美の気迫で谷川はわかった。彼女の魂は士郎さんと決別した、子を抱えて生きて行く決心をした。士郎さんが病身であろうとなかろうと、士郎さんの行動に絶望した。これから子供を抱えて気丈に生きて行くのかと考えた谷川は、涙が止まらなくなった。
やっと子供たちを寝かしたとき、士郎の母がやつれた表情で訪れた。
「私は士郎がわからなくなりました。いくら父親似の遊び人でも、舞美ちゃんに本当に申し訳なくて、恥ずかしいです。泉谷はあれほどの醜態をさらす事はありませんでした。10以上も年下の舞美ちゃんに甘えているのでしょうか。士郎を置いて家を出た私のせいです。士郎が哀れです」
「お母さま、泣かないでください。こんなに涙って出るものかと思ったほど、谷川先生の前で大泣きして目が潰れました。どうしようもなく腹が立って、情けなくて、士郎さんと一緒に歩いた人生をぶち壊したくて、あまりにも惨めで後悔しました。私には3人の子がいます。あの子たちが大きくなった時に何と言おうか、士郎さんの気持ちがわかりません。
混乱してますが、再発した場合の大変さは知っています。ここにお父さまから預かったお金があります。これは、士郎さんが再発した場合、海外での移植手術を受けるために用意されたものです。そうすれば、助かる可能性があります。一刻でも早く士郎さんを説得してください」
舞美は通帳と印鑑を母に預けたが、その残高は1億円を超えていて、母は驚いた。
18章 episode 2 薄汚い不倫
◆ 士郎の行動に舞美は絶望した。
まどろんでいる士郎の看護を母に頼んで、家に戻った舞美を待ち受けていたのは、斉藤を連れた近藤だった。
「斉藤さん、この前はお世話なりました。今日は何か?」
「藤井、ヤセ我慢するな! 悔しいだろう、素直になれよ! 君は悲鳴をあげている!」
「まあまあ、近藤、抑えろ! 俺は仕事なんだ」と、斉藤は数枚の写真を出した。
士郎がラブホに入る写真で、後ろに女がいた。肩を抱いたり手をつないだ画像ではなかったが、ネオンに照らされた顔は士郎に間違いなかった。
「これは士郎さんの不倫画像です。各社この写真を持っています。士郎さんに会わせてくれませんか」
「どうぞお上りください。でも士郎さんはいません、入院してます」
「失礼ですが雲隠れですか?」
「いいえ、この方と知り合って淋病を患いました。それよりも大変なのは白血病が再発したようです。斉藤さんは何を知りたいのですか?」
白血病の再発と聞いた近藤と斉藤はたじろいだ。
「それで、士郎さんはどうなんだ? 助かるのか? はっきり言えよ!」
「何か変わった様子はありませんでしたか? 疲れた感じとか」、すかさず斉藤が質問した。
「今から思えば、士郎さんは再発に気づいていたと思います。何だか元気ないけど大丈夫? そう言っても心配ないよと笑ってました。検査結果は異常がないと言ってましたが、この10カ月間は検査を受けてないことを知りました。どの程度進んでいるかはまだわかりません」
「そんな体でなぜつまらない女と関係するんだ? 藤井、夫婦仲が悪かったのか?」
「いいえ、少なくとも私はそう思ってません。検査を受けるチャンスを自分から捨て、そのうち感じた自覚症状を隠したまま、私たちと暮らすのが辛かったのかも知れません」
「そうだとしてもなぜ薄汚い行動をしたんだ、最低な男だ!」
「でも、その方から淋病をもらって検査されて、お陰で再発がわかったから、その話はもういいです」
「藤井、こんなにバカにされて悔しくないか、腹が立たないか? あんな男とは別れろよ!」
「昨日は腹が立っていっぱい泣きました。別れようと決めました。私がいちばん嫌がること、軽蔑することをしたからです。自分しか見えてません、最低です!」
近藤と斉藤は顔を見合わせた。
「舞美さんがいちばん腹を立てること、軽蔑することは何ですか、教えてくれませんか?」
「女性の自立や女性が活躍しやすい社会を目指している士郎さんが、避妊しなかったことです。これってわかりますか? 妊娠の可能性、望まれない子の誕生、家庭崩壊など影響は大きいです。避妊なしの行為は相手に対する配慮もゼロです、男のクズです! 斉藤さん、教えてくれますか、この方は性病持ちということはプロの方でしょうか」
「いや、バツイチのパート勤務で33歳です。子供はいません。美人でもありません。出身は前橋で高卒です」
「もうけっこうです。苦しいときや辛いときに寄り添うのが夫婦だと思っていました。そういう方と寄り添ったのですか、私は、私は、あまりにも惨め過ぎます……
士郎さんの朝帰りは哀しいものでした。ヨレヨレの背広に汚れたシャツと下着、目はどろんと濁って、子どもに見られたくありませんでした。不倫の余韻を漂わせた艶やかな朝帰りではありません。お酒の匂いはなかったけど、投げやりでした。
あまりにも薄汚い格好なので着替えさせようとしたら、母が下着の汚れに気づき、触ってはいけないと言いました。はあ? 淋病? パニックになりました。問い詰める気力はありませんでした。
その日はシンの運動会で、パパと走るのを楽しみにしてたんです。それすら放棄した士郎さんが信じられません、シンが可哀想です。それで瀬川さんにピンチヒッターをお願いしました。ああ、ごめんなさい。瀬川さん、それでどうだったんですか?」
「もちろん、ダントツの1位です! 恥ずかしいけど本気で走りました」
「ありがとうございます。瀬川さん、手伝ってくれますか。私たちはほとんど何も食べてません。20分待ってくれますか、何か作りましょう。明日から闘病生活が始まりそうです。斉藤さん、お相手の方に病院に行かれるように伝えてください。女性は自覚症状がないそうです。放置してはいけません」
!!!
