第十七回書き出し祭り【本文感想】
1-02「蜘蛛になる」本文感想
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ぜひ読了後にお越しください。
【本文感想】
まず初めに大変面白かったです。書き出しとしての好調な滑り出しを描き、安定した描写、美しい描写が映える。読んでいて面白い作品でした。私が好きなやつ(声を大にして言う。私が好きなやつ。心でも言う)
内容としてはいじめの現場から主人公の辛い境遇が描かれていきます。いじめっ子特有の高圧的かつ無慈悲な言葉遣い・トーンを感じる描写が素敵で、生々しいリアリティと質感がある。教師は主人公を見ていないし、助けた金魚も(当然ながら)礼をするわけもない。主人公の孤独、虚無、そう言った心境の描き方が緻密で、引き込まれるものがありました。
それにしても必要以上に「助けられない」主人公です。彼女に対して手を差し伸べるものがいない。担任がその役割を放棄しているので、ストレスがありますね。いじめは当事者間で解決出来ないのでどうしようもないが、そこを感知しない担任はそういう人物なのか裏があるのか。
人物造形に対する掘り下げが少ないまま場面としてストーリーが進んでいくので、登場人物一人一人のスタンスが一つのフックにもなっていきます。後半の話になりますが生殺与奪を握るからこそ読者も「こいつは良い奴か」という視点で見ます。審判者になる。主人公でさえも人間的に描いていくと思うので、比重がどう動いていくのかはとても楽しみに思うんですよね。タコピーの原罪みたいなものです。「死んでほしい」「救われてほしかった」そういう読者の心理を握る技術が求められていく作品でした。
しかし物語の導線が滑らかで、とても読みやすい作品に思います。私としても参考になる表現でございました。いちいち見せ方が巧くて、それだけでも読みたくなる作品です。印象として残す技巧です。
水を被せられる、金魚を戻す、着替える、掃除する、真面目な生徒がいない世界。学校に対して希望を持てないのが伝わる。
それでも帰りたくない、不登校にならない理由もあって、事件の被害者にもなれない。なぜなら綺麗な子が狙われるから。この自嘲気味な視点がすごくいい。
どこにも救いがないんですよ。非日常に飛び立てない。この狭い世界で同じことを繰り返してる。きっかけが欲しいと思っている。虚無であることをまざまざと見せます。
また上記の文章は書き出しの転に繋がっていく。被害者になったいじめっ子。確信に至るまでの期待感の描写も好きです。ちょっとだけ翌日が楽しみになる。欠席に確信して真っ先に現場へいく。捕まった彼女の姿があって、ここでも描写力が光ります。「皿に顔を突っ込んで食べたのだろう」という描写が読者への伝達としてあるだけじゃなく、主人公がそう思い至る・そう認識する理由(回想)へと繋げるんです。最高。上手い。技巧的な視点ばかりで読んでしまって申し訳ない。秀逸だと思います。
立場が逆転したことがはっきりと伝わる書き出しの最後。
希望を持ったいじめっ子に対して簡単に去ったわけなんですけど、また明日という言葉が非常に強い。いじめっ子は希望を捨てきれない。鬼だ。すごくいい。ゾクゾクする幕引き。とても満足感のある第一話でした。
ちなみに一番好きな描写は五百円玉を探すシーンでした。目を合わせられない相手、汚い家のなかから自力で探す。最高でした。学ぶものが多いです。
書き出し祭りでは展開速度や+αの情報が求められる場合が多いようです。それでも本作は素晴らしく感じます。人を選ぶ内容ではありましたが、健闘をお祈りしております。
結果が非常に楽しみな作品です。
【気になった点】
あらすじも本文もとても満足感があり、全体的に良かった作品ですが、唯一気掛かりに思う点としては「蜘蛛」としての要素を出し切れずに終わったところでした。あらすじでも示されてるところを見るに「垂らされた糸を切られるのって、どんな気持ち?」といじめっ子を試すような仕返し系の物語であることを示していますが、そこと「蜘蛛になる」というタイトルが繋がらないような印象のままあらすじ通りの展開で終わってしまったのが少し惜しいです。
(これは私の知識不足の可能性もありますが)蜘蛛の習性に嗜虐的な要素があるという認識はなく、糸を切る行為と蜘蛛に成ることが直接繋がるように思えないこと。
(また仔細が異なるので勘違いかもしれませんが)芥川龍之介「蜘蛛の糸」をインスピレーションをしている場合、いじめっ子の境遇はカンダタに似ますがやはり主人公の状態と蜘蛛は繋がらないのではないか?
と一読者としての私としては、この時点の認識にミスマッチを起こしていました。「蜘蛛になる」を掴みあぐねています。
カンダタは、蜘蛛を助けたので蜘蛛糸分救いの手が差し伸べられたが途中邪心を持ったためにぷつりと切れてしまったという顛末があり、糸を垂らしたのはお釈迦様で、糸が切れたのはカンダタの心のせい。ある種偶発的なものでもあります。
そのあたりが主人公のスタンスとも乖離し、タイトルで感じる要素がないままの幕引きとなったところが惜しいと感じるポイントです。
もちろんそれを差し引いてもすごく面白い作品だったけどね!!(声を大にry)
可能であれば、蜘蛛という要素が回収出来る展開が今後待つこと(言ってもこれは書き出しですからね!)、見られることを楽しみにしています。
とても面白い作品でした。
ご依頼ありがとうございました!!
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