第38話 過去の出来事
翌日の放課後、俺は校舎裏で電話をしていた。
どうやら進行していたプロジェクトのうち、1つは完全に終了し、もう1つはテスト段階でそれももう終了するみたいだ。
予定通り2つのプロジェクトは、ほぼ同時に達成したと言ってもいいだろう。
そして実は最近もう1つ新たなプロジェクトを進めることにした。
俺はそれらの情報交換を電話で済ませ、電話を切った。
「プロジェクトは全部順調でよかった」
≪さすがマスターです!≫
アテナに褒めてもらえた。
この調子なら十分期限までに間に合うだろう。
俺は満足し、自宅に帰ろうと歩き出したとき鞄を教室に置きっぱなしであることを思い出し立ち止まる。
しょうがない引き返すか。
そう思った瞬間、背後から声がかかった。
「先輩!」
俺は振り返ると、そこには西城さんがいた。
「えっ?西城さん!どうしたの?」
アイドルで人気者の西城さんが、なんでこうも俺に接触してくるのだろうか。
接点なんて、あいさつした程度なのに。
そんな西城さんは、何やら思いつめた顔をしていた。
「閉園ライブの事なんですけど・・・」
あぁ、もしかして不安なのかな。
彼女にとって、初めての大きなライブみたいだ。
不安で暗くなるのも仕方ないか。
「西城さんにとって初めての大きなライブだね」
「いえっ、その・・・」
「不安なのは分かるけど経験だからね」
そしてなにより。
「ライブって、楽しく歌ってるアイドルを見ると、こっちも楽しくなってくるよね!」
西城さんは忘れていた何かを思い出すかのようにハッとし、こちらを見てくる。
「どんなにつらいことがあっても、アイドルを見たら元気がもらえる」
俺も昔、家族を失って悲しみに暮れていた時、アイドルのライブを見たことがある。
その時、楽しそうに歌っているアイドルを見て、俺は元気をもらえたのだ。
「だから頑張って!閉園ライブ楽しみにしてるよ!」
西城さんは何やら吹っ切れた顔になり、元気を取り戻したようだ。
そんな彼女は「はい!もう迷いません!!」と言って、走り去っていく。
校門の方に向かって行ったので、もう帰るのだろう。
俺も鞄を取りに戻って帰らないとな。
そう思い彼女に背を向け教室に向かう。
すると。
「和樹先輩!」
その声で振り返る。
「私の夢は、あなたの心の光になることです!」
そう言って、満面の笑みを見せそのまま去って行った。
その言葉を聞いた俺は、あることを思い出した。
**************************************
俺は過去に、両親を失ってふさぎ込んでいた時期があった。
その時俺と妹は、隣町に住んでいる両親の親戚に引き取られていた。
俺は通っていた小学校から転校してすぐに、クラスの生徒から心配される毎日を送っていた。
そんな中、遠足で遊園地に行くことが決まった。
そして、遠足当日となり班行動でアトラクションを楽しんだ後、最後に遊園地内のライブ鑑賞をして終わる時だった。
俺はライブが始まる前、トイレに行っていた。
トイレを終えた俺は、迷子の1人の女の子を見つける。
彼女は泣いていて、思わず声をかけてしまった。
「ねぇ、どうしたの?大丈夫?」
女の子は泣くのをやめてこちらを見てくる。
「ママとパパとはぐれちゃったの」
そうして女の子は再び泣き始めた。
俺はその子をなだめていた。
(この子俺と同じ年ぐらいの子だよな?学校休んで来たのかな?)
俺は泣き止ませようと、その子の頭をなでて声をかける。
「大丈夫だから!君には迷子センターがある!!」
女の子は一瞬固まった。
これ以上ない励ましに感動しているのだろう。
迷子センターに行けば、きっとこの子の両親を見つけてくれるだろう。
これ以上強い励ましの言葉はない。
するとなぜかその子は、さらに泣き出した。
「えっ?なんで!?」
これは予想外だ。
俺はこれで問題解決し、この状況から解放されると思ったのだが、どうやら違う結果に終わった。
俺はもうどうしていいかわからず、その子を抱き寄せ頭をなでることしかできなかった。
(由愛ならこれですぐ泣き止むのにな)
すると泣いていた子は、泣きながら俺の顔を見上げてきた。
その頬は少し赤みがかかっていた。
そんな時、たくさんの人の歓声が鳴り響いた。
俺と女の子はそちらに意識を持って行かれた。
そちらを見ると、ステージに立っているアイドルが歌い始めた。
俺達は自然とそのステージに引き寄せられ、そのライブを聞いていた。
観客はそこまで多くはなかったが、そのライブで確実に元気がもらえた。
気付いたら俺とその子は楽しくライブを聞いていた。
「すごい・・・」
さっきまで泣いていたのに、もうその目には涙がなく、その歌を笑顔で聞いていた。
そしてその子は歌を聴きながら口を開く。
「みんな楽しそう・・・」
すると俺の心に、最近感じていなかった楽しいという感情が芽生えていた。
(俺も、楽しい)
俺は気付けば、涙が出ていた。
「あれ?・・」
俺はどんどん涙が出てきた。
止まらない。
そういえば両親が亡くなってから、俺が悲しんだら由愛もさらに悲しくなるから悲しんだら駄目だと強がっていた。
しかし、今この場で楽しいという感情が生まれたからか、悲しいという感情を止めるものがなくなったのだ。
そんな俺の横で次は女の子が心配し出す。
「どうしたの?なんで泣いてるの?」
さっきとは逆の立場だ。
場の雰囲気だからか、さっきまで泣いていたこの子の前だからか、口が開いてしまう。
「最近、俺の親が死んじゃったんだ」
「えっ?」
さっきの子は目を見開きこちらを見てくる。
「今まで、我慢してたのに、涙が止まらないや」
すると今度は逆に女の子が俺を抱きしめてきた。
「歌ってすごいな、アイドルってすごいな」
そういうと女の子は俺に聞いてきた。
「君の名前なんて言うの?」
「俺の名前は、山田和樹」
俺は親につけてくれた名前を、泣きながら言う。
すると女の子は俺を開放し、笑顔で言ってくる。
「それじゃあ和樹君。私アイドルになって、和樹君の心の光になるよ!」
俺は彼女を見る。
「私を元気にしてくれてありがとう!今度は私の番だよ!」
***********************************************
それが彼女との、西城咲良との初めての出会いだった。
あの時は、こちらの名前は言ったが相手の名前は聞いていなかったので、西城さんがあの時の少女だとは分からなかった。
「そうか・・・だからか」
俺は、次彼女に会うのが楽しみになった。
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