18章 episode 3 士郎の本心
◆ 自分勝手な言い訳は虚しい。
その夜、近藤と斉藤は大きな座卓がある部屋に泊まった。斉藤は舞美のパソコンを借りて記事を書き、編集部に送信した。明朝は舞美と一緒に士郎に直撃するつもりだった。
翌朝、何としても裏付取材させて欲しいと頼み込む斉藤と、成行きで従った近藤を同伴して、士郎の病室へ向かったが、興奮した士郎の母の声が外まで響いた。
「士郎、それでいいのですか! そんなに舞美ちゃんから憎まれて死にたいのですか! 死んだ後で士郎の本心を知ったら、舞美ちゃんは立ち直れません! 今以上に傷つきます。なぜ舞美ちゃんをそんなに苦しめるのです、虐めて楽しんでるんですか、悪いのは士郎です!」
「母さん、許してくれ。舞美と会えて本当に幸せだった。こんなに愛したのは舞美だけだ、本当だ、ウソではない。だから愛想を尽かされる最低の男になった、蔑まれて相手にされない男になった。舞美はまだ若い、食べて行ける道を持っている。病気の僕と苦労させたくない、別れて幸せになって欲しい。そしたら僕は安心して死ねる。母さん、僕はこんな別れ方しか出来ないんだ」
ドア越しに聞いて、ヘナヘナと倒れ込んだ舞美を近藤が抱えて病棟を出た。凍りついた時間に漂った舞美は、頰を叩かれてやっと正気に戻り、恥ずかしそうに涙を拭いた。
「大学に行きます。すみません、瀬川さん、お願いします」
車内は爽やかな風が吹き抜け、知らない人が見たらデートに見える二人は、無言だった。こんな哀しい別れもあるのか、嫌われて別れようとしている士郎の身勝手さに、瀬川は腹を立てた。シンは大人の事情を子供なりに想像できるが、何も言わないつもりか? 自分の子じゃないか、子供を残して死ぬかも知れないのに…… 何て親だ! これでは舞美さんが壊れてしまう。ため息しか出なかった。
舞美の講義が終わるのをぼんやり待っていた瀬川のウィンドウが叩かれた。
「悪い、瀬川くん、話は谷川から聞いた。藤井は大丈夫か? あの子はどんなに辛くてもそんな顔を滅多にしない子だ、昔からそうだ。だが溶解点に達したら一気に潰れてしまう。持ち堪えられそうか、どうだ?」
「今朝、士郎さんの気持ちを知ったようです。舞美さんから嫌われ軽蔑されて捨てられて、たった一人で死んで行くのを望んでいます。心をすっかり冷めさせて、憎まれて死にたいらしいです。士郎さんとお母さんの会話をドアの外で聞きました」
「どういうことだ、嫌われ軽蔑されて捨てられたいとは?」
「舞美さんが士郎さんを嫌いになって、未練を残さないで、サバサバ別れたら幸せになれると考えたようですが、僕は腹が立ちました。舞美さんと斉藤さんと近藤さんもそれを聞きました。ショツクで舞美さんが倒れたので、そのまま病院を出ました。
こんな別れ方なんて身勝手すぎます! 僕は父を知りません。士郎さんはなぜ3人もの子を欲しがったのだろうか? そんなことを車の中で考えてました」
「僕は結婚経験はないから無責任な発言をするが、士郎さんが考えていることは自分の気持ちを楽にしたいだけだ。藤井のことなんかまったく考えていない、独りよがりな考えだ。自分は死んでしまうからいいかも知れないが、残される舞美が惨めで仕方がない。どんなに傷ついたか考えると士郎さんを恨む。
心配なんだ、あいつはボロボロだ。10年前と同じだ。母親のことで1晩中泣いていた、あの時と同じだ。誤解しないでくれ、舞美とはそんな仲ではない。
今日も藤井は恥ずかしいキャンダルの質問に、丁寧に応えたらしい。惨め過ぎる! いつまで耐えられるのだろうか、心配で仕方がない。僕に出来ることがあったら連絡くれないか」
青木はケイタイを瀬川に差し出した。青木が「舞美」と口を滑らしたことを聞き、先生は舞美さんを好きだったのか、そう思った。
舞美は講義がない日は子供たちを送り出して、病室へ通った。寝具を整えて窓を開けながら、舞美は独り言を言ったが、士郎は相変わらず眠ったふりをしていた。
