三話 分身と再会
魔女がいなくなった後、珈々に弁明を試みるもいまいち信じてはくれなかった。
珈々が覗き見し始めたのは、ちょうどナナがのろけ話を始めた頃で、その時にはカウンター席は空だったらしい。数秒しかない時間で席を離れてカフェから出るのは確かに不可能だった。
気味が悪い体験ではあったが、魔女の性格と人柄のせいか、怖いとかいった恐怖は感じられなかった。
強く……か。漠然としていて現実味のない魔女のアドバイスがナナの耳から離れなかった。
……香花さんたちはどうやってあんなに強くなったんだろう? やっぱり修行とか……したのかなぁ。地人、複数相手にしてもへっちゃらだったし……想像を絶するような鍛え方を……してきたのかなぁ。私はそんな修行に耐えることができるのかな……?
「――――ナ……ナナ…………おい! ナナ!」
「え! あ、はい!」
「どうした! 俺が来た時からずっと上の空でよぉ! せっかくこの四八目様が香花の飯を食いに来たっていうのに! 浮かねえ顔しながらぶつくさぶつくさ考え事なんかしやがって! 辛気臭ぇぞ!」
「うるさい奴ね……文句ばっかり言うんだったら帰ってもいいわよ」
「うるせえ! こっちはナナに招待されてここに来てんだ! わざわざ分身まで作ってよぉ! おめえの飯食わせてくれるっていうから時間作って来てやったのに……! 茶くらい出せよ!」
「はい、お茶」
「ど、あっちぃ! 茶ぁ投げんな!」
四八目は投げ渡された湯呑を床に置き、フーフーと手を冷ました。ナナ、香花、四八目、その分身がこの空間、不死川家にいた。
ナナが戦争の時に四八目と分身に約束した『ご飯』の日が今日だったのだ。
「ったく、なんで俺は分身作らなきゃあいけねえんだよ。ナナ」
「すみません、四八目さん。Bともご飯食べるって約束しちゃったので……」
「Bィ? 今はこいつしか作ってねえから、実質こいつは『A』だぞ、馬鹿たれ。それに分身たちには記憶がねえから、おめえが俺の分身とどんな約束しようがお前しか覚えてねえんだ。俺も分身もそんな話記憶にねえんだよ」
「そ……そうなんですか……ちょっとショックです」
Bとの思い出が自分にしかないという事実がナナには衝撃的なことだった。少しの時間ではあったが、打ち解けることのできたBの存在は四八目とはまた違う別の人間だと思えていたのだ。そんな友人を一人失ったような喪失感があった。
「ってことで、分身は引っ込めてもいいだろ」
「で、でも! 私は分身さんと約束したんです! その人がAだろうがBだろうが、分身さんとは一緒にご飯を食べます!」
「強情な奴だなぁ」
「まあまあ、いいじゃねえか、俺も一緒に飯食えばよぉ」
「うるせえ! なんで分身のおめえまで乗り気なんだよ! 大体、食べる人数は少ねえほうがいいだろうが! 食費的にも! そうだろ、香花ぁ!」
「私はもともと四人で食事するって聞いて、四人用の食料を買い出ししといたから別に文句はないわ」
一人、台所でせっせと調理している香花はこちらに視線を向けずに返答した。
「ちぇっ、みんなしてなんだよ。誰のおかげでこんな体になったんだかよぉ。戦ってる最中に激痛が走って、大変だったんだぞ!」
そう、Bのあの重傷は四八目本体にも深刻なダメージだった。Bが言っていた本体にもダメージが入るという話の通り、四八目は今でも右腕にギプスをはめていた。頭も包帯でぐるぐる巻きにされており怪我人であることは一目瞭然だった。
「すみません、四八目さん……私がわがまま言ったせいで……」
「誰もおめえを責めちゃいねえよ。慢心してた分身が悪いんだ」
分身を睨みだす四八目の視線をAはぷいと外した。
そんなことはない。と否定しようにもナナにはそれができなかった。四八目がこうして重傷を負っているのもナナが元凶だったからだ。
罪悪感で押しつぶされそうになっていると、香花が「ほら、ご飯出来たわよ。場所空けなさい」と言いながら焼き魚やら味噌汁やらを運んできた。
会話は一時中断され、四人は「いただきます」と合掌をし、料理に箸をつけた。
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