第11話 アルバイト終了?
「ごめん」
こちらの状態を聞いてきた彼女に、俺は謝罪で答える。
「……えっ」
「バイト始めたばかりで悪いんだけど……俺、この仕事向いてなさそうだ」
「……え……えっ?」
抑揚の少ない普段の彼女とは違い、明らかな驚きと戸惑いが伝わってきた。
「前に少し話しただろ。小学校の頃、クラスの女子みんなからイジメられてたって」
まだ呼吸を整えながら、スマホの向こうの沖浦さんに話しかける。
「…………うん」
「その後色々あって、両親も亡くして、関西から
「………………うん」
スマホから聞こえる沖浦さんの返事も、何だが弱々しい。
「少しは慣れたかと思ってたけど、人間型の相手と戦闘とか、無理みたいだ。恐怖の方が先に立つ」
「……そう」
「……だから、ごめん」
そう言って、今回のアルバイト自体を断ろうとしたとき――。
「ま、待って!!」
珍しく、彼女が大きな声を出した。
「っ!?」
俺の体がびくりと震え、一瞬動きが硬直する。
「……あ、ご、ごめん」
それがスマホ越しにも伝わったか、沖浦さんが謝ってくる。
「……でも、お願い、もう少しだけ、聞いて。このゲーム、戦闘だけじゃないから。生産職とか、普通の市民とかで暮らしてるプレイヤーもいるから」
珍しいな。この人がこんな必死になるなんて。
「……農業とか、鍛冶とか、錬金術とか……そういう戦闘系じゃないプレイでもテストが必要だから。人型モンスターが嫌なら、ゲーム内で会わないようにもできるから」
「会わないようにって、なんかスキルとか取得しないといけないんじゃ」
「……いざとなれば、会社の人に頼み込んで、ゲンの周りだけ人型モンスターが出ないようにしてもらう」
「いや待て。ただのアルバイトにそんなことができるのか!?」
「……まだベータテストの段階だし、少しくらいなら融通、きくよ?」
そんな権限あるのか、この人?
「……ゲーム内でスローライフとかしたい人もいるし、そっちも、きっと楽しい、よ。島くんにもその楽しさを、知って欲しい」
普段と様子の違う彼女に戸惑いはしたが、その気持ちは分からなくもない。
「……な、何かあったら、わ、わたしがっ、守るからっ!」
「好きなんだな」
「……ふえぇっ!?」
「このゲームが」
「……まあ……うん……そう……」
同じ部でのやりとりで、この人が結構なオタクであり、アニメやゲームが好きなことは知っていた。しかし、本気でゲームのプログラマーを目指していることは、アルバイトの話を紹介されて初めて知った。
「……戦い以外でも経験値は手に入るし、農業とかやりながらスローライフってのもあり」
「スローライフ……か」
名前だけはよく聞くが、具体的に何をするかまではよく知らない。
それでもこのゲーム内では、農家だとか職人だとか、戦闘職でなくとも活躍の場は用意されている。そんな話は聞いた。
「わかったよ。バイト料も発生するみたいだし、初日からやめるのも迷惑だろう」
紹介したアルバイトが早々に辞めたら、彼女の顔に泥を塗ることになる。
俺は女性恐怖症ではあるけど、相手が女子だからといって不義理が許されるというわけではない。
「……よかった……」
「それじゃ、またゲーム内で」
「……ね、今度はいつ会える?」
それまでの焦った声と違い、今は若干喜んでいるような声にも聞こえる。スマホ越しで画像通話もしていないので、その表情はわからないが。
な、なんかデートのお誘いっぽいセリフだな……。
いやいや、付き合っているどころか友達かどうかさえ怪しいのに、それはないだろう。
バイト仲間、というより仕事中は上司みたいなもんなんだから、変な意識は持たないようにしないと。
「……私は明日以降も、現実の朝9時から昨日の河原当たりで作業をしてる。また、来てくれるとうれしい」
「こっちは予定通り明日の午後かな。午前は宿題を片付けないと」
「……じゃあ、宿題が全部終わったら、もっと遊べ……テストプレイできる?」
えっ?
「ま、まあ日程はまた考えるとして」
俺も、ゲーム自体は嫌いじゃないんだ。
テスターをして、少ないながらもバイト料がもらえるなんて理想の仕事じゃないか。文句をつけている余裕なんかない。
「そ、それじゃ、また明日」
「……ん、また明日」
なんか恥ずかしくなったので適当に話を切り上げた。
それでも、彼女の嬉しそうな声を聞くと、現金なものでこちらもついさっきまでの重苦しい気分もかなり
さて、明日から何をするか。
食料が必要だが、採取だけでは限度がある。
「スローライフ……か」
畑でも作ろうかな。
そんなことを色々と考えているうちに、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
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