ソーシャルメディアの生存関係——Twitter、Instagram、TikTok⑤
本稿はここまで、2010年代以降に登場したソーシャルメディアであるTwitter、Instagram、そしてTikTokのソーシャルメディアの構造的特徴と、その制約下で展開されるユーザーの文化形成を論じてきた。ここで扱った三つのソーシャルメディアの登場は、スマートフォンを中心とした技術的な発展を大きく関係している。すでに述べたように、スマートフォンの登場とほぼ同時期の登場であるTwitterはテキストベースのソーシャルメディアであり、画像や映像といった高い処理を必要とする要素を実装しないことによって、非常に早い時期にソーシャルメディアとして登場することを可能にした。Instagramが登場する前年の2009年にはLinuxベースで作成されたandroid OSが登場し、それまではAppleが独自規格で製造していたスマートフォン向けCPUなどに対して多数の半導体メーカーがAndroid向けCPUを公開することで、事実上スマートフォンにおけるハードの競争による技術進化が行われた[17]。画像を高画質で撮影でき、また従来はAdobe PhotoshopなどのPC向けソフトでしかできなかった画像処理がスマートフォンで可能になったのは、このような技術的影響が大きいといえる。以上から画像ベースのソーシャルメディアとしてInstagramが先に登場し、そしてさらなる発展によって動画ベースのTikTokが登場したと考えることは難しくないだろう。この点で、各ソーシャルメディアの登場はスマートフォンのハード的側面の成長と大きく関係している。
しかし、これまでの節を振り返れば、各ソーシャルメディアを使用するユーザーが作り上げる空気や様式は、それぞれのソーシャルメディアによって大きく異なっている。それによって、本稿はじめに取り上げたTwitter上の「#TwitterとTikTok合併許すな」という声がなぜ生じてきたのかが明らかになる。その最大の差は匿名性に関係している。2000年代前半の2ちゃんねるにおけるアングラ・サブカル的な文化規範の影響を受けて登場したTwitterは、そのアングラ・サブカル的特性をある種の匿名性、すなわち自身の詳細について記述しないことによって担保されている。冒頭に述べたTwitterユーザーにおける自身を「陰キャ」と称する理由には、このようなTwitterの歴史的背景が内在されていると考えられる。一方で、TikTokユーザーは自身の顔を動画上で撮影し、投稿することに対して全く躊躇することはない。ユーザーは映像の中で自身の顔や撮影地など、ユーザーの特定を容易にするような情報が多く組み込まれた動画を投稿し、ソーシャルメディア上で共有する。この点において、TikTokはTwitterの有していた匿名によるユーザー同士の連帯といった文化を有しておらず、全く異なった文化形態が存在しているといえるだろう。このような全く異なった文化形成をメディア上で行われたからこそ、TwitterユーザーはTikTokユーザーを非難し、そしてTwitterという10年来のソーシャルメディアが他の新たなソーシャルメディアにとってかわられることなく存続し続ける理由である。
では、Twitterにおけるユーザーの文化が2ちゃんねるに依拠するとすれば、自身の顔出しに躊躇しないTikTokの文化はどこから生じているのだろうか。その出発点こそ、本稿で扱ったもう一つのソーシャルメディアであるInstagramにある。既述したように、Instagramユーザーは最初期においては日常風景を撮影し、それを共有するためのアプリとしてのみ機能していたが、一方でそれに対して自身をコマーシャルするような「映える」写真を投稿する文化がいわゆる「インスタ映え」という名前とともに登場してきた。Instagramにおけるこの二つの使用法のうち前者の使用法が全世界のユーザーのうち八割以上を占めると主張したマノヴィッチの主張にのっとれば、Instagramユーザーの大半は「インスタ映え」的なものを意識しておらず、有名インスタグラマーが投稿するような「映える」写真を投稿するユーザーは全体の二割ほどということになるだろう。マノヴィッチが著作の中で例示する日常写真を参照すれば、それらは基本的に「どこかの景色」であり、個人が特定されかねないような要素のある写真は登場しない。その点でInstagramユーザーにおける八割はおおよそTwitter的な匿名性を持っている。それに対し、残り二割のユーザーの使用法はそれ以前のTwitterにおける文脈とは明らかに異なったものであり、ここに今日のTikTokにおける「顔出し」の文化の起点を見出すことが可能だ。この点で、TikTokの動画はニコニコ動画における「踊ってみた」動画とも異なったものである。TikTokの構造的特徴より生み出されたユーザーの文化は、Instagramに大きな影響を受けながら、まさしく現在進行形で新しい様式を生成しようとしているといえるだろう。
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