異世界②
「馬車から荷物と商品を半分捨てろ、その間に逃げるぞ!」
2台目の馬車の御者は荷台の中に指示を飛ばす。
「やめてー!」
荷台に乗っていた男が体を馬車の後方から乗り出し、嫌がる子供を両手で力一杯放り投げる。順に三人の子供が投げ出されると、続いて樽や木箱がいくつか投げ出される。
勢いのついた馬車から放り出された3人の子供は地面に勢いよく転がり、手足はバラバラの方向に投げ出され倒れてピクりとも動かない。
放り出された樽や木箱は半分割れてバラバラになった。
目の前で繰り広げられる惨劇に、喉が詰まるような感覚に襲われた。声を出そうとしても、まるで自分の体が別の何かになってしまったかのように動かない。
(恐竜といい投げ出された子供といい事態に頭が追い付かん、サンドワームってあのバケモンのことか!)
砂の中から現れた巨大ミミズ。
いや”サンドワーム”は自分が跳ね飛ばした馬車の残骸を漁り何かを食べている。口元には赤く濡れていた。人らしきものが咥えられ血の様なものがついている。
(理解したくないが、あれは馬車に乗っていた人を食べたのか)
100メートルほど先を、馬車が砂煙を巻き上げながら疾走していく。
目の前の餌に夢中なのか、逃げていく馬車には興味を示さない。
しばらく食べると投げ出された子供達と荷物の方へ移動してくる。
サンドワームは蛇のようにのたうち、地表からさらに姿を現した。
5メートルほどかと思っていたその体は、実はほんの一部に過ぎなかったのだ。
15メートル以上はある巨体が、水面から這い出るようにヌルリと砂の中から姿を現す。牙をむき出しにしたその口が、投げ捨てられた子供へと迫る。
目がなく、口には大きな牙が円状に並んでおり、口の中にも牙が沢山生えている。
先端が長径5メートル、胴体中心が10メートルはある。尻尾は頭と同じ大きさで、中心が太く左右に行くほど細いという奇妙な体をしていた。
そのまま投げ捨てられ、倒れたままの子供に蛇の様な動きで、伸び縮みしながら近づくとパクリと軽々子供を咥え上げた。
『や、やだぁっ……やめ――!!』
意識を取り戻したのか
子供の絶叫が聞こえて来る。
心臓の音がわかるほど鼓動を打っている。
自分の身体が自分の体ではないような感覚。
恐怖に駆られ、身動きすら取れず、目を逸らすこともできず、石になってしまったかのように、その場から眺めることしか出来ない。
サンドワームは苦しむ子供をゆっくりと捕食した。
ゆっくり、ゆっくり―――
「――――!!」
子供の絶叫!
言葉にできない
「ぐちゃっ……じゅるり……グシュッ……」
円状に並んだ鋭い牙の隙間から
笑い声のような鳴き声がする。
この怪物は、あえて獲物が苦しむ方法で捕食しているようであった。
1人を平らげると、他の馬車が逃げた方を見つめ
、その長い体をゆっくりと持ち上げた。
上半身を縦に伸ばす、体がどんどんと上に伸び、その変わりに10メートル程あった胴体が細くなり顔と同じ太さまで縮んでいく、目測で20メートルほどの全長になった。
どうやらあの胴体は伸縮させる事ができるだけで今の長さが元の大きさらしかった。
見上げる様な体をS字に曲げ、他の馬車が逃げた方向に口を大きく開く。
口の周囲に光が収束し、茶色く輝く巨大な光球が形を成す
――――ドパンッ!!!!―――
口元から大量の砂が光線のように打ち出され、空気の裂ける様な大音響が響いた。
馬車の跡を辿る様に光線は縦一直線に伸びて行き、豆粒ほどに小さくなっていた馬車を大地ごと紙でも裂くように簡単に割った。
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