「士郎さん、覚えてますか? 放射線治療を受ける前に子供を作ろうって頑張ったことがありましたね。シンを授かったら、ものすごく喜んでくれました。シンは走るのがすごく速いんです。運動会は瀬川さんとダントツの1等賞になって、メダルをもらいました。リョウは本に夢中です。読み聞かせすると、目を輝かせて聴いてます。幼い心で本の世界を掴みとろうとしています。レイはお母さまが作ってくれた姉さま人形と話してます。パパの病気を治してくれる人形を作ってくれとせがんで、困らせてます。私はとてもいい子を授かりました」
眼を閉じた士郎の頰を流れる涙を拭い、病室を出た。
士郎は気が狂いそうに辛かった。抱きしめて謝りたかった。気が違った方がどんなに楽かと思った。俺は舞美を泣かして苦しめるだけの存在か、あまりにも情けなく恥ずかしく、寝たふりを続ける自分が惨めで哀れだった。
18章 episode 4 士郎の後悔
◆ 醜聞報道で騒がれる中、斎藤の記事が話題になった。
午後になって母が訪れた。
「あなたの汚らわしい行動が週刊誌に出ています。恥ずかしくて外を歩けません。何をしたのです、恥さらし!」
母は病床の士郎の頰を打って、泣き崩れた。
「舞美ちゃんがどれほど堪えているかわかりますか! シンが苛められているのを知ってますか、みんな士郎のせいです! 私は悲しくて情けなくて1晩中泣きましたが、もっと辛いのは舞美ちゃんです。外に出ればマイクに追いかけられています。何も言いませんが、毎晩泣いています。
洗面所で長い時間、顔に水をかけてます、毎朝ですよ。泣き腫らした目を鎮めているのです。健一にドナー検査を受けて欲しいと、会いに行ったそうです。そしたら、あんな恥さらしの弟はいらないと断られたと聞きました。
寝たふりは卑怯です! そんなに死にたいならさっさと死になさい! 私はすぐ追いかけます。不肖の子を産んだ私の罪です。これ以上周りを不幸にしたくありません」
母は泣き続けた。患者の自殺防止のため病室にいた谷川は俯くしかなかった。
3日遅れて斉藤の署名入り記事の週刊誌が発売された。
『泉谷議員、白血病再発! 哀しい男の選択』のタイトルで、妻子を残して死ぬかも知れないと絶望した男の、哀しい行動が綴られていた。周辺関係者に取材したと斉藤は冒頭に記した。
『半年以上前に体調の異変に気づいた泉谷議員は、検査で再発が発見されると妻に心配と苦労をかけると考え、再発の不安に怯えながらも検査を受けなかった。妻には毎月検査を受けて異常はないと嘘を重ね、元気な素振りを続けていたが、次第に体調悪化は顕著になり、妻に隠せなくなった。
押し寄せる自覚症状におびえながら、今更ながらなぜ検査に行かなかったか、妻子を残して死ぬしかないと絶望し、自分を責めた。
何も知らない子供たちと愛妻の顔を見るのが耐えられず、街をさまよい、公園のベンチで自分の弱さを嘆き、家人が寝静まった深夜に帰宅することが多くなった。
そのうち、よく行く深夜の公園でひっそりと泣いている女に気づいた。互いに一切の素性を隠して関係を持ったが、泉谷議員はその女から病気をうつされた。症状に気づいた家人が病院に連れて行き、性病と同時に白血病の再発が判明した。
妻は激怒した。夫の不倫に激怒した以上に、日頃から女性の自立や女性社会の創生を口にしている夫が、避妊をせずに行為したという事実に、法学者である妻は苦しみ、そして軽蔑した。妻ではない相手と避妊せずに行為を行うことは、相手のことなど考えず、女性の尊厳を無視することだと、彼女は私にきっぱり断言した。
やがて真相がわかった。泉谷議員はまだ若い妻の将来を考え、病気の自分に気持ちを残して別れるより、自分は軽蔑され蔑まれて消えた方が妻のためだと考えたとわかった~』
斉藤の記事は、哀れで情けない男の姿を士郎が乗り移ったように表現していた。全てを失って死ぬことを望んだ男に、それは間違いだ! 父を失う子供たちはどうなるか、それを考えたか? そう訴えた。
この記事は反響を呼び、読者の涙腺を緩め、瞬く間に週刊誌は完売した。
士郎が入院して1週間経った。士郎の母は子供たちを連れて来た。
