八話 命を落とすぞ
「おお、よく来たな不死川! 待っておったぞ」
城の最上部。部屋一面が黄金で照り輝いた大きな一室『王の間』に上半師李々湖はいた。
決戦の時とは変わってその表情はこわばっておらず、部屋と同色のその髪はきれいに光を纏っていた。女王の割に、上半師は黒のTシャツのような服でとてもラフだった。
上半師は香花を視線に入れるや否や、玉座を離れ、するりとステップで近づいてくる。
「お主が来るのをどれほど待ちわびたことか! 先の戦いではだいぶ体力を消耗しておったからのう……。しばらくは立ち直れぬかと懸念しておったがピンピンしておるわ! 頑丈じゃのう!」
「そんなに心配してくれてるのなら招集をかけないでくれるかしら?」
「この無礼者が! 上半師様に向かって何たる口の利き方!」
数十人いる一人の側近が香花に向かって怒鳴った。
「まあよい。こやつの無礼は許す。なにしろわっちのお気に入りじゃからのう。並大抵のことは大目に見てやろう」
「し、しかし上半師様……」
「わっちが許すといったんじゃが……何か不満か?」
喜々としていた瞳が鋭くなり、側近の一人を睨みつける。
「ひっ……そ、そんな滅相もないです……」
吠えていた側近が頭を下げ、黙り込む。
そうだ、この殺気と気迫、それこそが上半師の脅威だ。
上半師は軽く「こほん」と咳をし、「すまんのう……取り乱してしまって」と、香花に笑みを送った。純粋な笑み、ただそこには「友情」というものは一切なく「好敵手」としての意味合いが大きかった。
「……早く本題に入って頂戴」
「おお、そうじゃな。皆の者、しばらく二人にしてくれ」
「に、人間と二人にするなど……! 危険すぎます! 上半師様!」
「…………いつ、お主らの意見を聞いた?」
後ろから忠告する側近に、今度は顔すら向けなかった。だがこの声のトーン、それに背中がすべてを物語っていた。側近が心配して出された助言が上半師を逆なでしたのだ。
「し、失礼致します! 上半師様!」
上半師のその威圧に負け、一人がそう叫び部屋を出る。それに倣って、次々と側近は部屋を後にして、ついには香花と上半師二人っきりになった。
「待たせてすまぬのう、不死川。久々にお主に会えたので珍しく昂ってしまったわ」
上半師は更に香花との距離を詰め、後ろに回り込み、ぎゅっと香花を抱きしめた。香花へ絡まるように両手で肩をつかみ、耳元でそっと囁いた。
「一体いつになったら、わっちをもっと楽しませてくれるのじゃ? お主の力ではまだこちらも本気を出せぬぞ……早く……もっとわっちを高ぶらせてくれ……」
「ハァ……ハァ……」と息遣いを荒くさせ、上半師は強請った。
香花は仏頂面を貫いたままだった。
「早く私を呼んだ用件を言って頂戴。じゃないと帰るわよ」
「……ふん、相変わらず冷たいのう」
香花から離れ、つまらなさそうに上半師はふらふらと辺りを歩き回る。
「今回、お主を呼んだのは他でもない、依頼じゃ」
「で、しょうね。内容は?」
「まあ、待て。そう焦るな。ゆっくり説明させろ」
「こっちはあんたのせいで仕事を無断で休んでるのよ。さっさとして」
「そんなことわっちが知ったことか。ま、今話してやるわ。……『蝶の森』というところを知っておるか?」
「聞いたことないわ」
「そうか、この城の正門から通ずる道の途中にある離れた森なんじゃがな。……最近、そこの近辺で行方不明者が多発しておる。お主らにはその原因を突き止め、解決してほしいのじゃ。その道は貿易上どうしても必要となってくる道じゃからのう、そこが使えんとなると、こっちとしてもかなりの痛手なんじゃ。迅速に頼むぞ」
「分かったわ。じゃあね」
「待て、不死川」
「何? 迅速にって言ったのわ、そっちよ」
「確かにわっちが言ったが、もう少し話を聞いていけ」
「いやよ、こうしてる間にも時間がもったいないもの」
「あの小娘の話でもか?」
その発言に部屋の大きい扉に手を出していた香花がぴたりと止まり、扉には手を付けずに上半師の方へ振り返った。
「今、何て言った?」
「あの小娘の事でもか。と、そう訊いたのじゃ」
「あの子は今関係ないでしょ。私の気を止めたかった妄言かしら?」
「違う。1つお主にアドバイスをしようと思ってのう。お主もあの小娘も、このままの状態じゃと、命を落とすぞ」
「……なんでそう言い切れるの?」
「言い切れるとも。お主、ずっとあの小娘を庇うつもりじゃろ? あれはお主のような実力者で守り切れるような代物ではない。小娘の能力を危険視したり、欲しがったりするものは絶対多く存在してくる。お主がどれだけ強かろうが、あの小娘自身も実力を持たねば、生きてはいけぬ。そういうわけじゃ」
「余計なお世話よ。あの子はどんなことがあっても私が守るわ」
「なぜそこまであの小娘にこだわる? 何故すべて背負おうとする? お主があの小娘を守ろうとしていることは十二分に伝わった。じゃが、一人では限度があるのじゃぞ。お主がやっていることは守っているのではない。ただ、小娘を甘やかしているに過ぎないのじゃ。それがそのうち、お主らを殺す行為になりかねぬこと、頭の中に叩き込んでおけ」
「………………」
ひゅ――――……ばたん。
挨拶も会釈もなしに、香花は部屋を後にした。
香花が部屋を出た後、上半師は静かに笑っていた。
「ふっふっふっ、これで良い。あの小娘は絶対わっちを楽しませる逸材と成り得る。これでまた1つ楽しみが増えたわい」
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