第44話 新事務所へご案内
俺は放課後、咲良ちゃんと待ち合わせをしていた。
これからアイドル活動するうえで欠かせない、事務所を案内する予定だ。
授業が終わってすぐの時間に校内で待ち合わせをしていると皆に怪しまれるので、学校の近くにある駅で待ち合わせをしていた。
その事務所は、前から俺が近場にツブッターの事務所があったら活動がしやすいと思って建てたものである。
その事務所の一角を、アイドル活動用の事務所に模様替えした。
俺個人で使う予定だったので大きくない事務所だが、近場にあり便利なので喜んでくれるだろう。
俺は待ってる間、周りを見ていると、ここ数年で駅前が大分発展してきたように思える。
この駅に来れば大抵のものは買い物が行えるだろう。
去年には、ここから歩いてすぐのところに、大きなショッピングモールもできた。
出来た当初はすごい客の数で、そこに行こうとする車で大渋滞が起こる始末だった。
土日などの休日は今でも道は大渋滞するほどの人気っぷりだ。
しかし俺は、そのショッピングモールには行ったことがない。
そういえば由愛に連れて行って!と言われていたことを思い出す。
また今度、由愛と行ってみることにしよう。
休日は人が多いから平日に行きたいのだが、学校があるのでそれは無理か。
そんなことを考えていると、咲良ちゃんの声が聞こえた。
「和樹せんぱーい!」
俺はその声のした方に視線を向けると、咲良ちゃんはピンクのウェーブの髪を揺らし手を振りながら近付いてくる。
「先輩、待ちましたか?」
「いや、俺もさっき来たところだよ」
俺のもとに来た咲良ちゃんは俺の左腕に抱き着いてくる。
距離が近いな!
「どうしたの?咲良ちゃん?」
「えっ?」
俺が抱き着かれた腕を見ていることに気付いた咲良ちゃんは、にっこり笑って言ってくる。
「これぐらい普通ですよ!先輩!!」
最近は異性の腕に抱き着くのが普通になったのか。
良い時代になったな。
「それより先輩!新しい事務所ってここから電車でどれぐらいの所にあるんですか?」
あぁ、どうやら咲良ちゃんは駅に集合したのは、電車で移動するからだと思っていたらしい。
まぁ、駅に集合したら誰でもそう思うか。
俺は咲良ちゃんの考えを正すことにした。
「いや、こっから歩いていくよ!」
すると咲良ちゃんは少し心配そうな顔をした。
「えっ?もしかして先輩の家が事務所だったりします?」
咲良ちゃんの中にはこの近くに事務所があるという考えはないのか。
「それもそうですよね。一学生が事務所なんて借りれないですもんね」
すると咲良ちゃんは、よしっ!と気合を入れる。
「私達でその事務所、世界一といわれるまで大きくしましょう!」
俺は盛り上がってる彼女に悪いと言わんばかりの気持ちを込めて声をかける。
「いやっ、俺の家じゃなくて駅の近くなんだ」
咲良ちゃんがゆっくりとこっちを向く。
「この・・・・近く?」
「そうそう、ごめんね何か」
「いえ、私が勝手にはしゃいでいただけです」
彼女は少し恥ずかしそうに頬を染め下を向いていた。
「じゃあ、気を取り直していこうか!」
すると彼女は顔を上げる。
「はい!」
あんなことがあったのに、やっぱりアイドル活動は大好きなのだろう。
これから、またアイドル活動ができることがうれしいのか、彼女の目は輝いていた。
俺と咲良ちゃんは目的の事務所に向かって歩き出す。
「どれぐらいで着く感じなんですか?」
咲良ちゃんは聞いてきた。
確かにこれから通う事務所だ、気になるか。
「うーん、3分ぐらいかな」
「えっ!?近すぎませんか?」
「まぁ、駅近で栄えている場所に事務所が欲しかったからね」
位置的には、駅とショッピングモールの中間に位置する場所にある。
そんなことを考えたら、もう着いてしまった。
やっぱり持つべき事務所は駅近だね!
「ほらあそこ!」
俺は指を差して、咲良ちゃんに事務所を見せることにした。
すると咲良ちゃんはびっくりした顔をした。
周りは少し古めの7階建てのビルなど並んでいる中、指をさされたビルは新品のとてもおしゃれな ビルだったからだ。
「えっ?これ先輩の持ってるビルですか?」
「そうだけど、少し小さかった?」
すると咲良ちゃんは全力で首を横に振った。
「いえいえいえ。前の事務所なんてすごく古くて小さい5階建てのビルでしたし、事務所として借りてたの2階の一室だけだったんですよ」
あぁ、そうなのか。
てっきりあのビル全てがアイドル事務所なのかと思ってしまっていた。
それに対しこのビルは10階で、最近建てたので新しい。
まぁ、あれに比べたらそりゃあびっくりするか。
俺は納得した。
10階というのも、ここの土地で定められた高さの基準いっぱいいっぱいの高さで建てたので、もっと高いビルがいいと言われなくてよかった。
俺はそっと胸をなでおろす。
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