「士郎、いい加減で起きなさい。シンちゃん、パパを起こしなさい」
「パパ、起きてよ! 学校でパパはいやらしいやつだって、殴られたんだ。悔しかったからニイにケリを習って、やつけたよ、負けなかったんだ。パパ、起きてよ!」
「あのね、ババちゃまが作ってくれたの。これはね、パパの病気を治してくれる人形なのよ」
レイが士郎の胸に置いたのはエンマさまの人形だった。
「あっ、パパが泣いてる! 起きてるよ!」
あまりにも不憫で可愛くてたまらない3人の子に囲まれて、士郎は観念した。
「パパが悪かった、間違っていた。許してくれ。ごめん……」
大粒の涙を零して、幼くして父を失いそうな3人を抱きしめた。この子たちと舞美を不幸にしたのは俺だ。後悔しても悔やみ足りなかった。
18章 episode 5 目覚めた士郎
◆ 寝たふりから起きたパパに子供たちは喜んだが……
同じ頃、病院に急ごうとした舞美に客人が訪れた。
「おーっ、ナイスバディ、生きてたかぁー」、酒井だった。
舞美は酒井の大きな胸に飛び込んで、泣き始めた。
「泣け! 遠慮しないで泣け! どうせ我慢してたんだろ、泣けよ! いくらでも泣け! オレはかまわんぞ」
舞美は全身を震わせてワァーワァー泣き出し、哀しい慟哭はなかなか止まらなかった。
「オマエが本気で泣くと、鼻水垂らしてヨダレ溢してグチャグチャなのは変わってないなあ。今から先輩の結婚式に出るが、オマエが気になって見に来ただけだ。ホントいろいろあるなあ、オマエは」
やっと舞美が落ち着いた。
「ボケーッとしてないでお茶ぐらい出せよ。オレはすぐ帰るから」
舞美がキッチンへ消えると、
「瀬川くん頼みがある。アイツは最悪の状態だ。オレが許すから連れ出してデートしてくれ、気分転換させろ、アイツが考え込むと最悪だ。そのうち覚悟を決めるはずだ、そんなやつだ。どうせ毎日泣いてるんだろう。とんでもないオヤジだな、いい歳して何を甘えているのか」
すみません、お待たせしましたと茶を持って来た。
「うん、玉露かぁ、旨い! オレさ、博士になれそうだ。内定もらった。やっとオマエと同じだ」
「えーっ、ホントですか、いったい何を書いたんです?」
「そんなこと訊くな、内定した途端に忘れた」
本当に久しぶりに舞美がケラケラと笑った。
酒井が慌ただしく帰った後、瀬川は舞美を病室まで送って車に戻った。寝たふりしている士郎を見たくなかった。
病室をノックするとシンが飛び出した。
「パパが起きたんだよ! ママ、早く来て!」
士郎は恥ずかしいのか背中を向けていた。
「みんなでアイスを食べに行きましょう。何でもご馳走しますよ。瀬川さんにパパが起きたと伝えましょうね」
母は子供たちを連れて行った。
長い沈黙が続いた。
「僕は取り返しがつかないことをしてしまった。謝る言葉を探したが見つからなかった。後悔して街を彷徨い歩いたが、自殺すら出来ない情けない人間だった。電車に飛び込もうとしたが、君の顔が浮かんで足がすくんだ。
母は僕の首を絞めようとした。母から殺されるならそれもいいなあと思ったが、床に身を投げて泣き狂った。苦しめるために母と再会したのか、母が哀れで涙すら出なかった。
舞美、悪かった。僕は間違っていた。身勝手な夫で無責任な父親だ。レイは僕の記憶なんてないまま別れてしまうだろう。体調の変化に気づいて、すぐ治療を受けていたらどうだったか、そんな取り戻せない時間ばかりを追いかけて嘆いた。もう遅いだろうが、あと1日だけ考えさせてくれ」
舞美は静かに聞いていた。士郎に言いたいことは山ほどあった。しっかりしてくださいと励まそうと思っていたが、そうではない心も存在した。言ってはいけない言葉はたくさんあったが、伝えたい言葉は消えていた。
士郎は見る影もなくやつれた姿で振り向き、もっと近くへ来てくれと抱き寄せた。舞美の痩せた肩に気づき、俺のせいで毎日泣いているのかと、涙が止まらなかった。舞美は堪えていた嗚咽が漏れ、堰を切ったように泣き出した。言葉はなく、しゃくりあげた。
シンがそっとドアを細めに開いて覗き、「しーっ、だめだよ、まだラブラブだもん」
