五話 四八目の反応

「あーいってぇ、くっそ……相変わらず加減ってやつを知らねえんだからよぉ」


 ヒシメをバリボリと猫のように口で加えながら食べ、四八目は文句を言っていた。四八目が目覚めたころ、ナナと香花は食事をすでに終えていた。


 香花は四八目に構わず、食器洗いに専念していた。


「四八目さん、大丈夫でした?」


 香花の手伝いをしていたナナが四八目に気づき、接近する。


「大丈夫なように見えるかよ……くそっ」


 四八目は苛立ちながらヒシメを食べ進め、ついには骨ごと完食した。品のない食べ方にナナも一定の距離を置いた。


「何引いてんだよ」


「す、すみません……つい」


「食べ物を大切にしてんだ。最低限の礼儀ってやつだろ」


「は、はぁ……」


 四八目さんの口から礼儀の話が出てくるとは……。ナナは思わず耳を疑った。


「四八目さんも……そんなに強くなるまで……修行とかしたんですか?」


「あ? なんだよ、藪から棒に、香花とそんな話でもしてたのか?」


「えぇ、まあ……」


「そりゃあしたさ、まあ俺の場合、生まれつきの才能ってやつがあったからよぉ、それほどガッチガチにトレーニングしたわけじゃあねえな。初めのうちは香花以上の実力を持ってたわけよ」


「え! すごいですね! それ!」


「だろぉ?」


 得意げに鼻を鳴らす四八目。香花は食器を洗いながらもすかさず、口をはさんだ。


「最初の方だけでしょ、それ。天狗になってたあんたは、すぐ私に追い抜かれたじゃない」


「うるせぇ! おめえ、負けず嫌いすぎるんだよ! 俺に負けてから死ぬほど特訓してくるしよぉ! どんだけ頑固なんだよ!」


「だって四八目の下とか考えたくもないし、私の能力を見込んでも自分の基礎を鍛えるしか方法がなかったのよね」


「ははっ! そうだな! おめえの能力はアレだもんな! はっはっはっは!」


 高笑いする四八目目掛けて香花は振りかぶってお玉を飛ばす。お玉は四八目の頭に当たり、ゴキンッと鈍い音を出す。


「ぐはっ! いってぇええええ! くっそぅ! なんでそんなバカ力なんだ! ゴリラ女!」


 頭に直撃したお玉をナナは確認する。四八目の頭に直撃した部分は見事にへっ込んでいた。これはもう使い物にならなそうだ。


「うぅぅぅ……ってかおめえ、なんで急に俺の修行について聞いてきたんだよ」


 頭を押さえながら四八目は逆に問いただす。


「え? えっと……それはですねぇ……恐れ多いですが、私も二人のように強くなれないかなぁ……なんて」


「あ? おめえがか? 蚊も殺せねえような実力しか持ってねえおめえがか? おめえがなんで急に強くなりてえって思うんだよ」


「じ、実は最近、ある人から『強くなるべきだよ』って言われて……」


「あ? ある人って誰だよ?」


「それが私も名前は知らなくて……珈々さんのお店でアルバイトしてた時に来たお客さんなんですけど……すごい変わっている人で……その人からアドバイスで『強くなるべきだよ』って……」


「はぁ? なんじゃそりゃ、どこの馬の骨か分からない奴のアドバイスなんか聞いて真に受けてんのかよ。胡散くせえ話だ」


「で! でも、その人ドクミドリ美味しいって言ってましたよ!」


「お! そいつぁいい奴だ!」


 前言を撤回するように四八目は食いついた。その単調ぶりにはナナも苦笑いで返す他なかった。


「そいつどんな奴なんだよ?」


 ワクワクしながら同類の特徴を訊く四八目。その無邪気さはまるで主人が帰ってきた犬のようだった。


「え、えっと……オレンジ色の髪で右目に眼帯をしている……細目の変わった人です」


 そのナナの発言に四八目は硬直した。まるで時が止まったようだった。四八目から笑顔が段々と消え、ついには深刻な顔つきになった。


 そうして四八目とは思えない小さな声で「オレンジの髪……右目……」と呟き、口元を右手で隠した。その様相はひどく悲しそうで、ナナはこんなにも哀愁漂う四八目を見るのは初めてだった。


「あのう……四八目さん?」


 瞳から涙を浮かべだした四八目にナナは声をかけた。ビクッと反応した四八目は急いで涙をこらえ、袖で拭いた。


「お、おぉ、わりいわりい……そうか、この島にも俺と味覚が合う奴はいるんだなぁ。ははっ……」


 そう言い終えると四八目はこれ以上この話について触れようとはしなかった。明らかな反応と対応に、疑問を持ったナナだったが、四八目の様子を察して口には出さなかった。


 ……あんな四八目さんは……初めて見た。


 香花は食器洗いに専念していたのか、特に口をはさんでくることはなかった。

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