十三話 上半師家

「どぅっせい!」


 ナナを担ぎながら敵兵を蹴散らし、四八目は駆ける。


「邪魔するなぁ! 雑魚どもがぁ!」


 獅子の如く咆哮を放ちながら四八目は止まることを知らない。こんな人に挑んだのか……と、ナナは過去の行動がどれほど無謀であったのかを知り、身を震えさせる。そんな四八目を軽々しく返り討ちにしていたのが香花だ。四八目さん以上に強い香花さんが負けるわけないんじゃ……。淡い期待を胸に、ただただナナは四八目の背にしがみついていた。


「四八目さんの分身さん」


「あっ? なんだそのまどろっこしい呼び名は?」


「え、じゃあどう呼べばいいですか?」


「本体の奴は『A』とか『B』とか呼んでるぜ。まあ、俺は本体が他に一体動かしている間に作られたから『B』にあたるかな」


「じゃあ、四八目Bさん」


「Bでいいっつったろ!」


「ご、ごめんなさい! B……上半師って王女はそこまですごく強いんですか? 私、あの香花さんが一人相手に苦戦を強いられている様子が想像できなくて……」


「おめえ上半師について何も教えてもらってねえのか?」


「……何も教わってないです」


「そうか……上半師っていうのはな、この島に住む誰もが知っているくらいの有力一家だ。李々湖の先々代まではその上半師家ともう一家、下半師しもはんじ家っていうのが肩を並べていたんだがな。ツートップってやつだ」


「先々代まで?」


「ああ、李々湖の先代が王位継承された時に下半師家の奴らを国外追放して、従わない奴を皆殺しにしたんだ」


「ひどい……どうしてそんなことを……」


「下半師家は代々、人間を擁護してきた側の一家でな。上半師家はその方針を嫌っていたんだ。下半師家と上半師家の勢力は大差なかったんだが、先々代くらいから下半師家が勢力を落とし始めてな。それを機に上半師家が攻め込んだってわけだ」


「でもそれは先代までの話であって、李々湖自体にそんな力はないんじゃ……」


「まあ、最後まで聞けよ。話には続きがあんだよ。実はその先代が下半師家を滅亡させてからすぐに亡くなったんだ。原因不明の急死ってやつさ」


「へえ、それはまた急な出来事ですね」


「のんきに言ってんなあ。……もしかしたらそれが李々湖の仕業なのかもしれねえんだ」


「え、実の父親を殺したてことですか?」


「ああ、風のうわさで聞いた話なんだがな。李々湖と先代は関係が悪かったらしくてな、今回の急死も李々湖が絡んでるんじゃないかって噂が出回ってるんだ。もし、それが本当なら李々湖は強い。下半師家の滅亡に一番貢献したのが先代だったからな。それを超える実力があるとすれば李々湖の力は上半師家歴代最強だ」


「そ、そんな……」


 それを聞いてナナは震えた。心の奥底から恐怖した。いつものナナであればここで逃げ出せた。しかし、今のナナは逃げ出すどころか、香花の心配で頭がいっぱいだった。


「……B、香花さんのところにはあとどれくらいで着きますか?」


 ――こいつ、自分のことよりも香花の心配をしているのか。俺にまで震えが伝わっているのによぉ。


 ナナの気持ちがうれしくなったのか、Bは李々湖の話をしていた時よりも声量を上げ話した。


「へん、ナナのくせに血の気が多いんじゃあねえのか! 安心しろ! もうすぐそこだ! ほら、あれを見てみろ!」


 Bはおぶっているナナを左手で支えながら、右手をまっすぐに伸ばした。Bが指を差した方角を見ると、そこには沢山の兵たちが何かを包み隠すように円を描いているのが分かった。それもかなり大きな円だ。そこにいる兵たちは全員、内側を覗いており何やら声援を送っているように見える。あそこに香花さんが――!


 緊張と期待が胸の振動を高ぶらせる。今にも心臓がはちきれそうになる。身をすべてBに任せているのに、沸き立つ汗や高鳴る振動を止められない。


「おいおい、ここからそんなんじゃあ困るぜ!」


 鼓動が聞こえたのか、Bがナナを横目に口を開いた。


「おめえには俺たちのリーダーを救ってもらわなくちゃあいけねえんだからな! 後悔したって絶対連れていくぜ!」


「こ、後悔なんてしてません!」


「はーん! そうか――!」


 四八目がそう言い切る前に何かが起きた。二人の体が突然、宙に投げられた。いったい何があったのか。Bが目の前にいたかと思えば、そこには空の青があった。飛ばされた……何で? どうやって? 思考が整理できないまま、ナナの身体をBが視界の外から包み込んだ。そうして二人は地面に落ちた。

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