その夜、子供たちは大ハシャギだった。
「パパはやっと起きたんだ、病気だってへっちゃらさ、治るよね、ママ」
「そうね、痛ーい注射をいっぱい我慢すれば大丈夫よ。パパはみんなのために頑張ってくれるわ。さあ心配しないで寝なさい」
「ママと寝ていい?」
「いいわよ、みんなおいで」
「わーい、ママと一緒だーい」
18章 episode 6 浸潤していた現実
◆ 頑張れない人間もいるということがわからない。
瀬川は子供たちの歓声を聞きながら、舞美の表情が冴えないのに気づいていた。帰ろうとすると舞美が、
「すみませんがいてくれませんか。本当の病状を谷川先生に聞きたいです。士郎さんは1日だけ考えたいと言いましたが、私は迷ってます。真実を知ったとしても現実は変わらないでしょうが、子供たちのために知りたいと思います。お願いです、傍にいてください」
谷川はすぐ出た。青木が隣にいた。
「そろそろ舞美ちゃんから電話があるかなと思っていた。士郎さんの検査結果だろう?」
「そうです。1日だけ考える時間をくれと言いました。士郎さんの決断を聞いて、私は励ますか、口を噤むべきか迷ってます。あの辛い治療を想像すると、簡単に頑張れとは言えません。ただ、情けない姿の父親で終わって欲しくないです」
「僕はタラレバの話はしたくない。はっきり言うが、士郎さんが無駄にした10カ月間は非常に残念だ。既に肺と腎臓に浸潤が進んでいる。それを放射線で叩いて、少し小さくしてからだ、もしドナー提供があったとしても。しかし、移植がうまく行ったら希望はある。
士郎さんは9年過ぎての再発だ。40代の再発は正直言って厳しい。高齢であれば浸潤のスピードは鈍るが、まだ若いだけに浸潤が速い。一刻の猶予も躊躇もならない段階だ。300日の空白の時間は埋めようがない!」
「先生、海外で手術を受けるお金はお父さまから預かってます、どこへでも連れて行きます。それでも士郎さんは助からないのでしょうか?」
「浸潤がない段階であれば、海外で最高の手術を受ければ希望があったかも知れない。今は海外に転院するだけで危ない状態だ。このまま何も治療しない場合は3~4カ月で壮絶な死を迎えると思う」
「大変失礼ですが、国内で先生の病院以外に白血病に特化した病院はありませんか?」
「それは僕も考えた。幾つかの医療機関に打診したが、どこもノーだ。舞美ちゃん、僕はウソを言って喜ばせたくないから、真実を伝えている。主治医も同じ答えだ。もし士郎さんが治療を望んだら、すぐ無菌室だ。それは1週間前から押さえている。あとは本人の気持ちだ」
「そうですか、やはり…… 先生、もう一つだけ教えてください! 士郎さんは妻と子を捨てたのでしょうか! 自分は死ぬから君たちは勝手にしなさいと、捨てたのでしょうか? あんまりです! 私は士郎さんと一緒に病気と闘いたかったんです。先生、教えてください!」
谷川は黙った。しばらく経って、
「舞美ちゃん、それは僕にはわからない。傍に瀬川くんがいるだろう、代わってくれないか」
泣き続ける舞美に代わって電話に出た瀬川に、谷川は長いこと何かを話していた。
瀬川は正体もなく泣き続けている舞美を抱え上げ、子供たちが寝ているベッドにポトンと落とした。こんなに真っ直ぐ生きてるのに、なかなか幸せになれない人なのか…… 無性に士郎が腹立たしく思えた。
瀬川は谷川の言葉を考えていた。
「人間は弱いものだ。虫歯の痛さに我慢できずに歯医者へ行っても、不安な痛みに目を閉じる。士郎さんが体調の異変に気づいても、検査を受けなかったことがそれだ。不安な現実を遮断した。それを今さら責めてもどうにもならない。
だが舞美ちゃんは、本当に家族が大切だったら、すぐ病院に行ったはずだ、妻子はどうでもいい存在か? そう考えている。士郎さんの性交渉や性病感染のショックはどうやら乗り越えたようだが、士郎さんのどうしようもない弱さを理解できていない。
