異世界行ったら魔法ではなく氣の力で敵を倒してます。
@Negropass
異世界
冷たい風が肌を刺す。砂の匂いが鼻をかすめた。足元の砂がじわりと沈み込む。どこまでも広がる砂丘。そのただ中に、自分は独り立っていた。
地面に目を落とした。
朝日を浴びて、長く伸びた自分の影が映っている。
風で砂が流れ、ぼんやりとした輪郭が揺れる。
背は高くも低くもない。目にかかる長い前髪が、影の中で揺れた。
どこにでもいる、普通の男。
「……どこだ、ここは?」
声が震える。周囲を見回す。果てしなく広がる砂丘。風が舞い上げる砂塵が、視界を霞ませる。
「まさか……砂漠?」
自分で出した声が震える。
この光景が信じられない。
着の身、着のまま—しかも裸足だ。
手元には何もない。じわじわと焦りが込み上げる。
「どうする?このままだとヤバいよな。」
黒い短パンに無地の黒いTシャツを身に着け、靴は履いておらず、寝巻きのまま。
この肌寒さは夜明け前の冷え込みだろうか。遠くに陽の光がゆっくりと昇り始めている。
視界に入るのは、砂丘が連なる広大な砂漠だけだった。
(そういえば、砂漠は夜が極寒で、昼は灼熱なんだっけ?)
太陽が上昇すれば、辺りは途端に灼熱地獄になるだろう、水がなければ危険だ。
とにかく脱出するため歩くことに決めた。
歩く。歩く。歩く。
彼の心は焦りと恐怖に圧されながらも、前進して進むたびに自分の置かれた状況について頭の中の疑問は増えていく。
根気強く2時間ほど歩いた頃だろう、周囲が次第に暑くなってきた。
焼けつくような熱気が全身を包む。ほんの数時間前まで寒さに震えていたのが嘘のようだ。
砂は容赦なく素足を焼き、地表からの熱気で目の前が歪む。呼吸するたび、肺が火を噴くような錯覚に襲われた。
汗だくでとにかく歩いた。
「のどが渇いた…」
この暑さと、熱せられた砂が足に与える苦痛。
この状況はどうやら幻覚ではなく、現実らしい。朝起きたら砂漠にいるなんてあり得ないし、これだけ歩いて何も見えないのも異常だ。
気づいた時には既にここにいたので、最後に水分を取ったのは昨日の夜だった。
その事実を思い出すと、彼はますます窮地に立たされていることを痛感する。
頭がぼんやりしてきて、何も考えずにひたすら前進を続けた。大きな砂丘を登り切り、視界が広がった瞬間、遠くに砂埃が映る。
「あれは…車?」
立ち位置が高い砂丘の上だから、手を振れば誰かに気づいてもらえるかもしれない。
「おーい!ここだー!助けてくれ!」
力を込めて声を上げ、両手を振った。
近づくにつれ、輪郭がよりはっきりと見えてくる。3台の馬車が、恐竜のような生き物に引かれて走っていた。
その異様な光景に驚き、彼は慌てて馬車の視界から見えない砂丘後へと身を隠す。
「おいおい、なんだあれは」
砂丘天辺から少し頭を出して、馬車を観察する。馬車は4メートルほどの長さで、車輪ではなくソリで砂の上を滑るように進んでいる。恐竜は全長約4メートル、体長は2メートル近くあり、全体的に筋肉質で強そうだ。
恐竜たちが走るたびに砂埃が舞い上がり、その勢いは圧倒的だ。
3台の馬車の周囲には10人ほどの人間がいて、腰に剣を差したり、背中に槍を背負ったりしていた。また、1メートルほどの杖を持った人間もいた。彼らは、馬車を引く恐竜よりも一回り小さな恐竜に乗って走っていた。
彼らは何かに慌てており、後ろを気にしている様子で、こちらには気づいていなかった。
先頭を走っていた男が、何かを叫んでいる。
「サンドワームだ!荷物を捨てろ!速度を上げろ!」
その言葉と共に、砂が激しく舞い上がる、足元から振動と地鳴りのような音が響いた。
ズシャァァァァ!!!
地面が裂けた。大地そのものが跳ね上がるように砂が吹き上がる。
次の瞬間、最後尾の馬車が宙を舞った。まるでおもちゃのように、バラバラに砕け散る。
視界の先に——巨大な影が立ち上がる。
「なんだあれ!?」
彼は驚いて声を上げた。
砂埃が消えると、そこにいたのは巨大なミミズのような生き物だった。
その生き物は茶色く、胴体には濃い茶色の輪状の模様が等間隔に並んでいる。
「クソッ、遅かったか。」
「かなりの大きさのサンドワームだ!破壊された馬車だけでは囮が足りん、2台目から商品を出せ!」
馬車の先頭を走る男が2台目の馬車に近づき、恐竜馬車の御者に命じた。
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