お前のような不遇職がいるか!~リアリストが出す答えはいつもアンリアル

Konoe Mitsuki

第1話 結界師は仕方なく現実的な選択をすることにした

ここは人類と亜人、魔族が住むイルマ大陸。


この大陸は、その真ん中を貫く長大な大渓谷「グランドリフト」により、人類と亜人が住まう西の大地と、魔族が住まう東の大地とに分かれていた。


この物語は、ただ唯一、東の大地 “ 魔境 ” に進出した人類の街『マナエル』にて、

「リアリスト」である不遇職の主人公が「アンリアル」な答えへと至る物語である。




「シルバニア王国、天職管理官が国王を代理し宣告する。シド、君の職業は『結界師』だ」


「なっ!……」


(想定していた中でも最悪の天職だ!)


俺はショックのあまり絶句してしまう。

天職管理官が成人式で告げた俺の職業は、不遇職の「結界師」だった。


あまりにもショックでしばらくその場に立ち尽くしていたが、管理官が着席を促したので、俺は自分の席にトボトボと戻る。


その直後、後ろから「ドン」と背中がたたかれる。


「シド、落ち込むな! 不遇職でも大丈夫だ! ミオと結婚してうちの家業を継いでくれれば安泰―― い! 痛い! 痛いぞミオ!」


俺の背中をたたきながらトンデモ発言をしたのは、両親がなくなった後、俺を引き取ってくれたリカルド伯父さんだ。


「な、な、なにをどさくさに紛れてバカ言ってんのよ! このクソおやじ!」


と、真っ赤になりながら伯父さんに蹴りを入れているのが伯父さんの娘で従妹のミオ。俺と同い年の十五歳だ。


「シドちゃん、不束者ですがミオをよろしくね」


と、包み込むような笑顔で娘に追い打ちをかけるのは、ミオのお母さんのシエル伯母さん。


「なっ! お、お母さんまで! 何言ってんのよ! ……で、でも、シドがどおしてもって言うなら……け、け、け、けっこ、ん……」


「ご静粛に!」


ミオが真っ赤な顔で何かを言いかけていると、天職授与が済んだ管理官が俺たちを注意した。


「諸君らは今日から成人し、人頭税、年大金貨一枚の納税義務が生じる。納税は所属のギルドを通して行われるので、各人必ずギルド登録を行うこと。以上だ」


管理官が話し終えると、本日成人した参加者たちは、同じ政庁内で持たれる各ギルドの説明会に向かって移動を始めた。


「はぁぁ、ギルドの登録と言われてもなぁ……」


俺は自分の職業の「結界師」の不遇っぷりにため息を漏らす。


俺は十年前、『厄災戦』と言われるマナエルを襲った魔物のスタンピード戦で両親を亡くし、伯父夫婦に引き取られた。


伯父夫婦は実の娘であるミオと同じように、常に自分たちの子として俺を育ててくれた。


だから俺は、どんな職業でも家族を支えられるように、学校では読み書き計算の授業のほか、基礎剣術、基礎体術、法力鍛錬でも常にトップの成績を取り、文武両道を心がけてきた。


また、天職管理役場に度々足を運び、様々な職業について研究してきたが、その中でもどう考えても不遇な職業があった。

その一つが「結界師」だ。


「結界師」の何が不遇かと言うと、まず「防衛職」でありながら戦闘には不向きな点が挙げられる。


初心者の結界は脆弱で、最弱のホーンラビットの突進すら止められない。

ホーンラビットの突進は木の盾で防げるので、初級冒険者はみな木の盾を持って狩りに行く。


つまり、初心者結界師は木の盾より役に立たない。


さらに、結界は敵味方を問わず触れたものを全て弾いてしまうため、攻撃する際は必ず結界を解除しなければならない。


自分の攻撃時に結界で防御不能である上に、味方を守る際に結界が味方の邪魔になるなんて、防衛職として致命的だ。


熟練者になれば「敵の攻撃だけを弾く」という条件付けも可能らしいが、そこに至るまでの道のりは長く、短命の人種では到達できない。


それこそ、長寿で有名なエルフにでも生まれない限りは、戦闘で役に立つ熟練の結界師にはなれないのだ。


すなわち──

この「結界師」は職業そのものが『不遇職』なのではなく、“人種では到達できないゆえに『不遇職』”なのだ。



「なに暗い顔をしてるのよシド! さっさと冒険者ギルドの説明会に行くわよ!」


俺が考え込んでいると、ミオが腕を引っ張ってくる。


「ちょっと待て! 俺はまだどのギルドに行くか決めてないんだよ!」


「えぇぇ、何言ってんの。シドは防衛職でしょ? 私は攻撃職の『聖剣士』なんだから、私と組めばいいじゃない!」


ミオの職業は「聖剣士」。

“ 魔 ”に属する魔物、悪魔、魔人、アンデッドに絶大な特効を持つ攻撃職だ。


学校でも運動能力は俺に続くトップクラス。冒険者ギルドに入れば、すぐに上位へ駆け上がるだろう。



「おそらく俺の職業では、討伐依頼が受けられるG級冒険者になれないよ。冒険者ギルドに入っても万年、雑用専門のH級冒険者になるだけだ」


「えぇぇ、なんで? 剣術ではいつも私に勝ってるじゃない!」


「そりゃあ、固有能力なしの初級剣術の話だよ。それに『結界師』は常時身体能力強化がない。冒険者は固有能力と常時身体能力強化を使って魔物と戦うプロだ。俺がミオと同じG級に上がれるわけないだろ」