いろんなことがあって夢中で走った舞美ちゃんは、まだ人間の弱さと脆さに気づいてない。気づかないまま、幸せな人生を生きて欲しかった。自分たちは見捨てられたと思った舞美ちゃんが心配だ。もし自分だったら愛する妻子のために、すぐ病院に行くと考えただろう。それは正解だが、そうしなかった士郎さんの心に妻子はなかったと、そう決めつけて嘆いている。そんな男の子を産んだ自分を責めて、子供たちに謝っているだろう。それが僕はとても辛い。
人間ってそんなものだ、弱いんだよと諭しても彼女はわからないだろう。その弱い人間が自分の夫だという現実を受け止められない。舞美ちゃんは迷い苦しんでいる、心配なんだ。瀬川くん、支えてくれないか、君しかいない。今の舞美ちゃんよりもっと辛い経験をしたのは君だけだ。人は一生懸命頑張るだけでは幸せになれないことを、教えてやってくれないか」
18章 episode 7 良き妻、良き母の道
◆ 夫と子供たちのために心を隠す決心をした。
翌朝、晴れやかな笑顔で訪れた士郎の母は、洗面所でバシャバシャと顔に水をかけている舞美を怪訝に思った。
「お母さま、士郎さんは今日1日考えたいそうです。邪魔したくないので病院に行きません。すみません、仕事に参ります」
大学に向かう車中で、
「舞美さん、講義が終わったらどこか行きませんか? たまには外へ出ましょう。行きたい所はありますか? 酒井さんからデートしろと頼まれました」
「えっ! そんなこと言ったの? デートしたことないのよ、プールかバイトの海水浴場か私の家だったわ。デート?? よく言うわね、呆れたわ!」
昔を懐かしむように舞美は眼を細めた。
「舞美さんは酒井さんに抱かれたことないの?」
「へえーっ! ありますと言いたいけど残念です。でもね、いろんなことを教えてくれたのよ。
男の人が射精するときは、相手によって気持ち良さは違うのか質問したの。そしたら、どうでもいい女性とすごく好きな女性を抱いた場合の幸福感は違うって、チャートを書いて数字で示してくれたの。あれは今でも忘れられません」
今度は瀬川が大口開けて笑い転げた。酒井さんっていい男だと思った。
「舞美さんは気分転換が必要で、考え出すとろくなことがない。だからどこかに連れ出せ、俺が許すって言ってました」
舞美は涙まじりの眼でケラケラ笑い出した。笑っている舞美さんはいいなあ、今の舞美さんを抱きとめられるのは酒井さんだけだろう。
「羽田に連れて行ってくれませんか。飛行機が飛び立つのが好きです。轟音を響かせて、振り向かないで雲の間に吸い込まれて見えなくなってしまう、それを見たいです」
舞美さんは気持ちを決めようとしている。士郎さんがどんな決断をしても、心を隠して受け入れようとしている。良き妻、優しい母親を演じる覚悟をしたようだ。だが、士郎さんが再発と向き合わなかったことを絶対に許していない、許さないだろう。そんな弱い心をまだ理解してはいない。
茜色の煌めきの中、舞美は安らかな顔で瀬川の肩に寄りかかって眠っていた。眠れない日々だったのだろう。目を覚ませば現実が待ち構えている、もっと眠っていいよ。水平線に沈み行く膨らんだ太陽を瀬川はじっと見つめていた。
翌日、心を決めた士郎は舞美の手を握って、
「僕は逃げるのをやめて、自分と闘う。明日から治療が始まって、君に苦労をかけてしまう。僕の意識がしっかりしているうちに言わせてくれ、治療の途中で死んでも僕は幸せだ。君に会って家族になれたからだ。愛してる。嘘じゃない、本当に愛してる」
終わりのないキスを続けて離さなかった。
舞美は士郎の腕の中で、9年前の無我夢中だった日々、何も考えずに突っ走った時間を思い浮かべた。士郎さんはわかってない、私を愛していても子供たちはどうなんです! 心配しないのですか? お金だけで子は育ちません。学校でこんなことがあったとパパに聞いて欲しいんです! なぜもっと早く現実と向き合わなかったかと、言ってはいけない言葉を呑みこんだ。
覚悟はしていたが士郎は壮絶な副作用に苦しんだ。放射線照射は1日1回わずか数分だが、その後の倦怠感、吐き気、食欲不振、息苦しさ、不眠、全身疲労は忍耐の限界を超えるものだった。面会は1日15分だけで、徹底した24時間監視体制が敷かれ、患者の自殺を防止した。
