ソーシャルメディアの生存関係——Twitter、Instagram、TikTok④

 上述したように、画像ベースとなるInstagramは芸能人が自らのイメージを視覚的に宣伝するための有効なツールとして利用され、その影響を受けた一般ユーザーも次第に自身の顔出しに対して躊躇することが無くなったソーシャルメディアである。この変化は初期ネット文化の流れを継承する2ちゃんねるや、その流れを継承するニコニコ動画、そして初期のTwitterにおいては見られなかった状況である。Instagramの「ストーリー機能」がTikTokの機能を類似していることを踏まえれば、TikTokにおけるユーザーが顔出しに躊躇しない姿勢は、Instagram的な姿勢が背景にあるのではないかと考えられる。そして、それらはTwitter以前の原則的に匿名で展開されたネット文化とは異なるものだ。


 InstagramはTwitterから四年後、2010年にサービスを開始したソーシャルメディアである。InstagramがTikTokのタイムライン機能を模倣したような「ストーリー機能」を搭載していることは先述したが、2010年にサービスを開始した当時にはそのような要素はなく、画像を投稿し共有し合うソーシャルメディアとしてTwitterとはまた異なったものとして登場した。Twitterが登場する2000年代が今日的な情報環境のモバイル化が進行した起点に当たる時期であることは前節で指摘した通りだが、Instagramがサービスを開始した2010年頃はすでにその進行がある程度熟成しており、それゆえにInstagramは画像投稿をPC向けOS(Windows、Mac、Linuxなど)ではなくスマートフォン向けOSに限定したものとしてスタートした[12]。この姿勢は今日においても一貫されており、この点はPC上でも投稿が可能なTwitterと比較してより厳しい構造的制約が課されていると言える。


 Instagramでは、ユーザーは画像をコンテンツの投稿を行う際に必ず画像を掲載し、テキストはそれに対するキャプションである。キャプションとしてのテキストは決して必須要素ではなく、それゆえにTwitterにおけるテキスト上の表現によって行っていたユーザー間の連帯をInstagramが同様に展開することはできないが、一方でInstagramユーザーは投稿する画像に独自の様式を取り入れることによって、Twitter上でも見られたような特殊な文化形態を獲得している。2017年にユーキャン流行語大賞にノミネートされた「インスタ映え」という表現は、まさしくInstagram上で評価される特殊な様式美が構築されていること、そしてそれを支持するユーザーコミュニティが存在していることを証明しているだろう。では、Instagramにおける独自の様式とは何だろうか。


 そこにはTwitterにおける「全角140字以内」の制限にように、画像投稿が原則スマートフォンのアプリケーションでしかできないこと、また投稿画像は必ず正方形にリサイズされるという構造的制約がある[13]。この正方形という画像の形式は、1970年代を中心に流行したインスタントカメラを参考にしている。Instagramのアイコンは一貫してポラロイド社の「インスタントカメラ」や富士フィルムの「チェキ」にも見える四角いカメラをモチーフとしているが、これらのカメラはいずれも持ち運びの手軽さや、その場で撮影した写真を共有できるという手軽さが特徴だ。この点からも、Instagramが手軽に写真を撮影してそれを共有する文化を尊重していることが分かる。Instagramの創設者であるケヴィン・シストロムは、その設計においてユーザーが自らのスマートフォンで手軽に写真を撮影し、かつその場ですぐに共有できることに重要な意味があることを示しており、それゆえにPC上からの画像投稿を制限しているという[14]。


 このような構造的特徴に縛られたInstagramユーザーは、その初期においては設計の意図通りに日常風景を撮影し、投稿することで巨大な日常写真のデータベースを構成していた。メディア研究者のレフ・マノヴィッチは1000万枚を超える画像をInstagram上から収集し分析した結果、2017年時点で日常写真がInstagramに投稿された全ての写真のなかでも八割強を占めていることを主張している[15]。だが、アプリケーションが次第に一般化され、ユーザー数が多くなるにつれて、そのような「足元だけ写した写真や、顔を半分だけiPhoneで隠した自分撮り写真や、手元だけ写した写真や、右斜め上から顔を写した写真や、シャレ乙な空の写真」が揶揄され、それが新しい様式を形成する大きな起点となったと、古雑誌収集家のばるぼらは主張する[16]。ばるぼらによると2011年ごろより女性の自撮り写真がInstagram上で急増しており、その背景には芸能人に代表される有名人によるInstagramへの参入である。彼らはマスメディア上では見せない「日常風景」を投稿しつつ、一方で自らコンテンツを提供するというInstagramを巧みに利用しつつ、自己を宣伝するための「映える」編集を付け加えながらInstagramを利用し続けた。そうして、数多くの有名人による投稿に影響を受けた日本のInstagramユーザーは、Instagramの構造を設計したケヴィン・シストロムの意図を越え、有名人の提供する「非日常的な日常写真」とも言えるコンテンツを模倣しながら独自の形式を形成しているのだ。

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