ミオのように将来性の見える戦闘職なら、昇格試験で成績が悪くてもG級資格が与えられるだろう。

だが俺は──


・固有攻撃能力なし

・常時身体能力強化なし

・熟達の伸びしろ(人種の寿命では到達不可)


たとえ、初級剣術と基礎体術で試験官に勝ったとしても評価されないだろう。


「常時身体強化なんて無くても、いつも無属性法力の身体強化で私に勝ってるじゃない!」


「常時身体強化が無ければ、フィールドで寝ている時や用を足してる時にも逐次身体強化をしてなきゃならないだろ! 現実的じゃないんだよ」


それを聞いてミオはプウと頬を膨らませた。



ミオにはこう言ったものの、納税のためにはどこかのギルドには所属しなければならない。

俺は「冒険者ギルド」について視点を変え、現実的に考えてみることにした。


ギルドとは、それぞれの職業特性を活かすための組織だ。

特性を持たない俺は、どのギルドに入っても「雑用」しかできない。

なぜなら、それぞれのギルドは職業特性を持った者にしか営業許可を出さないからだ。


では、「雑用」の就職先としての「冒険者ギルド」はどうだろうか?


冒険者ギルドは世界最大規模で登録料も保証金も不要だ。


「雑用」の貧乏人が保証金の高い小規模ギルドに入ると、登録料+保証金で借金スタートの上、収入が不安定、下手すれば人頭税が払えなくなり、公共奴隷に落とされる。


そんなリスクだらけのギルドには入りたくない。


──だから俺にとって、最も現実的で、唯一の選択は「冒険者ギルド」となる。



「……分かった。じゃあ一緒に冒険者ギルドの説明会に行こう」


「やったー! そうこなくっちゃ!」


「じゃあ伯父さん、伯母さん、ミオと一緒に冒険者ギルドの説明会に行ってくるよ」


「ああ、気をつけて行っておいで。帰りにミオとデートしてきても良いぞ……て、痛ててて! 痛いぞミオ!」


「父さんは一言多いのよ! 行くわよシド!」


伯父さんに蹴りを入れてから、ミオは俺を強引に冒険者ギルドの説明会へ連れて行った。






【文末作者コメント】

皆様、本小説をお読みいただきありがとうございます。この小説は作者にとって人生初の長編小説となります。何かと読みづらい点もあるかと思いますが、どうか長い目で見て頂ければ幸いです。本小説には裏設定などが多数ありますので、文末に【うんちく】が付く場合があります。同じタイトルで【うんちく】の無いものを「小説家になろう」で掲載しておりますので、【うんちく】が不要な方はそちらでお楽しみください。


【第1話うんちく】

◆ギルドの保証金について

この世界ではギルドに所属する際には「保証金」が必要です。これは所属する個人が何かギルドに不利益をもたらした場合に “ ギルドを助ける ” ための保証金です。この世界、特に魔境に進出した街「マナエル」は非常に過酷な環境にあり、たとえ個人を犠牲にしてでも組織を守らなければ生きていけない環境にあります。大きな組織の場合、多少問題が生じても組織の存続に問題はありませんが、小さなギルドの場合、個人の問題が組織全体の存続維持に深刻な影響を与える場合があります。ですから、小規模ギルドは高い保証金を要求します。主人公のシドは同じ「雑用」ならば保証金の負担がない冒険者ギルドが良いと判断しました。


◆この世界の能力について

この世界は人族、亜人の使う能力の源と、魔物、悪魔、魔人など「魔」に属する者たちが使う能力の源は「異なる源」となっています。人族、亜人の使う能力の源は「法力」、「魔」に属する者たちが使う能力の源は「魔力」です。成人式で与えられる職業にはこの「法力」を自動運用する『スキル』があり、それを生かして仕事を行います。例えばミオの場合、聖剣士ですが、剣士の職業に属する常時身体強化という自動能力があり、また“ 素の法力 ”である『無属性』の法力を『聖属性』に変換する自動能力もあります。特に冒険者ギルドなどの戦闘職ギルドではこの自動能力は最も重要視されます。しかし、この世界の人間は自動能力が無いからと言って“ 素の法力 ”、無属性の法力を使えないわけではありません。主人公はこの無属性の法力を使いこなし、逐次身体強化で戦闘を行う能力を既に持っています。しかし、彼は自分が自動能力が無いことを気にしており、冒険者ギルドに「戦闘職」として所属することをためらっています。


◆ギルドの営業許可について

この世界の専門職はギルドが営業許可を出します。例えば、伯父であるリカルドの職業は「料理人」で、彼は料理人ギルドから営業許可をもらい、店を開いています。料理人ギルドが営業許可を与える基準は、料理人の腕の良し悪しではなく、「料理人」の持つスキルである食品の安全性を見抜く能力に基準があります。ですから、たとえ主人公が伯父の店を継いだとしても、料理人ギルドは衛生管理上の理由で営業許可を出さず、店は閉店になる可能性があると主人公は考えています。一方、リカルドは実務をよく知っているため、主人公をオーナーとし、料理人は別に雇えば良いと思っており、その点が相互の行き違いになっていて、主人公は安易に伯父の提案には乗れないと思っています。そのため主人公にとって、伯父の提案は現実を無視した「トンデモ発言」に映っているのです。




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