第8話 潰れそうなジムの会員になりました
放課後、俺はとあるジムの前に来ていた。
「結構大きいな」
それが第一印象だった。
駐車場も広いし、よく見かけるジムよりも全然よさそうだ。
しかし何か違和感があるな・・・。
そう思いながら入口に向かうと、ドアの横にチャイムがあったのでそれを押した。
すると「はい!」とスピーカーから声が聞こえた。
「入会希望者です」
そういうとスピーカーから「どうぞ!」と聞こえると同時に、鍵の開く音がした。
俺は鍵が開いたドアから中に入った。
「いらっしゃいませー」
元気な受付の女の子の声が聞こえる。
店内には3人のスタッフがいた。
皆いい筋肉である。
そして受付の女性に話しかける。
「えっと、この時間にオーナーと会う約束をしていたんですけど」
受付の人は、俺をじっくり見てきた。
「失礼ですがお名前をお願いします」
高校生がオーナーと会う約束をしているといえば、怪しまれるか。
「山田って言ってもらえれば分かると思います」
「わかりました。少々お待ちください」
そう言って、受付の電話でオーナーに内線で内容を伝えてくれた。
その後、すぐにオーナーはやってきた。
「おまたせー山田ちゃん。久し振りじゃないの~」
声のした方を見ると、スキンヘッドで、ガチムチの40歳ぐらいの人がやってきた。
彼はここのオーナーで、名前は
かっちゃんと呼んでと言われている。
そう、ここのオーナーは、オカマなのである。
「久しぶりですね!かっちゃん!!といっても知り合って1ヵ月経ってないですけど」
「細かいことはいいのよ。ささ、こっちに座って頂戴。入会手続きするわよ」
そう言われ指定された席に座る。
「数あるジムの中から、うちを選んでくれて嬉しいわ」
そう言いながら、入会手続きの書類を記入するように渡してきた。
俺は記入用紙に記入しながら答えた。
「ええ。どうせジムに行くなら知り合いのジムに行く方がいいですから」
「うれしいこと言ってくれるじゃない。私泣いちゃう!」
それはやめてほしものだ。
そして書類に記入して手続き待ちの間、ジムの中を見渡していると、違和感の正体に気付いた。
「おまたせ!」
そう言いながら席に戻ってくる。
「これは会員用のこのジムの鍵だから、無くさないようにね!」
「はい!」
「入り口のドアの横にそれを当てるところがあるから、当ててもらうと鍵が開くわ」
なるほど、電子キーか。
「それじゃあ、さっそく施設案内するわね!」
「すいません」
案内しようとしていたかっちゃんの足は止まり、俺の方へ振り返る。
「どうしたの?」
「ここにきて思ってたんですけど、スタッフ3人に対して施設広くないですか?」
するとかっちゃんはびっくりした顔をした。
「あら、気付いちゃった~。ここ、そんなにお客さん来なくて従業員の数増やせないのよね」
なるほど、確かに施設の広さに対して客が少ない。
でも、それは時間帯の問題かと思っていたが。
「休日とか、もっと人がいるんじゃないですか?」
「確かに休日もお客さん来てくれるんだけどね。1番多いのは仕事帰りの人なの」
「それなら、平日の夕方が多いんですね」
確かに言われてみれば、仕事帰りに寄るのが1番よさそうだ。
そんな自分も学校終わりに寄ってるしね。
「それでも、お客さんは少ない方なのよね。予算的に広告も出せないし、このジム始まってからの課題なのよね」
なるほど・・・。
「この問題、友達として、俺もちょっと考えておきますよ」
「あら!本当?ありがとう。期待しちゃうわ~♪」
友達が困ってるんだから当たり前だよね。
「ささっ案内するわよ」
そう言われ案内されたが、ほとんどのトレーニングマシーンは初めて見るものでよく分からなかった。
その都度どうやって使うのか聞いたが、多すぎて忘れてしまいそうだ。
「慣れるまでは苦戦しそうだ」
「初めての人から見たらそうよね。それぞれのマシーンの前にテレビ置いて、使い方のビデオ流すのもコストと場所取っちゃうし。今のところ、使い方が分からなかったらスタッフに聞いてもらうしかないのよね」
「なるほどね」
友達のためだ。
その問題も、ちょっと考えておくか。
「それじゃあ、ちょっと体動かして帰る?」
かっちゃんはにっこり笑って聞いてくる。
「もちろん!」
俺は体を動かして帰ることにした。
*******************************
「今日はありがとうね」
「はい、体を動かすの思ってたより良かったので頻繁に使わせてもらいます」
この施設は定額制で、24時間使い放題なのである。
俺は、かっちゃんに手を振り挨拶して帰る。
それを見送った後、スタッフの1人がオーナーに聞く。
「あの子にいろいろと経営の事しゃべっちゃってましたけど、大丈夫なんですか?」
「ええ。彼なら大丈夫よ。友達ですもの」
スタッフは信じられないといった顔で聞いてくる
「オーナーほどの人が、高校生と友達になるってすごいですね。どこで知り合ったんですか?」
「公園よ」
「オーナー公園行ってるんですか?」
スタッフが予想以上にびっくりしている。
なんでだろうか。
「そうよ、公園のベンチに座って、経営のこと考えながら子供が遊んでる姿を見てたの。そうしら彼が話しかけてくれたの」
スタッフは額に手を当てた。
(それ、不審者と思われてますよオーナー)
「それから彼と話したら楽しくなっちゃって、ツブッターでお互いフォローしあった仲なの」
それを聞いてもわからない。
だからと言ってこの施設の内部事情を話し過ぎだ。
「それにね、彼のフォロワーね、数は700人程と多くないんだけど」
「確かに少ない方ですね。私でも4000人はいますよ」
オーナーはうなずいて話を進める。
「量より質ってこの事なんだなって思ったわ」
オーナーはスマホを操作し見せてくれる。
それを見て、絶句した。
「これ・・・、えっ?」
「すんごいでしょ。全員世界のトップ企業を牛耳ってる人たちよ」
その画面に並ぶ人たちを眺め、茫然と彼が去った後を見ていた。
「彼と出会えた私は、とてもラッキーだったのよね」
さっきスタッフが言った言葉を訂正しよう。
高校生ほどの子供が、私と知り合ったことがすごい?
いいえ、違う。
私が彼と出会い友達になってくれたのが奇跡レベルですごいのだ。
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