ガラス越しに父の闘病を見つめる子供たちは、パパが可哀想と泣いた。年明けに骨髄移植を行う予定が決まり、士郎は12月30日から1月8日まで自宅待機になった。
一時帰宅する士郎にどう接すればいいのかと戸惑う舞美に、谷川は小さなパッケージを渡した。
「これは経口避妊薬だ」
「えっ? これって必要でしょうか?」
「士郎さんは自宅に戻ると舞美ちゃんを抱きたいだろう、僕が士郎さんだったらそうだ。でも、このステージの患者は避妊具をつけるのはしんどい。その瞬間に萎えちゃう可能性が高い。そして、命の儚さを知った患者は、なぜだか行為をしたがる。風前の灯火だとわかった自分の命を、無意識に次世代に繋ごうとするのかも知れない。この錠剤を行為の前か後に1錠飲めば妊娠しない。士郎さんは強力な放射線照射を受けた身で妊娠は論外だ、わかってくれるね」
18章 episode 8 退院はしたが
◆ 舞美は士郎の病状をケンに告げた。
自宅に戻った士郎は、75キロだった体重が63キロに落ち、頭髪の半分は抜け落ちて落武者のような姿だった。9年前の治療後はこうではなかった。過ぎ去った年月は体力と気力を消耗させたのだろうか? 死んでたまるか! そんな挑戦する気概は消え失せ、死にたくない、生きていたい! それだけで放射線照射に耐えたのかと思うと、舞美は言いたい言葉を胸に納めた。
副作用に苦しんだが、士郎は穏やかな表情だった。子供たちに囲まれると笑顔を見せた。子供たちは夢中でパパの機嫌を取った。それを見るのが辛くてボーッとしている舞美を瀬川はよく見た。
帰宅した夜、士郎は舞美を抱こうとしたが無理だった。勃起したかと思えばすぐ萎えた。この硬度では舞美の強靭な入り口は突破できない。手足が冷えて舞美の温もりが羨ましかった。舞美は何も言わず、士郎のふところで眠ったふりをした。
大晦日、ケンが来た。
「わあ、また背が伸びたわね、私よりずっと大きい! 立派になって見違えちゃった。すごいなあ! とっても嬉しい!」
舞美はケンを抱きしめて嬉しくてたまらず、本当に喜んだ。山本そっくりの長身を屈めて、恥ずかしそうに立っていた。
「父さんからパパの世話を頼むと言われたんだ。パパの病気は治らないの? 死んじゃうの? 教えて!」
「ケンは大人と子供の中間だから、本当のことを言うわ。でもシンたちには言わないでね。約束できる?」
「うん、男と女の約束だもの、絶対に守るよ」
男と女の約束に、ふふふっと舞美は笑った。
「パパは手遅れかも知れない。でも一生懸命頑張って辛い治療を受けたの。そしてね、元気な細胞を移植すれば治るかも知れない。治るか、死んじゃうか、それは誰もわからない。絶対に元気になれるとは言えないの。わからないことだらけで、安心できないことは確かなの。さあ、パパに顔を見せてね。痩せちゃったけど驚いちゃだめよ」
「わかった。パパが好きな飴玉持って来たんだ。そして僕は何をすればいいの?」
「ありがとう、喉が痛いと言ってたから喜ぶわ。今はね、あの子たちにパパをたくさん記憶して欲しいの。何も知らないあの子たちを見守ってね。ケンはお兄ちゃんだものね」
賢いケンはそう言われて全てを理解した。
ケンと会った士郎は驚いた。少し見ない間に山本そっくりの立派な体格の少年になっていた。グングン成長する若い肉体と真っ直ぐな心を羨ましく思った。
翌朝、舞美はケンに蒸しタオルを何本も渡して、パパの体を拭いてねと頼んだ。
「パパ、起きて。ケンだよ、起きて」
「ああ、ケンが拭いてくれるのか、ありがとう」
「ママから頼まれた」
「ママが好きか?」
「大好き! 世界中でいちばん好きだ!」
「そうか。もしパパが死んでもシンやリョウやレイのお兄ちゃんでいてくれるか?」
「そんな悲しいこと言わないでよ! 僕はいつもみんなの兄ちゃんだよ」
「そうか、嬉しいなあ、パパは頑張るぞ」
その午後、元旦だというのに山本から瀬川に連絡が入った。
「そっちにあの女のモト亭主が金をむしりに来る。山田という竜生会のチンピラだ。頼むぞ」
