第39話 ラブハートの事実

俺は鞄を取りに教室に向かった。

すると教室には教卓の椅子に座る、宮下先生が1人だけいた。

クラスメイトは皆、帰ったり部活に励んでいるのだろう。

思ったより、長電話をしていたようだ。

俺は昨日の事もあってか、先生とは顔が合わせずらいので、そっと鞄を取って帰ろうとした。

すると先生は、まるで俺を待っていたかのように椅子から立ち上がり声をかけてきた。


「私の記憶違いだったらいいんだが」


「えっ?」


俺は振り返る。


「山田。お前昨日の夜私と会わなかったか?」


「いえ!会ってないです!!」


なんか正直に答えたらいけない気がしたので俺は嘘をついた。

それにあれだけ酔っぱらっていたので覚えてるわけもないだろう。


「そうか・・・」


先生は、納得したのか帰るように促す。

しかし、俺が教室を出ようとした瞬間先生はしゃべりだす。


「あの時は生徒の相談にのって解決できずに落ち込んでいてな。普段飲まない酒を飲んでしまった」


俺はドキッとした。


「私は、どんなに酔っても記憶だけは残るみたいでな」


「へ・・・へぇ~」


俺は冷や汗が出てきた。


「1年の西城咲良を知ってるだろ?」


俺はまさかの名前が出てきたので先生の方を振り返る。


「はい。知ってますけど」


すると先生はとても悲しそうな顔で続きを話した。


「お前も知っての通り彼女はアイドルをやってるんだが、その事務所が今にも潰れそうみたいでな。週末の閉園ライブに出られなくなったみたいなんだ」


「・・・えっ?」


「しかし、諦めきれない彼女は事務所に何度も掛け合ったみたいだ。だが事務所が出した返事は、閉園ライブが終わった後、いかがわしいビデオのデビューをしてくれるのであれば事務所も存続できるというものだった。もちろんそれは断るように言ったがな」


俺はドキッとする。

そんなことを知らない俺はさっき彼女に何と言った?

そしてその後、彼女が口にした言葉。


俺はその瞬間ダッシュで教室を出ていくのであった。


「あ!おい!!」


急な出来事に宮下は声を出してしまった。


「まったく。昨日の言葉は嘘じゃないぞ山田。生徒じゃなく、一人の男として私がお前が好きなことは!」


誰もいない教室に宮下の声が染み渡る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る