十話 心配無用
「これは……」
鳩が豆鉄砲を食ったようにナナは口を大きくぽかんと開けていた。目の前では白い煙の中から四八目がもう一人現れるというマジックのような光景が描かれていた。
「これは俺の分身だ」
「分身……?」
四八目は誇らしげに分身とやらの右肩に手をポンポンと叩いた。不思議そうにナナはその周りを一周し観察する。背丈、恰好、髪、目元、口元、耳の大きさ、手の大きさ、どこをどう取ってもそれは四八目張本人だった。
「まあ、俺は分身ってのができてよぉ、こいつも俺の一部見てえなもんだ!」
「分……身……」
にわかには信じがたい風景だが、さっきの四八目に助けられたシーン、それと四八目に初めて会ったシーンなど、確かに合点がいくところは多かった。
「偉そうに語ってんじゃあねえよ。リーダーぶりやがって」
「んだと! 俺が本体なんだからリーダーみてえなもんだろうが!」
「うるせぇ! 俺とお前の能力値は変わらねえんだ! 本体だからってだけでえらそうにしてんじゃねぇ!」
「何をぉぉぉ!」
自分同士で喧嘩が始まった。同じ顔、同じ声、同じ背、同じ格好で。奇妙な光景にナナは理解に苦しんだ。
「そ、それで四八目さん! 香花さんのところには!」
「お、おう! そうだったな、香花まではこいつに送らせる!」
喧嘩していた手を止め距離を置き、四八目は分身に指をさし得意げに微笑んだ。
「チッ、指さすんじゃねえよ」と、分身は不満を漏らしながらも「ま、大船に乗った気でいろよ!」とナナの方を向いて胸を叩いた。
分身はどこからどう見ても四八目だった。謎の自信に満ちた仕草と無邪気で純粋悪な顔が瓜二つを描いていた。
だが分身という不確かな存在に一抹の不安をナナは抱いていた。本当にこの人に任せて大丈夫なのかな。
そのよそよそしさを察したのか四八目は「心配すんな、ああ見えても俺の分身だ。安全は保障してやる。早くいかねえと――香花にはおめえが必要なんだろ?」とナナの耳元で囁き、肩に置いていて右手を離し、頭を撫でた。
四八目の励ましに感化されナナは零れだしそうだった涙を手で覆い隠した。四八目は戦うにしろ、ふざけるにしろ、いつだって裏表もなくまじめな人柄だった。涙をぐっと堪え前を見ていった。
「……四八目さん、ありがとうございます。香花さんと一緒にまた……朝ごはん食べましょう!」
「おうよ!」
満点の笑みを浮かべた四八目は分身に「任せたぞ」と残しその場を後にした。珈々への対応に頭を抱えつつもナナの珍しい笑顔を思い出し少し笑みを浮かべた。
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