ああ、やっと俺の出番が来たか。退屈でつまらなかった瀬川は楽しくなった。そうだ、舞美さんに客人を教えるか? いや、教えない、舞美さんの反応が楽しみだ。瀬川は愉快になった。
18章 episode 9 ヤクザのユスリ
◆ 腹を括れば、女は男より強くなる。
応対に出た舞美に、その男は微笑みながら名刺を渡してお話がありますと言った。ピンと来た舞美は室内に入れた。
「ご主人がご病気のところ恐れ入りますが、実は私のモト妻が週刊誌沙汰になりまして困っております。それでお話しを聞いてもらえないかと、お伺いした次第です」と、頭を下げた。
その時、レイが廊下をオシッコ、オシッコと大騒ぎで走り抜け、トイレから出て山田をマジマジと見た。「オジちゃん、おテテ痛いの? どうしたの?」と、刺青を隠した包帯を見て心配し、救急箱を持って来た。
「アタチがね、イタイの飛んでケーするから、オジちゃん、もう平気よ」、包帯の上に救急バンをペタンと貼ってにっこり笑うと、山田はつられて小さく笑った。
「それでお話とは何でしょうか」
「モト妻がこちらのご主人のお相手をしたとかで、パート先をクビになってアパートも出なきゃなりません。それでお金をお借り出来たらと、ご相談に来たんですがねえ」
「お話はわかりました。その方には申し訳なく思ってます。あなたではなく、ご本人とお会いして謝りたいと思ってます。どうぞ本日はお引き取りください」
「そんなこと言っていいんですか、後悔したって知りませんよ!」
「はっきり言いましょう! 後悔なんか少しも怖くありません! 私は毎日それ以上の後悔の連続です。そんな脅しに驚きません! お帰りください」
子供部屋では、舞美の大きな声に驚いた子供たちと、ニヤついている瀬川と今にも飛び出しそうなケンがいた。瀬川がケンを連れて来た。
「やあ、山田さんとやら上原さんに取り次いでもらえないかなあ。リボルバーの瀬川と言えば思い出すはずだ」
「あっ、あの、会長の上原ですか? 私はジカに電話できません。上を通してからしか」
「ふーん、そうか。僕が連絡するから、ケイタイ貸してくれ。逃げたらどうなるかわかるな!」
瀬川は上原と話した。終始にこやかな会話が終わり、山田に携帯を返した。恐る々携帯に出た山田は、真っ青になり這いつくばって謝った。
「申し訳ありません、私のとんだカン違いで。あの~ あなた様は会長を守ってくださった『伝説のオトリ捜査官』の瀬川さんで?」
「昔のことだ、気にするな」
這々の体で帰ろうとする山田にレイは、
「オジちゃん、痛いの飛んでったあ? アタチが治してあげるから、また来てね」
「お嬢ちゃん、ありがとう。すっかり治ったよ」、山田はレイに手を振って立ち去った。
「舞美さん、驚いたよ! 大したものだ! ヤクザに因縁つけられて平気だったの? 驚いたよ、舞美さんの落ち着きように」
「あはっ、破れかぶれです。毎日びっくりの連続で慣れっこになりました。そして、落ち込んでたから憂さ晴らしになったかなあ。瀬川さんがいると何も怖くないです! 安心してました。でも、瀬川さんって顔が広いんですね」
ケラケラ笑った舞美に驚いた。山田が口を滑らした「伝説のオトリ捜査官」を気にせず、何も訊かなかった。それは問われた人間の心臓を抉るものだと、わかっているからだろう。舞美さん、昨日や今日とかじゃなくて、毎日泣いたときがあったんだね。瀬川は痛みを知った人間がここにもいたと思った。
士郎は寝室で一部始終を聞いていた。
舞美は謝りたいと言ったが、なぜあの女に謝る? 理解できなかった。素性を隠して3回関係しただけだ。女は妊娠したわけではない。本当だか知らないが子宮はないから安心してと言った。どこにでもいるおばさんで、そそくさと済ました行為だった。顔も覚えていない、街で会っても多分わからないだろう。金を払えとはとんでもない! 士郎は自分勝手な論理で憤慨した。
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