第10話 目的

(愛美)

思っていたより集まりが遅いわね。

13時。

この腕時計もいつまで機能するのかしら。


愛美「もう13時だけど、まだ全員揃ってないね」

明梨「そうだね、でもあと来てないのって望と紗耶香よね?」

愛美「うん、多分」


望「すいません、遅れました!」

紗耶香「ごめんなさい」


早苗「ちょっと、二人で何してんのよ、こんな大事なことなのに」

沙里奈「まあ良いわ、二人とも無事で、てっきり何かあったのかと思ったわ」

望「ほんと、すんませんした」

沙里奈「さあ、隔離期間中の花柳院くんとの接し方を決めましょう」

航平「接し方も何も、注射して多分1日かそこらで理性なんてなくなる。だから、注射したらすぐに両腕両足を縛っておいた方が良くないか?」

花柳院「笑。」

航平「何か俺面白かったか笑?」

花柳院「いや、発症するまでの時間、トイレ行きたくなっても漏らすしかないのかな〜と。でもまあ仕方ないかな。トイレ付き添い人を噛み殺すなんて洒落にならんし」

航平「だろ笑?そだろ」

花柳院「ほんと君は、なんというか、、容赦ないな笑」

航平「そそ、俺はストイックなのよ」

剛「お前、褒められたつもりか...?」

航平「えっ、違うの?」

沙里奈「正直、花柳院くんには申し訳ないけど、同意してもらえるなら、そうさせてもらいたいのが本音。安全度合いを大きくあげれるから」

花柳院「俺は別にかまわんすよ。全然。危険なまま隔離されて、何ヶ月かしてみんなが油断して一人くらい俺に噛み殺されて、結果俺が知らんうちに処刑されてもたまったもんじゃないし。何よりお前らを噛み殺すなんて胸糞悪過ぎてやだね」

沙里奈「了承してもらえて感謝だわ」

早苗「あと、素っ裸になってもらった方が尚良いわね」

航平「マッパ?」

早苗「そうよ、スッポンポン」

愛美「それは、名案ね」

早苗「全身裸なら、注射を打ってから理性を失い、再び取り戻すまでの間に、もしものことが花柳院に起きた時に何かと対処しやすい。とりわけ、体調面に関してね」

花柳院「これはもはや尊厳のかけらもないね。でもまあ、それも了承するよ。やるならなんでも徹底的にねって言うし笑」

愛美「花柳院、あなたのこと尊敬するわ、本当に」

花柳院「そりゃどうも」

沙里奈「花柳院くんには、申し訳ないけど、隔離期間中はずっと、全裸で手足を拘束された状態で管理させてもらうわね」

花柳院「了解ですよん」

鏡花「姉さん(沙里奈)、注射はこの後少し休憩を挟んで15時でよかったよね?」

沙里奈「ええ、それでは、一度解散。花柳院くんは、ちょっと私と来て」

花柳院「はーい」


(愛美)

いつもだったら、また明梨と一緒に過ごそうと思ったけど、今はなんだか一人になりたい気分。花柳院くんの注射まであと30分ある。少し風と日を浴びてこよう。

みんなが去った体育館の上、少しだけ屋外に突き出た場所がある。

愛美「ふ〜〜」

桜柳街で手に入れた貴重なタバコ。こっそりと吸うこの瞬間が、この荒廃した世界の中で私が見つけた唯一の憩いのひととき。

花柳院くん。すごい度胸。私には絶対にできない。せっかく生き延びた命をそんな不確かなことに使えるなんて。

でも半年後、無事に花柳院くんが理性を取り戻して来たら、私たちは、大きな戦力を得る可能性があるってことよね。多分沙里奈さんはそれを十分に理解している、悟っているからこそ、あんなに前のめりなんだ。あのボイスレコーダーの人が言ってた。これは桜第一高校だけじゃないって。もっとスケールの大きいこと。だとしたら、全世界的に花柳院くんのような人がいて、理性を取り戻すまで肉体を維持できていたら、、、

愛美「やれやれ、もう一本吸っとくか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ああ、愛すべきパスカル カンツェラー @Chancellor

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