第2章 ふたりのリスタート

第12話 はじめてのフレンド

 翌日。

 当初の予定通り、午後になってこのゲーム、GLOことグレイト・ライフ・オンラインにログインしたわけだが。


 目を開けると、テントの天井が見えた。

 前回はドクターストップで強制ログアウトとなったわけだが、そのままログインした場合、死に戻りと同様にリスポーン地点、あのジャンピングスパイダーを倒して解放したエノキの広場に戻ってきていた。

 テントを出ると、使い捨てアイテムである[簡易テント]は、まるで風化するようにぼろぼろと崩れ去る。もうちょっと、この辺の表現何とかならなかったのかなあ。


 そんなことを考えていると、後ろから女子の声が聞こえた。

「……あ」

 振り返れば、高校で同じ部の沖浦数葉がいた。いや、このゲーム世界では『カズハ』だった。


「……お、おかえり」

「た、ただいま」

 それだけ言葉を交わして、俺たちは沈黙する。

 俺もそうなんだが、彼女のほうもそのアバターは現実世界のものとそんなに変わらないので、余計に戸惑う。

 いや、普通におはようとか挨拶するつもりだったんだが、おかえりって言われたらやっぱり……。

 何か今のやり取り、家族っぽいというか、下手したら新婚夫婦……いやいや、そんな妄想はこの人にも失礼だろう。


「……そ、それで、この辺のゴブリンとかの人型モンスターは、全部私が倒しておいた」

「そ、そうなんだ。ありがとう」

 にわかには信じがたい話ではあるが、この人もアルバイトとは言え開発側の人間なんだ。ありえない話ではないのかもしれない。


「……で、改めてフレンド登録、しよ?」

「わかった。で、どうすればいい?」

「……ガイドフォン、出して」

 沖浦さんに言われたとおり、腰のホルダーからガイドフォンを引っ張り出す。


 そして彼女も自分のガイドフォンを取り出し、俺のガイドフォンに近づけると、普段の様子からは想像もできない素早い動きでささっと操作する。


 数秒後には、俺のガイドフォンに通知が届いた。


――『カズハ』さんからフレンド登録申請が届いています――

――申請を受けますか?―

――はい/いいえ――

 さすがにここでいいえを選んだらシャレにならん。


「はい……っと」

 選択をした直後、俺とカズハのガイドフォンが着信音をハモらせる。


――『カズハ』さんとフレンドになった――

 そして、そんな表示が画面に現れる。


 彼女のガイドフォンにも俺とフレンドになったことが表示されているのだろう。カズハが満足そうにうなずいた。


――ミッション:はじめてのフレンド を達成した!――

――ガイドフォンに、ハンズフリー機能が追加された!――


「ハンズフリー?」

「これで、ガイドフォンを持たずに会話ができる。戦闘中に離れ離れになっても大丈夫」


 改めてガイドフォンを見ると、新しく握手をしている手をモチーフとしたアイコン、フレンドがNew!の文字とともに追加されていた。早速タップしてみる。


 フレンド数 1/100


「しかし……フレンド上限100人か」

「……上限を増やす方法はいくつかあるけど」

「いや足りないっていうわけじゃなくて」

「……そうだよね。多いよねえ」 

「社交性高い連中には簡単なことかもしれんけどな」

 そういう人はこんなゲームやらないんじゃないかなぁ。


「……フレンド100人できるかな」

「昔の歌か!」

「……あの歌は今でも人気だったはず……山に登ったら一人減るやつ」

「まだ未就学児なんだから大目にみてやれよ。三桁の計算とか一年以上先だろ」

「……中三の可能性もある」

「さすがにその年でそれはちょっと」

 俺が言うのも何だが。


「……あ、でも、友達100人集まる前に自分は退場ってのも良くない? もういない主人公をしのんで100人の友達が山に集うの」

「そんな水滸伝すいこでん晁蓋ちょうがいみたいな友達作りはいやだ」

「……とにかく、これでフレンド登録完了。あとはどちらかが解除するか退会するかしないかぎり、この絆が途切れることはない」

 何か言い方大げさじゃない?


「とくに解除の予定はないけど……」

 アルバイトは夏休みの間の予定だし、あとはこの人とケンカ別れでもしない限りはこのままだろう。


「……それから今後昇格の可能性もあるけど、それはまたポイントが溜まったら説明する」

「昇格って、友達から?」

「……ん。このまま彼氏彼女とかにも……」

「え?」

「……冗談」

 ちょっと不満そうな顔で、カズハはつぶやく。


 こんなことを言う人じゃなかった気もするが……でも、現実世界でもたまに変な暴走してた気もする。

 というか、そんなこと言ってこっちが変な気でも起こしたらどうするつもりなんだ。


「……なかよしポイントが貯まったら、親友にランクアップする」

「ポイントの名前が気になるが、それで確定?」

「……製品版では、一部のシステム、スキル、モンスターなどの名称が変更になる可能性があります」

 言っちゃあなんだが、一部じゃなくて結構変更の余地がありそうなんだが。


「それで、そのなかよしポイントは、何をしたらもらえるんだ?」

「……一緒に戦闘するのが一番早いけど……一緒に作業したりとか、一緒に食事したりとかでも貯まる」

「まあ、それぐらいなら……」

「……それで貯まるポイントは少ないので、これから三食ずっと一緒に……」

「いいのか、それで!?」

 それこそ夫婦とか同棲カップルの挙動じゃないか。


「……他には、プレゼントを贈ったり、願い事を叶えたり……」

 プレゼント? 願い事?


 普通に異性の友達とかいる人ならともかく、俺にはハードル高そうだなぁ。

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