異世界③

何秒か経って雨の様に砂が降り注いだ。


光線の走った跡には幅2メートル程の大きな溝が一直線に伸びていた。



サンドワームはそのまま、周りに散乱している人だった物と荷物と一緒にバラバラとなった食べ物を口に入れ、砂の中に潜り込んでいった。




恐怖で手が震え、足が砂に埋まるように動かない。息を吸うたび、喉がひりつく。



目の前で、人が死んだ。俺はただ見ていることしかできなかった。震える手を握りしめるが、力が入らない。息が詰まる。何も……できなかった。



また、戻ってくるかもしれない。

じっと砂の中の気配を探る。息をする音すら恐ろしくなる。




どれくらい時間が経ったのか。ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。


(もう、いないのか?)


風の音しか聞こえない。サンドワームの影も、音も、気配もない。だが、まだ安心はできない。


砂に足を取られながら、光線で破壊された馬車へと慎重に近づく。


そこには馬車の破片が散らばっていた。

喉から迫り上がる物を飲み込み、馬車の残骸から使えそうなものを探す。


「なんだよ、あの化け物……帰りたい、喉が渇いた、助けてくれよ……」


誰もいない砂漠に、かすれた声が消えていく。誰かに聞いてほしかった。返事のない静寂が、余計に孤独を際立たせた。


ぼやきながら探し、次第に落ち着きを取り戻してきた。


見渡す感じ使えるものは限られていそうだった。


「とにかく使えるのを探して、安全なところに行って休もう」


着替え用の衣類や血のついた布の一部、馬車の破片からロープをかき集めた。


用途不明なものもあったが、馬車の破片とロープ、破損した箱を使って即席で、ソリもどきを作ってみた。


そんなに長く使えるようなものではないが、無いよりマシだろう。


周囲に散らばった布や食べ物にも状態がいいものがあり、幸運なことに血に濡れた水袋を見つけることができた。


中身はアルコールの味のする液体。たぶん酒だったが、喉が渇いていたので無理やり飲み込む。




布を足に巻きつけ、ソリに荷物を乗せる。体が鉛のように重いが、立ち止まるわけにはいかない。引っ張るたび、砂に足を取られる



「あとは、あっちの光線くらってた馬車だな。何か使えるものがあればいいけど。」



光線で破壊された馬車を見にいくとほとんどはバラバラに吹き飛んでいた。


いくつのかの樽と木箱が無傷のまま転がっている。


「……あった。食い物が……」


力が抜けそうになる。朦朧としていた頭に、一筋の光が差し込んだような気がした。



他に何かないか馬車の残骸を漁っていると、かすかな音が聞こえた。


「……うぅ……」


微かなうめき声。


俺は息を飲み、慎重に声のした方へ向かう。


馬車の残骸ををどけると、そこには――


耳と尻尾の生えた少女がいた。


(なんだ、こいつは……!?)


獣のような毛並みを持ち、明らかに人間とは違う特徴を持った存在。


けれど、顔立ちは俺と変わらない……いや、むしろ人間に近い。


だが、俺が困惑している間に少女の方が先に動いた。


「……っ!!」


彼女は目を見開き、身を縮めた。

ボロボロの服をまとい、手足には 鉄の枷 。

奴隷として捕らえられていたのだろう。


怯えた瞳で、俺を見つめている。


俺は思わず息を飲んだ。


(いや、待て……これは、何だ?)


人間じゃない……でも、動物でもない。

こんな生き物がいるなんて、聞いたことがない。


「お、おい……お前……」


どう呼びかければいいのかも分からない。


そんな俺の戸惑いをよそに、少女は突然 バッ! と俺から距離を取った。


そして、恐怖に震えながら叫ぶ。


「た、食べないで……!!」


(……えっ?)


思わず目を瞬かせる。


食べる?誰が?俺が?

……いやいや、そんなバカな。


「食わねぇよ!!」

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異世界行ったら魔法ではなく氣の力で敵を倒してます。 @Negropass

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